『名もなき77億のあた詩たちへ』
⑪ 秋葉原はサンリオ軍団と高倉健
しかしですねー、あたしにも無駄意地だけは惜しみなくありまするるので、わざとらしさマッハ感はぬぐえないものの、身体はよろめきながらもめっさ必死に外側構築された男装のあたしの景観を取り戻そうと努めましましたよね、ええ。
なぜなら大切なことをば教えて下った傍らのお婆様にもご心配かけてはならないし、先ほど『しゃぼん玉』を歌ってくれた《山手線混声児童合唱団》のお子様方やお婆様を身を挺して御護りになった御母様の在ったはずの生命も、理解された空間、生きる権利のある空間へと輪転円環状/感情の認識では詩神(ミューズ)とおなりになったので、そうなったらあれですよね、お子さんは未来の日本、ワールド オブ フューチャー、これからの全宇内をばになってゆくわけですし、母は創世の大地でございますからね、ほら、醜態を見せられないじゃあないですかあ、ですからウルトラやせ我慢で、ものすごい~いたみ~~ものすごい~いたみ~~まじものすんごい~~いたみ~をば、
「ふふふ、えへっ、痛くないですからっ、なんでもないっす、何か頭にぶつかったけども」って体(てい)でていていていぷるぷる……
――テ・ル・マ・ジー(熱痛)――
と我慢こいて斜めにかろうじて立っているような状態終末器あたし。
まぁよかです、今はダサい中の幸いを目指して……っとば己をばすちゃっと立て直し、けども、さっきのウルトラ衝撃痛は何? あたしのお頭さまーにぶち当たったもののご正体はなに、さぐらなきゃ、と茶ッ茶思考しきょろりんきょろりんし、車両の床にころりん転がっている大きな桜色のビー玉に気がつきました……。
みゃ。
みゃぁっはぁ、お空に飛んでゆけなかったしゃぼん玉がビー玉に変化したのかぁ……そうかぁそれなら納得なっとうくうです、だってそれは痛いでふよね、ビー玉(しかもでかい)がぶち当たったら、痛いですよねーにゃはは一本とられたって思った瞬間、日本の国花・桜のお色の大きなビー玉は、「あ? ただのビー玉じゃないんで自分」的な舐めんなよ風味を全力でボボボ出して参り……
ショーン!
と山手線の床からまず、二十㌢ほど空に舞い、そこからドンドコものすげえ旋回をはじめ、
――カンブリアそ、う、せ、い、きー!
とお喋った? お喋った? ビー玉が?? お喋ったあ?? って聴覚的方向知覚領域の中でも未確認のまま、そのビー玉が突如青空山手線内に巻き起こした桜色の謎の旋回は、あたしの感覚感受器の中に累積された痛み/ドゥルールや、お婆様の神田で砕け散ったけども諦められない懐旧が相俟って、循環構造が起こり、mesocyclone、爆風伴う回転気流と化し、ものすんげい激しいsupercell/精神界の上昇気流となってしまうま、もう、なにがなんだか、なんがなにだか、山手線内の総ての感情環状をごったごったと巻き込みまくり、してしてそれは大きな桜吹雪のごときびゅんびゅん巨大竜巻になり申したのでございます。
びゅんびゅん桜色の巨大竜巻が起きているぐるぐる青空山手線、ちょうど、秋葉原駅に到着し、秋葉原駅のホームの構内にある神仏習合の化身、秋葉大権現様が流石にちょっとば驚いたお顔で乗り込んできようとなすったのでするるが、しかししかし、この竜巻の起きている山手線にお乗りになることをば、これ、類推でしかないのですが、端的におビビりになったやうで、といふか、危機管理でふよね、安保でふよね、ですから、ご自身は乗車をしないで、代わりに、今やニホン文化の代表選手となったサンリオ選手軍団を乗り込ませてきなすったのです。
はーん、Kittyちゃん、マイメロさん、キキララたん、シナモロールちゃん、チェリーナ・チェリーネぽん、シュガーバニーズ先生、ポムポムプリンりん、などなど。
ニホンの愛くるしさの魂、お口をもたない=余計なおしゃべりをしないであたしたちをいつも受け入れてくれるキュートチャーミーの集合体が山手線車内にふわゆると舞い始め申したのです。
な、なんてhappy空間の統一……と車内の詩の原子/アトムに夢心地ロマン拍子が充満じゅ~まーーーんしてうはうはうはうは、はぁぁーん、となったらば、やはし金色に輝く華やかで甘やかな魂の恋のやうな奢りの詩考は許さないよっとばかりに、
「秋葉の詩を誇張するでない、誇張と逃避のお飾りは咲いたことにはならんのだ、表象に過ぎないのだ。そのような感情は崇高でもないのだ」
と、秋葉原権現様のお声が山手線の車内に響き渡って参り、あたしは、桜色の竜巻におビビりになって山手線に乗ってもきやがらなかったくせに、「ケッ」と、舌打ち的なセンチメントにまかせ、この前線を担うきゃわゆ~~いサンリオ軍団たちと山手線の中に流れ出した快楽の静脈のドクラドクラと脈打つ中に真の詩情をば見出したかったので、現場には来ないで天から命令だけする権現様のお声は完全無視したのでございます。
