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a (k)night story ~騎士と夜の物語~⑭

「お前は・・・」

素肌の胸の小さな銀の鏡がちらりと光り、黒い影の笑い声はぞっとするような響きを帯びた。

「そうよ。
あの弓兵の一矢を受け、力の弱まった私はその場を逃れるしかなかった。
その時、私の眷属は全て滅ぼされた・・・。

それでも長い時間をかけて私は力を取り戻し、少しずつ私の新しい眷属をもうけたわ。

そして仇を討ち取るためこの街へとやってきたの。
見つけ出したあの弓兵は地位を手に入れ、今では自らの力で命をやり取りすることなど全く忘れ、この邸宅の中で安穏と暮らしながら退屈しのぎを探していたわ。
 
何の警戒心もなく私たちを屋敷へと引き入れるような者はどうとでもできる。

けれど、殺すだけで仕舞いにしたのではつまらない。
 
だから彼を私の娘たちの慰みに与えたの。

娘たちに愛され、全てを奪われていく恐怖に囚われ、それでも快楽に抗えず、叫んで、叫んで、死んでいくあの姿。

充分に役に立ってくれたわ。ふふ」

「・・・役に立つとはどういうことだ」

吐き気がするような怖ろしい仕業を楽し気に語る黒いサキュバスへ彼は訊いた。

「眷属を殖やすのよ。人間の生命を素にね。

幸いこの街には身体も心も頑強な者たちが多くいる。
その力を与えてくれるなら、見返りにこの上ない快楽をあげるわ。
誰であろうともね。

私たちはそのように出来ている生き物なのだもの。

でも、あなただけは違う。

私は心からあなたが欲しいのよ。ユージーン」
 
シリンの言葉を聞きながら、サー・ユージーンは開いた掌の上におさまっている剣の柄の重さを感じ、自分はまだ武器をなくしてはいないことに気付くと、剣を握ろうと右手に力を込める。

「だめ」

シリンが素早くその手を抑えた。

彼女の細く鋭い金の爪は彼のチェインメイルの腕がまるで素肌であるかのようにぐうっと食い込み、軽く握りしめるだけで右腕がミシミシと嫌な音を立てた。

「だめよ、ユージーン。
どうしてあなたが私を傷つけようとするの?
あなたは私のものよ。そして私も・・・」
 
その時、部屋の外から女の断末魔が聞こえ、その声にシリンは彼女の獲物から身体を離し立ち上がると

「あれは・・・? ああ、私の娘が!人間ども何てことを」
と叫び、黒い翼を広げ部屋の外へと飛び去って行った。
 
サー・ユージーンは呪縛から解けたように身体が動くようになるのを感じてふらふらと立ち上がったが、手にした剣を取り落とした。

右手が利かない。

「・・・畜生!」

彼は吐き捨てるように言うと、左手で剣を握り、シリンの後を追った。


~⑮へ続く

 

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