NIリサーチャーコラム #43 ちょっと待って!今考えているそのリサーチって本当に必要ですか?(2024年8月執筆)
執筆者: リサーチ・コンサルティング部 Y.I
※NIリサーチャーコラムでは、当社の各リサーチャーが日々の業務等で感じた事を自由に紹介しています。
1)そのリサーチ、本当に必要ですか?
皆さん、こんにちは。
このコラムを執筆させていただくにあたって、当社がこれこれこういう素晴らしいサービスを提供しているんです、なので興味を持ってホームページをご覧くださいね、とアピールすることを会社から期待されているのかもしれないと思ったのですが、せっかくの機会なのでそんなことは気にせず、マーケティングリサーチについて日頃から自分が感じていることを忖度なしに書き綴ってみようと思います。
私は、リサーチやそれにまつわるマーケティング、コンサルティング、データ分析の業界に足掛け20年ほど携わってきました。
お客様に対してはリサーチやマーケティングに関してアドバイスさせていただく機会もあるのですが、いやいやどうしてこちらが勉強させられることの方が多く、もっともっと精進しなければと危機感を募らせています。
そんな私でも、お客様との対話などを通して、マーケティングリサーチへの向き合い方について考えることがあります。
このコラムをお読みいただいている皆様方には釈迦に説法かもしれません。
ただ、まさに今、マーケティングリサーチの実施をお考えの方には、「そのリサーチは本当に必要なのか」を御社内であらためて再検討していただきたいのです。
2)顧客への過度のおもねりは不要
自社の商材やサービスの販売を推進するにあたり、顧客またはターゲットが何を望んでいるのかを知りたいと思うのは当然のことでしょう。
「顧客がこれを望んでいます!」という「黄門様の印籠」があれば、それに向かってマーケティング戦略を立案していくことは会社を説得するうえでも非常に強力な武器となります。
しかしながら、顧客の望みやニーズ・ウォンツを捉えることがマーケティングリサーチの役割だとは思うのですが、それを知るだけでは不十分ではないかと考えさせられる機会が多くありました。
顧客は、ただ顧客です。
生産側の都合は全く考えず、採算性も度外視で、好き放題のことを伝えます。
「もっと安くして」「もっと美味しくして」「もっと使いやすくして」「もっと・・・」そうしたことの一つ一つの要望に丁寧に応えていき、ターゲットニーズを満たしていくことも重要なマーケティング上の取り組みでしょう。
ただ、そうした様々な要望に応えていくことで、御社の商品やサービスの「らしさ」が失われてはいないでしょうか?
角が取れたものは誰にも嫌われないでしょうが、十把一絡げで個性がないものとなってしまいます。
消費者ニーズを無視したシーズ至上主義では「モノ」は売れないということは確かです。
しかしながら、顧客やターゲットの要望を重視するあまり、御社が提供できる価値(シーズ)や、社会的に提供したい価値(ウィル)が損なわれたものにならないように目を向ける必要もあります。
世の中に大きなムーブメントを起こした商材やサービスは、創業者や開発者の圧倒的な強い意思によって生み出されました。
スティーブ・ジョブズ氏、ビル・ゲイツ氏、ジェフ・ベゾス氏、本田宗一郎氏、松下幸之助氏、盛田昭夫氏の熱意に突き動かされ、我々消費者は彼らの想いを具現化した商品やサービスを手に取るようになりました。
もちろん彼らもその時々の消費者ニーズを重視したことは間違いないでしょうが、それ以上に、自分たちが提供したいことへの一貫した想いがあったはずです。
3)顧客のわがままに付き合ってイノベーションの停滞を招かないように
で今は亡き経営学者のクレイトン・クリステンセン氏は、大著「イノベーションのジレンマ」において「優良企業が失敗する要因」として「すべてを正しく行うが故に失敗する」と断じています。
顧客の要望に常に従い無理難題に応えていくことが、かえって進むべき道を閉ざしてしまい、他の企業による「破壊的イノベーション」にいつの間にか飲み込まれてしまうと伝えています。
顧客の要求にアンテナを張り続けることは重要ではありますが、敏感になりすぎて過剰スペックや価格の過当競争に陥ってはいけません。
シーズとニーズは片方だけでは成り立ちません。バランスを取ることが重要で、それを橋渡しすることがマーケティングリサーチの役割と私は捉えています。
4)「インナー」の「リサーチ」を通して、マーケティング上の課題を把握しよう
そこで、私が切にお伝えしたいことは、自分たちが提供している商品・サービスに託している「想い」は何なのか、現状抱えている「課題」は何なのか、そしてこれから「未来」をどうしていきたいのか、御社の内部で共通認識として持ったうえでマーケティングリサーチに臨んでいただきたいのです。
いわば、インナーでのリサーチということになりますが、そんな仰々しいことではありません。
マーケティング担当者や商品開発担当者たちと数回ほどディスカッションやワークショップを通し、それぞれが思い、感じていることを棚卸ししていただければ良いのです。
マーケティング課題の棚卸しや整理の仕方については、PEST分析、STP分析、4P分析、SWOT分析など様々なフレームワークがあります。
ここでは詳細な説明は割愛しますが、世の中のマーケティングに関連する書籍などにこうしたフレームワークは多数紹介されておりますので、ご興味があるようでしたらぜひご参考いただければと思います。
5)マーケティングリサーチは万能ではない
この商品はこうした人たちに使ってほしい、こういうところが競合に負けていない、そうした企業側の想いと消費者の感覚のマッチングやズレを見ることこそがマーケティングリサーチの真髄だと思います。
ただ、そうした提供できる価値の棚卸しをせずに仮説も持たず、リサーチをやれば何かが見える、何かが発見できるという「幻想」をお持ちの方も少なからずいらっしゃいます。
マーケティングリサーチは万能ではありません。
しかし、リサーチは、あなた方の想いや考えを後押しできるチカラを持っています。せっかく、少なくない金額を投資してリサーチをするのですから、それを実りあるものにするために、まずは「社内でのリサーチ」をご検討いただければと思います。
場合によっては、その社内でのリサーチで課題やアクションプランが明確化することもあります。
そうなれば、無理にリサーチを実施する必要はありません。
ただ、どこかのタイミングで消費者リサーチが必要なフェーズがやってきます。そのタイミングを見極めたうえで、より価値のあるマーケティングリサーチの実施につなげていただければと思います。
我々は現在リサーチ事業を軸足としてお客様へのサポートを行っていますが、もっと広義の意味でお客様のマーケティング戦略の支援ができるような体制づくりを進めております。
課題の棚卸し、そしてそれを解決するための仮説や、あるべき未来について議論する相手として、リサーチをする前でもぜひともご相談いただければと考えております。
皆様からのご連絡をお待ちしております。
(結局、最後には当社の営業アピールとなってしまった点はご容赦ください)
執筆者プロフィール
リサーチ・コンサルティング部 Y.I
TVCMの効果測定を専門とする企業で、マーケティングリサーチだけでなくコミュニケーション戦略の構築及び提案まで対応。
その後、ポイントサービスのマーケティング事業会社で実績データとアスキングデータの分析などの経験も積み、20年ほどマーケティング業界に従事。
2年前から現職で、リサーチャーとして、単なる調査結果の伝達・報告に終止せず、クライアントのマーケティング課題の解決に伴走するよう努めている。