読後感想 わたしのしぶとい生命線/燃え殻 さん
「ブンガクフリマ 28ヨウ」に収録された作品を読んだあとの感想をひとつづつ書いてみようと思う。
「ボクたちはみんな大人になれなかった」の燃え殻さんの作品、「わたしのしぶとい生命線」から。
最初に読んだときは彼女の視点だった。二度目に読んだときには彼の気持ちを考えていた。
3年同棲した彼女に妊娠を告げられた彼は、生むことに生返事の同意をしてから一ヶ月後に中絶を迫る。それまでなんとなく過ごしていた彼が、恐らくやや真面目に考えた期間に「未知の未来」と「彼女と子どものいる将来」を天秤にかけて前者を選び、それは人生の選択を先延ばしにするという選択だった。
中絶後、情緒不安定な彼女をその場しのぎになだめる行為として、実家の母に会わせたときに、「彼女との生活」を選ぶことが現実味を増し、将来を考えるきっかけになったのだと思う。
前回よりも少し真面目に考え、家を出て行くこと=「不確実な未来」を選ぶ。そしてそれは「彼女のいない未来」を選ぶという積極的な選択だった。彼女と話し合うことなく黙って家を出たのは、去り際にうまくいいくるめる言い訳がもう思いつかなかったから。責められず、責められてもうまく言い逃れたり強がってキレてしまえばずっと過ごすことのできた居心地のいい生活が継続不能になったから。
彼はまたどこかで思考停止と選択の先延ばしの生活をしているかも知れない。もしくは偶然、自分に合う仕事とめぐり合ってしぶとく生き抜いているかも知れない。
ヘルス嬢の彼女とお客さんとして知り合っていたなら、どうなっていただろう。彼女に逢うため、週に一度のヘルス代を稼ぐために、何らかの方法で頑張っていたかも知れない。でもその彼女は彼と恋に落ちる彼女ではない。
-深い意味を持った選択肢なんて重いから大嫌い-
そう思っていたとしても、知らず知らず選択を繰り返して大人になっていく。選択が少しずれただけで、今の生活は全く違ったものになる。
選んだことが最善だったかどうかなんて、気の持ちようで何とでも言える。
しぶとい生命線は私の手のひらにも延びているなぁと思った。