両想いだと思ってた5年間は思わせぶりだったみたい
正直言って私は、付き合う理由がわからなかった。
付き合わなくても男子と遊べるし、好きって気持ちもわからないし、手を繋いで歩きたいとも思わない。
それにまだ中学生だったから、男女仲がいい私の学校では色んな男子と遊んでもあまり悪い噂はされなかった。
初めは、何人もいる男子の中の1人ってだけだった。
だけど、その人はなんだか私に気があるように思えて、電話したいって言ってくれるし、遊びに行っても奢ってくれるし、道路側歩いてくれる。
とっても良い人だった。
私は悪い人だから、その人は私に気があるって事を知りつつも、別の人と付き合ったりもした。
だけど変わらずその人とは毎晩電話をした。
付き合った人とは長くは続かなかった。
付き合う決め手も、告白してきてしつこいからってだけだったし、そりゃそうだろうな。
私は家の事情が少しややこしかった。
親が喧嘩をよくしていた。
私自身も親とよくぶつかっていた。
だから、家に帰りたくない日だって当然あった。
高校に上がる頃、門限が終電までになった。
そして、ある日の朝、私はまた親と喧嘩をした。
だけど学校は終わって、帰らなきゃいけなかった。
どうしても帰りたくなかった。
家に帰ったらまた怒鳴られて、私の話なんて聞いてくれやしない。
もう頭の中が爆発してしまいそうな時、あの人に連絡をした。
家に帰りたくない
一言そう送った。
すると、3分もしないうちに、
今どこ?
って返ってきた。
駅前のコンビニって送ると、そこから動かないでって返ってきた。
びっくりした。
ドキドキもした。
もしかして、今来てくれてるのかな。
君は部活をして家に帰って、今はシャワー浴び終わってご飯の時間のはずなのに。
言われた通り駅前のコンビニから動かなかった。
すると、普通だと30分はかかる道のりを15分で来てくれた。
汗だくになって。
せっかくシャワー浴びたのにね。
そこで君は他愛もない話をずっとしてくれた。
事情も聞かずに、ずっとそばにいてくれた。
お腹空いてない?と言って、コンビニでパンを買ってくれた。
私の好きなやつ。
覚えててくれたんだね。
結局その日は、終電まで一緒にいてくれた。
次の日に、親に怒られなかった?って聞くと、大丈夫って言ってたけど、君の親は少し厳しいからきっと怒られたと思う。
そんな優しさも嬉しかった。
それから何度か終電まで一緒にいてくれることが増えた。
それでも毎晩の電話は欠かさなかった。
それだけ話しても、話し足りなかった。
君の全部が知りたくて、みんなの知らない私だけの君でいてほしかった。
それがどういう気持ちなのかその時はまだわかってなかった。
私たちがこんなに仲が良いことは少しの人しか知らなくて、その人たちからは両想いでしょって言われ続けてきた。
そうして君と知り合った3年目が終わった。
4年目の夏、君と夏祭りに行った。
付き合ってるわけじゃないんだし、気合い入れてるって思われたくなくて浴衣は着なかった。
いつも通りおしゃべりをして、屋台で焼きそばを買って2人で分けた。
大きなお祭りだったから人混みがすごかった。
周りからすごく押されて、ぎゅうぎゅう詰めにされてた。
その時、少し手が触れた。
その日初めて私たちは手を繋いだ。
顔が熱くなって、心臓もうるさくて、いつもならおしゃべりは尽きないのに、その時だけ話せなかった。
花火が上がって、暗くてよく見えなかった君の顔が綺麗に見えた。
その時見えた君の頬が少し赤かったのは花火のせいだったのかな。
私の頬も赤かったかもしれないね。
君と目があった。
いつも話す時とはまた違った目だった。
キラキラしてて、だけど緊張してる。
そのまま君の唇が私の唇と重なった。
その瞬間私たちは我に帰ったように顔を背けた。
同時に手も離してしまった。
少しの沈黙の後に、君がまた話し始める。
他愛もない話だった。
さっきの出来事はなかったかのように。
だけど、やっぱりいつもより君は早口だったから緊張してたんだろうね。
私も緊張してて相槌返すくらいしか出来なくなった。
その日から私は君が好きだってことに気づいた。
それを友達に相談すると、告白しちゃえよ!って言われた。
だけど告白するには勇気がいる。
その上、4年も毎晩電話で他愛もない話をしていた仲だから、逆に仲のいい友達になってしまってる可能性だってある。
だけど、電話だけはやめられなかった。
それからはまたいつも通りだった。
時々終電まで一緒に話して、遊びに行って、一緒に勉強をして。
勇気が出せないまま1年が過ぎた。
高2の秋頃。君と出会って5年と少し経った頃。
ふとインスタを開いた。
君がストーリーをあげてた。
そこには、私の知ってる同級生とのツーショット。
1ヶ月って文字。
私は目を疑った。
君とこの人は1ヶ月も前から付き合ってたの?
