NIリサーチャーコラム #36 FA(フリーアンサー)を活用しよう!~FAはインサイトの宝箱~(2023年11月執筆)
執筆者: リサーチ・コンサルティング部 シニアリサーチャー S.T
※NIリサーチャーコラムでは、当社の各リサーチャーが日々の業務等で感じた事を自由に紹介しています。
1)まず、FA(フリーアンサー)とは?
FA(フリーアンサー)とは、主に定量調査などで、
Qx.○○について満足している点を自由にお書きください
のように、「対象者自身に自由に文字で回答してもらう」ことを言います。
OA(オープンアンサー)ということもあります。
自由にお書きいただく以外の方法としては、
Qx.○○について満足している点を下記の中からいくつでもお選び下さい
1. 味が好き
2. いろいろな味が1袋で楽しめる
3. 健康に良い成分が入っている
4. ・・・・・
20. その他(具体的に: )
など、選択肢を設けてあてはまるものを選んでいただき、そこにあてはまるものがない場合は、「その他」を選択し具体的に書いていただくという方法をとることもあります。
2)なぜFAで聞くのか
もっとも大きい理由は、「自分たちが思いつかないような答えを引き出せること」にあると思います。
選択肢形式にすると、「その他」に具体的に書いてもらう欄を設けたとしても、よほどの意見がない限り選択・記入されません。
また選択肢を考えるのはその商品やサービスを熟知していたり開発に携わった側の人々で、「こんなことに気付いて欲しい」「こんなことに価値を感じていてほしい」という思い入れもあり、ついついそこを引き出したい選択肢になってしまうこともよくあることです。
並べられた選択肢によって、回答する側に「ああ、こういうことを考えて作った商品、サービスなんだね」と無意識であっても刷り込んでしまうこともあります。
だから、「自由にお書きください」とお願いするわけですが、これがなかなかうまくいかない。
「とくにない」「なんとなく」「わからない」のオンパレードでがっかり、という経験はどなたにでもあるのではないでしょうか。
郵送調査や自記式(紙の調査票にご自身で回答を記入していただくもの)だった時代は、短文であっても文章を書いていただける割合はもう少し高かったように思うのですが、インターネット調査が主流になった今、定量調査で「自由にお書きいただく」のはなかなか至難の業です。
3)なぜFAは書いてもらえないのか
実は、私は文字を読むのも書くのも大好きで、朝ごはん食べながら朝刊を隅から隅まで読むのが趣味、夏休みの宿題の「読書感想文」で400字詰め原稿用紙5枚と言われると、10枚でも足りない!と思うかなりおかしな子どもだったので、「文章が書けない」「自分の考えを文字にできない」という意識が理解できませんでした。
だから、対象者が自由意見を書かないのは「面倒くさいからだ」と思い込んでいました。
しかし、この仕事を始めて、文章化というのは人によってはものすごくエネルギーを使うことなんだなということがわかってきました。
特にインターネット調査の場合は、スマホ回答が主流になってくると、神業のようなフリック入力をする人でも、文章を打つにはそれなりの時間がかかりますし、「と」と入力すると予測変換で「とくにない」が出てしまえば、それをタップしておけ!と思う心情もわかります。
娘とのLINEでは、文章で返事が来ることはめったにありません。スタンプか絵文字、謎のひらがな一文字の羅列です。
私 「明日の待ち合わせは10時で」
娘 「り」
あれ、途中で送っちゃった?と思っても、待てど暮らせど続きがこない・・というジェネレーションギャップがやっとなくなってきました。
PC回答でも予測変換は出ますし、ブラインドタッチで話すスピードでキーボードを打てるのは、パソコン使って文章を書く仕事している人だけでしょう。
夫はそれなり頑張って対応しようとしていますが、キーボードは両手の人差し指だけでアルファベットキーとENTERキーを打って、右手の親指でスペース(変換)キーを押しているので、見ているとイライラしてきます。
文字を使う仕事をしていますが、いまだに下書きを書いたりしています。
つまりは「インターネット調査なんだから、文章書いてくれるでしょ?」と思うのは、スマホやPCで文章を打つことになんの不都合もない人が思うことだし、では振り返って「自分もそうなのか?」と思えば、そうではない人もたくさんいるのではないでしょうか。
また、問いかけによっては、「何を書いてよいのかわからない」ものもあるでしょう。
「○○について普段感じていることを書いてください」と言われても、そんなことは普段考えていないということもある。
さらに、現在のインターネット調査は、かなりボリュームがあるものでも得られる謝礼ポイントは数十円程度ということも珍しくないので、イマドキの言葉で言えば「タイパが悪い」という意識もあると思います。
タイパと合わせて考えれば、長いコンセプトや商品説明を読んで感想を書けと言われても、「そこまで求めないでよ」と思われてもしかたがない。
だから「とくにない」し「わからない」のオンパレードになるのです。
対象者が面倒くさくて書かないケースももちろんあるとは思うのですが、問いかける内容や調査全体のボリュームなど「書きたくなるような調査設計」をすることもまた重要なのだろうということは、普段の仕事からも感じることです。
4)それでもFAで書いて欲しい!
