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【読了】処方箋のないクリニック
およそ10年ほど、医療事務として働いております。
そのため、医療系の小説にはちょっと敏感だったり、そうじゃなかったり。
正直日本のテレビドラマだと「そんな暇な病院なんてないよぉ」と思ってみていられません。
でも小説だと楽しく読めるんですよねー。
そんな私ですが、今回読んだのは医療小説。
シリアスなものではなく、ほっこりするタイプの小説です。
総合病院の敷地内、廃屋となっていた診療所。
そこに短パン姿のドクターと、オレンジ色のナース服の看護師さん。
2人の元には医療に関する相談をしに、患者さんがやってくる。
そんな不思議な、医療相談を扱った短編集です。
医療小説としてはほっこり系なので、医療現場にいる人間からすると多少の物足りなさを感じる部分もありました。
ただ、問題提起している内容には共感できました。
医療現場って当然商売でもあるので、短い時間の診察で、単価の高い医療行為をしたいんですよね。
そうすると医師が患者の話を聞く時間って短くならざるを得ない。
親身にたくさん話を聞いてくれる医師がいる病院は、同時に待ち時間がものすごく長くなってしまう。
医師の数が足りていないと言えばいいのか、それとも診療報酬が安いと言えばいいのか…。
私にも正解はわかりません。
でもたくさんの医療現場を見ていると、患者が求めているものと、医師が提供している(提供できる)ものの差異を感じることはあります。
さらに病院の経営方針なんかも混ざると、まあ大変。
この患者と医療の齟齬に対するジレンマのようなものは、小説に書かれているこにとても共感できます。
惜しむらくは、その疑問への回答が見えてこないことですね。
小説では青島倫太郎ドクターが行っている診療が答えかもしれません。
でもそれもうまく経営できていません。
それに周囲からの批判も存在しています。
ここに上手い折り合いをつける術を私は知りたいです。
と、現代日本の医療の難しさを感じてしまいましたが、そんなことは置いておいても楽しむことができる小説ではあります。
サプリ信者の家族の目を覚まさせたいとか、病院嫌いのおじいちゃんをなんとか医者に診せるとか。
医療に関わる日常的な問題がクスッと笑える感じに書かれています。
気軽に読める医療小説をお探しの方にはぴったりかと思います。