a (k)night story ~騎士と夜の物語~⑧
***
目を開けているのにまるで月のない夜の闇の中のように暗い。
左目が良く見えない・・・額から顎にかけて温かいものがどくどくと噴き出して顔半分を浸し、首筋や後頭部までずっと流れているのがわかる。
なぜだろう、痛みを感じない・・・ただ、とても、寒い。
闇の中、目の前に斃れた戦士の姿が見える。
あれは・・・俺だ。
闇が足元から徐々に身体を這い上がってくる。
眠りに落ちていく時のように身体の感覚が消えていく。
***
「サー。サー・ユージーン。大丈夫ですか?」
サー・ユージーンが目を開けると不寝番をしていたサイラスがロウソクを手に枕元に佇み、心配そうに彼を見ている。
「ん、ああ。どうかしたか?」
「いえ、うなされていたようなので起こしました。水を差し上げましょうか?」
「そうか。ああ、悪いな」
「良いんですよ。めずらしく飲みすぎましたか?」
「はは。
それほどでもないと思ったんだがな。
ひょっとしたらデュベルのやつに昔話をしたせいかもしれん。
昨日はなんか色々あったからなぁ。ジャンにも久々に会った。
それに・・・」
「あの踊り子、シリンと言いましたね。どちらかで逢ったことがあるんですか?
あの後マリアもデュベルも色めき立って大変でしたよ。はは
・・・あの、立ち入ったことをお聞きしますが・・・以前、親密な方であったとか」
サイラスの言葉にサー・ユージーンは思いのほか真面目な表情で言った。
「馬鹿、そんなんじゃねえよ」
「あ、失礼しました。思い入れのある様子だったのでてっきり・・・。」
「いや、気にするな。正直なところ何なのか俺にもわけがわからん。
きっと何かの思い違いだろうな」
「そうなんですか?
気になるようでしたらウィルバー卿のところへ訪ねて行ったらどうでしょう。彼らが逗留しているはずですよ」
「いや、いい。
・・・なあ、サイラス。一杯付き合わねえか?目が覚めちまった」
「良いですよ。では、私にも昔話をひとつお願いします」
サイラスはにっこり笑うと支度をするために部屋を出て行った。
~⑨へ続く
お読みいただきありがとうございます。
ここまでで物語は前半の折り返しとなります。
もうちょっと続くんじゃよ
さて、物語の解説を少し。
ブリタニアには街の宿屋の他に冒険者は自分の家を持つことができます。
小さな一部屋の可愛らしい家から城まで様々な家がありますが、自分の好みの間取りや外壁、屋根などを自由に選べるカスタマイズハウスも人気です。
室内には大工職人が拵えた椅子や机、様々な家具を好きな色に揃え、インテリアを工夫することも家を持つ楽しみの一つになっています。
ちなみにブリタニアにはベッドも布団もありますが、なぜか寝転ぶことができません。
冒険者はベッドを眺めながら椅子で眠っているんでしょうね。