でも、やっぱりFAはちゃんと書いて欲しいのです。
それは題名にも書いたとおり「FAはインサイトの宝箱」だから。
前段でも書いた通り、自分たちでは思いつくこともない「対象者の心の声」だから。
そこで、当社では、プロジェクトチームを組んで、「よりよいFAを書いてもらうための実験」を行いました。
<方法>
インターネット調査(本調査約2,000s)
通常程度のボリューム(トータル20問ほど)のアンケートの中に5問程度のFAを入れる
うち、4問を「プローブなし/プローブあり」の2群に分け、回答の変化を見る
プローブは、自由回答記述の文字数が10文字以下の回答者にのみ、「もう少し詳しくお知らせください」と次設問で再聴取するかたちにしました。
この実験を行ったところ、プローブありグループでは、1~10文字の回答者の割合が、プローブ前後で2割前後変化し、改善されたことがわかりました。
また、一度プローブされると次の問では短文字回答の割合が減り、「あ、このアンケートはちゃんと書かないとダメなんだな」という意識づけをしたことも推測できます。
また、実際の回答内容を精査してみると、
パターンA プローブ前の回答を踏襲した変化(おいしい→〇〇味は気分がすっきりして美味しい など)が約2割
パターンB プローブ前の回答とは異なるが、関連する新たな回答を記載(味が好きだから→デザインが好きだから など)が約5割
パターンC プローブ前と同じ回答など、変化がないものが約3割
で、パターンAとBを合わせると7割の回答に文字数だけではなく内容の改善がみられました。
つまりは、ちょっとした働きかけをすることで、「もう少し考えてみよう」「もう少し文章化してみよう」と考える人が7割はいたということです。
「面倒だから書かない」わけではなく、「何を書いたら良いかわからない」「どこまで書いたらよいかわからない」といった方も実は多いのかもしれないということを考えさせられる結果となりました。
もちろん、「コンセプトについての意見」「資料についての感想」などでは、また結果は違った可能性もありますが、少なくともそれよりはハードルが低いと考えられる「そう思った理由」「それを選んだ理由」などであれば、こういったちょっとした仕掛けでも改善はできるということだと思います。
※さらに詳しい分析結果をまとめておりますので、ご興味を持たれた方は当社営業担当までお申しつけください。
5)集めたFAをどう活用するのか?
では、集まったFAをどう活用していけばよいのか。
「FAはインサイトの宝箱」なので、全ての回答に目を通すこともとても楽しいです。特にレポートを書く時など、このFAから分析のヒントをいただくこともあり、私はざっくりとでもすべてに目を通すようにしています。
ただ、性年代別にどんな特色があるのか、職業別では?エリア別では?と思うと、単に目を通していくだけでは見えないこともあります。
その場合は「アフターコーディング」といって、同じような意見をまとめ、MA(マルチアンサー)のように数値として集計することも可能です。
また、「テキストマイニング」のシステムを使い、文字と文字の関連性を示すこともできます。
当社では様々なFAの分析ツールを用意しておりますので、集めたFAの分析もぜひお任せください。
6)実はAIも検討してみた
今回の実験を計画するにあたり、Q&AボットのようなスタイルでAIを活用しプローブできないものかと、専門機関とともに検討しました。
ところが、AIとはいえ、元はいわゆるプログラムです。
「これは満足している人の回答のはずだから、不満点を書いていたら『満足している点を書いて!』と言って!」とか、
「これはコンセプトAの感想を書くべきところなので、関係ないことを書いている人に注意を促して!」とか、
そこまではまだまだいっていないことも判明しました。
また、コストも非常に高く、様々なテーマで調査を行う我々の業界では、都度その指示命令を作る人件費を含めて考えると、現段階では現実的ではないという結論に至りました。
ただ、テキストマイニングにはAIも導入されており、仲良くすべきところでは仲良くし、今後もAIの活用を視野にいれながら、よりよい調査の実施を模索していきたいと考えています。
7)より豊かな「宝箱」にするために
FAには様々なインサイトが隠れています。
ただ、インターネット調査で自発的な記入を求めるには、よりわかりやすい問いかけが必須になるし、また「書きたい」「書ける」と思うテーマが重要で、残念ながら長いコンセプトを読ませたり、説明文を読ませて感想を得るような調査は不向きであることは認めざるを得ません。
そのようなケースでは、CLT(会場調査)でコンセプトや資料、パッケージなどを確認していただきながら、調査員がプローブしてお聞きする手法もあります。この手法であれば、「とくない」「わからない」からもう少し考えてお答えいただくことも可能です。
インターネット調査よりはサンプル数も少なくなりますし、コストもかかるのですが、それでもある程度の数のFAは得ることが可能です。
もっと深く知りたいというニーズであれば、グループインタビュー、デプスインタビューという手法もあります。
サンプル数は少なくとも、対象者から引き出す発言はより深いFAであることに違いはありません。
当社では、このような実験も行いつつ、お客様の課題を受け止め、よりふさわしい調査手法、分析手法をご提案いたします。
定量も定性も、インターネット調査もリアル調査も、多様な調査で実績のある当社営業担当に、ぜひお気軽にお問合せくださいませ。
執筆者プロフィール
リサーチ・コンサルティング部 シニアリサーチャー S.T
工学部工学研究科博士課程都市・交通計画専攻で道路計画、交通計画、都市計画を学ぶ
公共系シンクタンク、大学研究所では総合計画・各種計画・施策の立案、住民参加型まちづくり事業の推進を担当
高速道路建設の経済効果等を研究する中で、「満足度をお金に換算して経済効果に計上できないのか?」と思い立ち、マーケティング理論に出会う
39歳でマーケティングリサーチ会社に転職その後は各種公共施策の立案と並行し、商品開発、市場分析等を担当
海外調査(グローバルリサーチ)については、気づいたら16か国延べ40都市で50以上のリサーチを実施
定量調査のみではなく、定性調査のモデレーター、ワークショップのファシリテーターなど、定性調査の実施・分析も担当
8年前から現職