しかししかし、あたしのこの孤立した知覚ナイロンの想念とサンリオの「しゃべらない」ことが約束されている表現関係のとのあいだの秩序はおそらく乱れ、柔軟も従順もとりこまれ申したやうで、あたしの意志とはまったく逆ヴェクトルに事態は動き、サンリオの像(すがた)たちは、ふわゆる~ゆるりん~~と受動感受体のあたしに心地よく漂っていてくれたのに、それは精神の映像(すがた)にすぎぬ! と、サンリオのキャラクターたちは、なんと、一体になってひゅんひゅんと衆生をばあまねく千手観音の「サンリオ曼荼羅」になったのでござりまするるん……。
桜色竜巻のお次は「サンリオ曼荼羅」ですか、そうでふか、空気の地図もどんどこ変容してゆくのですね、ええ。
とかとか混沌納得。「サンリオ曼荼羅」、とんでもなくスペクタクルかわいいのです。
急変してゆく山手線東京模様に驚き、脳昇天しかけちゃった男装のあたしでするるが、「学校とかお仕事とか釈迦さま、社会とか行く道は険しいなぁ」という乗客の共感kittyの妹のちゃ~み~kittyが、「東京上空いらっしゃいませ~」と山手線の上空を自由に眺めながら飛びまわり、有楽町と秋葉原で有楽の芸にもアキバの萌えにもぼんやりしてしまい、うつらうつらし始めたらば、今度は「サンリオ曼荼羅」は、昭和の映画『網走番外地』で高倉の健さんがかつてこの国にびゅんびゅん迸(ほとばし)らせたせた半端ない男気の概念の仁義のハンカチーフへとひらぁり形を変え、その仁義のハンカチーフは、この山手線空間的ひろがり/エクスタンシオンの流動静力をば慕情の緊張させる空間に仕立てあげ、「自分不器用ですから、自分不器用ですから」と舞いながらも、案外小器用に華麗に仁義ハンカチーフはアラン・ポー顔負けの最強八歩格/ミーターとへと詩脚を表し、したらば、『網走番外地』のカリスマ御爺ちゃん任侠百発「鬼寅のおやっさん」(嵐寛寿郎)と、映画『トラック野郎』で一番星桃太郎こと菅原の文太兄貴と死闘を演じた「カムチャカの熊」(梅宮辰夫)が寅と熊の子としてドドスコドドドっと昭和の凄みのあるお顔で車両内を駆けぬけてゆき、途中二人/イマージュとして車窓に写る寅と熊は、車内に顕れていた仁義のハンカチーフをば切り裂き、
「はぁ? へ?」
と乗客が小首をば一斉に傾げたらば、
「東京ってのはねえ、わしらみたいなもんがトラックで物を運んできてなんぼなんすよ、そこを忘れてもらっちゃあ困るんじゃきぃねえ」
と渋すぎるっす兄貴っていうか、どんだけお顔に力入ってるんだよっていう、もはや2010年代に使われている「キメ顔」や「ドヤ顔」なんてメディア表現なんかをはるかに凌駕した顔芸で、どこからかデコレーションされたトラックごと現れた菅原文太兄貴が運転席から凄み、そしてそのデコデコのトラックは空に向けて発射、空に浮かんでいたスクリーンの幻影のブルーリボンの帯をば切り裂き、「これが日本の文化か、これが匠、This is クールジャパノロジーだからねっ」ってどなたかが絵空事のドラマを統率しようといふ雰囲気が秋葉原からこの青空山手線が離れてゆくごとに堕落なのか涼秋なのか、そのfallしてゆく大きな一枚の秋の葉の観念がゆらっと一瞬舞い、その葉の舞いの軌道が、文化として枯れることは赦されないからと、ゆらぁりとしたのですが、ゆらぁりの薄い可視曲線は、この東京の固有の光子/フォトンと詩劇の中で一定の辿ってきた歴史的興奮指針にふれ、ふらゆらゆらぁり、のゆっくりとした都会的でない時間間隔に、急にピカッ! と猛烈な光、ものすごい~ひかり~~ものすごいケバケバしいひかり~~が、山手線の網膜の症領域にチカチカと映しだされ、デコデコピカピカした感光性の有色の光の球たちが山手線の外装に装着され、あたしの乗るこの山手線は、屋根が無いばかりか、映画『トラック野郎』のデコトラのように変わり申した様で、ピカピカチカチカした外装なのですが、乗客のあたしたちからは見えないという、なんとも妙ちくりんなのだか、粋なのだか、なんだか訳が分からない外面構築で走り申し、え~、なに、このスーパーケイオス、だってシンプルな黄緑の山手線じゃないと山手線じゃないじゃなーい、デコデコのランプとかいっぱいつけたら恥ずかしいでしょう、というか、あたしは何故に車両の外側だけのデコトラっぷりを内側から認識できてるわけぇ? してして外見をばこんなに気にするわけぇ、う~ん、なぁにーっとば、このドラマの連を「サンリオの千手観音」の思い出の微笑みの中で躊躇おうかなかなって思ったらば、
「どうでもいいわ~~、お前の退屈で非論理的なドラマ~」
っとば、憎たらしさの無駄口化=屁理屈男の化身/ヘリ靴男がわいて出てきて、ヘリ靴男は、靴(あたしの男装アイテム、コンバースのスニーカー)を身体そのものとし、その上に顔と手だけの身なり、そして身体の靴の背中にはヘリの翼・メインローターを装着させ、翼を螺旋/helico、ヒュンヒュンヒュンと小憎たらしく急に垂直降下してきて、
「ば~か、ば~か、論理的なことが考えられないば~か、だからお前のドラマや詩や人生はFランクなんだよ~~、おや~まゆ~えんち~~、おや~まゆ~えんち~~、おや~ま~ゆ~えんち~~」
(つづきますだおかだ)