どうして教えてくれなかったんだろう。
なんで?
変わらず私と電話してたのに。
遊びに行ってたのに。
すぐさま君の友達に事情を聞いた。
君に直接聞く勇気がなくて。
すると、君と君の友達のLINE内容を無断だけど見せてくれた。
あいつまだ電話しよって言ってきて本当だるいんだけど
まだ俺が好きだって思ってんのか?それだと笑ける
正直あいつ、もういいわ
ショックだった。
突然尋ねた事だからきっとこれはタネも仕掛けもない真実なんだ。
本当にこんなこと思いながら私に優しくしてたんだ。
その日の夜、思い切って聞いてみた。
君、彼女できたらしいね
…うん…そうだよ
どうして言ってくれなかったの?
だってもう電話出来なくなると思ったから
私のことだるいって言っときながら?
そんなこと言ってないよ
私知ってるから、もう隠さなくていいよ
……。
それから君は黙り込んだ。
しばらくして、ごめんってだけ言われた。
じゃあわかった。これで最後ね。バイバイ。って言って電話を切った。
すごく悔しくて悲しくて、次の日誰もいない物理室で1人で泣いた。
チャイムが鳴るギリギリまで泣いた。
次の週、私のスマホが鳴った。
君の名前。
何を言われるか怖かった。
だけど向き合わなきゃって思って、電話に出た。
すると、あの子の声だった。
うちの彼氏ともう遊ばないでよね
あぁ、これは修羅場ってやつだ。すぐわかった。
あなたとあの人が遊ぶ前からずっと友達として遊んでたの
それの何がいけないの?
今まで通り友達としていれるとでも思ってるの?
とんだ能天気な人だね
今後からは私の彼氏と電話しないで
ちょっとあんたの彼氏に替わってよ
…もしもし
あ、もしもし
…ごめん もう電話できない
遊ぶこともできない
本当、ごめん
いいよもう隠さなくて
全部思ってることちゃんと言ってよ
…わかった じゃあ遠慮なく言うよ
正直…5年間も毎晩電話とかだるい
俺のこと好きなんだったら言ってほしかったし
もう、お前がわからない
びっくりした。驚くほど包み込んでオブラートに言うもんだから。もっとはっきり言ってくれると思ったのに。そうしたら、今度こそきっぱり諦めつくと思ったのに。
そっかわかった
ごめんね
今度こそ本当のばいばい
そう言って私は彼の連絡先を消した。
写真も
もらったものも
思い出も
消したかった。
まだ中学の時のグループを見れば、彼の連絡先がある。
すぐ手に入る。
だけど、写真も もらったものも 思い出も
唯一の私たち2人だけのものだから。
消したくても捨てたくても失くしたくても
ダメだった。
もう毎晩電話をかける相手はいない。
もう家に帰りたくなくても隣で他愛もない話をしてくれる相手はいない。
私の世界に君がいない。
廊下ですれ違うだけで私はまだ胸が痛む。
どうしてくれるの。
責任とってよ。
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