地元クラブをサポートする歓びが味わえる『俺たちブロンリーボーイズ-ヘタレなクラブの愛し方-』
1966年FIFAワールドカップ、イングランド初優勝がひとりの少年の運命を変える!?
みなさん、こんにちは。ヨコハマ・フットボール映画祭note公式マガジン第24回を担当します、スタッフの細川です。よろしくお願いします。
今回はYFFF2021の上映作品『俺たちブロンリーボーイズ-ヘタレなクラブの愛し方-』をご紹介します。ひとりの少年の成長をコメディタッチで描いたドラマで、サッカーファンはもちろん、サッカーの知識がなくても楽しめる作品になっています。
《ストーリー》
ロンドン郊外に住む14歳のデイブにとって、一番熱いのは地元のノンリーグチーム:ブロンリーFC。日々おやじサポーターたちとツルみながら、記事チェックや戦術分析に余念がない。
そんな情熱とは裏腹に、チームの成績は低迷、スター選手の移籍の噂も流れ。。。
果たして、デイブは愛するクラブを救うことができるのか?
ブロンリーボーイズになるまで
1966年、イングランドで開催されたFIFAワールドカップ決勝戦。サッカー好きの少年デイブは、イングランド代表が初優勝する瞬間をラジオで体験したことで、ますますサッカーに熱狂していきます。多くの同級生たちがそうであるように、彼も都心のビッグクラブのサポーターになりたいと望みます。しかし、厳格な父親からはサッカーそのものを禁じられてしまいます。一方、母親は地元のクラブ”ブロンリー”の文字を刺繍したマフラーをこっそりプレゼントしてくれるのでした。それを受け取ったデイブは、ブロンリーのサポーターになると心に決め、ボーイスカウトに通うフリをしながらスタジアムに通うようになります。
学校でのデイブはというと、友だちはひとりもいません。それどころか、女子生徒からランチのサンドイッチを取り上げられそうになったり、授業中に紙屑を投げつけられたりしています。しかも、学校からは授業を妨害する問題児として扱われ、転校を繰り返します。でも、ブロンリーに夢中になる中で、ダメな大人を具現化したような3人組のサポーター仲間ができ、つるむようになります。
サポーター仲間3人組。ダメっぽいけど税理士だったりする
ホームでの試合観戦後、監督と会長の口論を偶然立ち聞きしてしまったデイブが慌てて逃げ込んだ部屋は会長室でした。そこでスター選手ストーニーの移籍情報を入手したことで、クラブを巻き込んでの騒動を巻き起こしていくのですが……
ノンリーグならではの距離感
物語の舞台となるのは1969-70年シーズン。デイブが応援しているブロンリーFCは、現在はナショナルリーグ所属ですが、当時はロンドンのアマチュアクラブが集まるイスミアンリーグ(現在の7~8部)に所属していました。イギリスはどの街にもクラブがあって、大きさは関係なく地元クラブを応援する文化が根付いているそうです。日本でも地元のクラブを応援する人はたくさんいると思いますが、Jリーグより下のJFL(日本フットボールリーグ)や地域リーグ、県リーグなどの界隈を「コミュサカ」と呼び、近年盛り上がりを見せているようです。
ある日、ウェストハム・ユナイテッドFCとの親善試合がブロンリーのホームスタジアムであるヘイズレーンで行われることになり、デイブは良席を確保するために朝早くから出かけていきます。ワールドカップで優勝を果たした代表選手を擁するクラブとの試合なので、観客で溢れ返るに違いないと考えたのです。しかし、ブロンリーとの試合には、国民的アイドルであるジェフ・ハーストもボビー・ムーアも来ませんでした。そんな控え選手中心のチームに、格の違いをマザマザと見せつけられるのですが、だからと言って、デイブのクラブへの愛は変わりません。
15時からの試合に9時から待機するデイブ
試合中、スタンドでデイブが監督の隣に座るシーンがあります。そこに会長とその妻と娘もやって来て並んで座り、監督と会長はデイブを挟んでビジネスの話をし始めます。その後、デイブは勝手にピッチに入り込んで選手にインタビューまで始めてしまいます。選手や監督、会長にまでこんなに近付ける、というのはノンリーグならではなのかもしれません。すべての試合の記事をスクラップし、戦術を分析していたデイブは、やがて会長や選手たちの心を掴み、クラブのキーパーソンになっていくのでした。そして会長の娘とも距離を縮めていきます。
デイブとブロンリーの選手たち
アマチュアリーグなので、選手たちは他の仕事もしているようです。選手がデイブの転校先の教師だったり整備士であったり、監督の本業が印刷業だったりというエピソードも差し込まれています。
ちなみに、デイブが「最悪の年」というように、この年のブロンリーはリーグ最下位で終わっています。
当時の空気を楽しむ
ファッションや車、音楽から時代の空気を感じられるのも本作の魅力です。
レコードに針が落とされ、ダスティ・スプリングフィールドの”I Only Want To Be With You”(日本語題:二人だけのデート)が流れると、不思議なことにこの時代を知らなくても、一気に60年代にタイムスリップしてしまいます。他にもザ・フォーチュンズ、スペンサー・デイヴィス・グループ、ダイアナ・ロス&ザ・シュープリームズ&ザ・テンプテーションズ、スティービー・ワンダーなど、英米のオールティーズのナンバーが使用されています。
ブロンリーのホームスタジアムであるヘイズレーンも木造で味わいがありますが、実際のスタジアムは1992年に火災で全焼してしまっため、撮影ではクロッケンヒルFCのウェステッドメドウが使用されました。
デイブ・ロバーツ
原作は2012年に出版されたデイブ・ロバーツによる自伝的小説”The Bromley Boys”です。デイブは、転校と同様に、転職も繰り返したようです。多彩な職歴の中には、KFCでレシピのサンプルを盗もうとして解雇されたという、劇中のデイブは本人そのものなのだと納得してしまうエピソードもあります。”The Bromley Boys”の続編として、2019年に”The Long, Long Road to Wembley”がクラウドファンディングによって出版されました。続編も映画化されるかもしれませんね!
デイブを演じるのは「ゲーム・オブ・スローンズ」シリーズのオリー役で知られるブレノック・オコナー。撮影当時は16歳で、初めての主演作品になります。
俺たちブロンリーボーイズ-ヘタレなクラブの愛し方-
2016年/イギリス/106分
原題:The bromley boys
監督:スティーブ・ケリー
出演:ブレノック・オコナー、アラン・デイビス、マルティン・マカッチョン、ジェイミー・フォアマン、サバンナ・ベイカー、アダム・ディーコン
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デイブはブロンリーのサポーターになったことで、仲間と出会い、選手たちとも絆を深め、恋をして、そして父親の想いを知ります。サポーターであることの歓びが詰まったカミング・オブ・エイジ・ストーリーです。
デイブと、彼を取り巻くクセの強い大人たちを、ぜひ応援しにきてください!
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