君からもらったリップがなくなる前に私を安心させて

君はいい匂いのリップをつけてた。
少し甘ったるくて、だけどずっと嗅いでたい匂い。
それ、いい匂いだね、どこで買ったの?って私が聞く。
忘れた。いい匂いでしょ。他の種類もあったんだよ。
私もつけたい。貸してよ。
いいよ。
そのまま君は、そのリップをくれた。

そのリップをつけて、いつものようにキスをした。
すると、私を包む君の体がだんだんと熱くなってきて
あーやばい。この匂いダメだ。って余裕なさそうな顔をして君が言った。
そんな君の顔が好きだった。

デートのたびに私はそのリップをつけた。
キスをする前にわざと塗り直して匂いを強くさせた。
いじわるって言う君の顔が愛おしかった。


春休みは会える日が多くて寂しい気持ちは少なかったけど、新学期が始まって3年生になった今、受験生になったこともあって忙しくなった。
学校が違う君とは偶然会うこともなく、寂しい気持ちが増えていった。
その度に私は君からもらったリップで寂しさを紛らわしていた。

その中でも週に1回遊べたら良い方で、電話は毎日ではないけれど多い頻度で出来ている。
それだけでも幸せだった。
すると、君が突然言い出した。
そういえば俺、モテてるかも。
君がモテてるのは知ってた。だから、今更?って気持ちがあったけど、とりあえず話を聞いてみた。
どうやら学校でトップ3に入るくらい可愛い子に好意を持たれているらしい。
初めは友達になってください。って言われたみたい。
その時点で私は怪しいと思ってた。
きっとその子は君のことを狙ってるって思ってた。
なのに君は鈍感だから、本当に友達として接してたみたい。
だけど、写真一緒に撮ろう、とか、体育一緒にバドしよう、とかが多くなっていって、さすがに君もおかしいと思ったらしい。
すると、その子の友達の彼氏から、やっぱり君に好意があるってことを聞いたみたい。
気づけよ。遅いよ。
話を聞くと、その子は前まで不登校だったらしい。だけど3年生になってからは休みがちだけど学校に行けてるみたい。それは、君が同じクラスにいるからなんだって。
だからもし告白された時にハッキリと断るときっとその子はまた不登校になるだろう。
だからといって本当に友達みたいな態度を取ればハッキリしないやつって思われる。
その上その子はとても可愛い。
本当に可愛い。
君のタイプにドストライクだと思う。
私はすごく心配になった。
君が取られるんじゃないかって。
君は私を離さないって言ってくれるし、私から離れないってどこにも行かないって言ってくれる。
それを信じてないわけじゃない。
君は私以外の女子の連絡先を入れていない。
それだけ誠実なんだ。
だけどその誠実さが逆に簡単に崩されてしまいそうで怖い。
君のタイプの人が現れて、君の懐にスッて入ってきても私から離れないなんて自信を持って言えないだろう。
だってその経験がないから。
もし懐に入られても彼女が1番だって強く言えるような出来事がなかったから。

今は君のことを考えるたびに胸が苦しくなる。
気づいたらリップを使ってる。
昨日久々に君が家に来て、そのリップを見た。
あれ、すごい減ってる。使いすぎだよ。
そうだよ。それくらい寂しいんだよ。
これじゃすぐ無くなっちゃうよ。

じゃあ寂しくさせないでよ。
私を安心させてよ。
このリップを私が使い過ぎないように。
今もつけてるこのリップがなくなる前に私を安心させてよ。
そんなこと言えないけどね。

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