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お寺で歌っていたおじいちゃんと友達になった日
台湾留学中、1人で市内観光をすることが多かった。
休みの日にガイドフックを開き、今日はここに行ってみようかなと思い立って出かけていく。
特に目的があるわけでもなく散歩感覚で出かけていたので、予定に追われることもなくのんきな観光だった。
ある時、割と朝早く出かけて台湾のお寺を見学していたら、突然「日本人ですか」と声が聞こえてきた。
私…?ちょっと不審に思い周りを確認すると、私以外に日本人どころか人がいなかった。私じゃん…。嫌だな、声かけられちゃったよ。と思って振り向くと、日本語が上手なおじいちゃんがこっちを見ている。
その人は、さっきまでお寺の一画で仲間のおじいちゃんたち数人と一緒に生演奏で歌を歌っていた人だった。
「日本人?」「このお寺は全部見た?」といろいろ話かけられて、会話が始まった。さっきの演奏は趣味で、毎週必ずここに来て歌っているということだった。そういうのなんかいいな、などと思い、まんまと相手のペースに乗って話しているうちに、気づいたらそのおじいちゃんのガイド付きでお寺の隅々まで案内してもらっていた。
台湾には日本に統治されていた歴史があるので、年配の方の中には日本語が話せる人もいる。様々なとらえ方があるだろうが、そのおじいちゃんは日本にも日本人にも好意的で、日本語が話せて懐かしいと言って楽しそうに昔のことや自分の家族のことを話してくれた。
そして、最後にはご飯までご馳走になり、留学中だと話したらまたご飯を食べようねと言ってくれ、実際、留学中に何度かご飯をご一緒する機会があった。
日本だったらお寺で出会ったおじいちゃんとご飯を食べに行くなんてまずないだろうけど、その時はなぜかあまり怖いとも思わず、普通に友達になってしまった。
日本人が台湾を好きになる理由の一つとして、人が優しいという点が上がることが多い。確かに優しいけど、それだけではなく距離の取り方が絶妙だなと思う。近いけどぐいぐい来る感じでもなく、安心感と親近感のある絶妙な距離の取り方が台湾にはあるような気がしている。
この距離感の魔法で、この日、私に台湾で最初の友達ができた。