照明担当者が語る!「カムカムエヴリバディ」の舞台裏
連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」で照明を担当している天野と申します。
以前投稿しましたnoteでは想像以上に大きな反響をいただき、日々収録に臨む上で大変励みになりました。
今回もそんなカムカムの照明舞台裏をお伝えすべく、印象的なシーンをいくつかご紹介できればと思います!
まずは、きょう3月18日(金)に放送されたこのシーン、
突然の稔の登場に驚かれた方も多いのではないでしょうか。
私も脚本を読んで初めて稔の再登場を知ったため、とても驚きました。そして、るいの名前に込められた「どこの国とも自由に行き来できる世界」という強く優しい“稔の思い”があふれる重要なシーンになるだろうと感じました。
舞台は1994年8月15日終戦の日の岡山、夏の強い陽を浴びて稔が輝いて見えます。しかし、実はロケをしたのは雪も残る真冬の1月末でした。
気温はおよそ7度でスタッフ全員がコートを着ている中、出演者はもちろん夏服です。それでも一切寒そうに見せない出演者の姿に驚いたのを覚えています。
ほかにも、残っていた雪を溶かしたり、陽炎をだしたり、セミの鳴き声を付けたりとさまざまなセクションの働きによって冬を夏に見せていますが、その中で私たち照明部は“偽物の太陽”によって夏を演出しました。
前回は、スタジオ内での照明について記しましたが、今回は主に、屋外ロケでの照明を中心に、ご紹介していきます。
屋外ロケのポイント①本物の太陽との戦い
夏といえば強い日差しが印象的です。
しかし、収録日は1月末。太陽が低いため、晴れていたとしても周りの木々に遮られ、るいや稔がいるさい銭箱あたりにはあまり陽が当たってきませんでした…。
そこで照明の出番です。
実はこのカット、強い太陽光が当たっているように見えますが、その光は偽物なのです。
上のような構図で照明器具を置き、太陽に見立てて当てています。このように、寄りのショットでは偽物の太陽によって季節感を演出していました。
また、この偽物の太陽、季節感を出すためでもありますが、それ以上に心情表現や情景描写に対しても大きな役割がありました。
みなさん、稔のことを思い浮かべてみてください。
この朝丘神社や「Dippermouth Blues」、大和川など光に包まれた温かく優しい姿が多く思い浮かぶのではないでしょうか。
それは私たちも同様で、演出担当もLD(Lighting director/照明チーフとしてプランを決める人)も「このシーンは晴れで撮りたい、稔に陽が当たっていたい」というプランでした。
そして、いざ“偽物の太陽”を当てて光に包まれた稔を見たら、稔はあのときのまま、安子を通じてるいの中にも生きていたのだ、稔の思いがるいにも引き継がれていたのだとその場で胸が熱くなりました。
稔の登場によってるいの気持ちに変化が現れ、「お母さんを探しに、アメリカに行きたい」という言葉で今週の放送が終わります。どうなっていくのか先の展開はまだまだ読めませんが、来週からもぜひお楽しみください。
屋外ロケのポイント②天気を「読んで」、天気を「決める」
以前投稿したnoteに、照明の役割のひとつは、照明器具を使ってスタジオ内で自然な明かりを作ることだと書きました。
スタジオでは、フェーダーひとつ下げるだけで太陽代わりの明かりを消すことができます。しかし、自然が相手の屋外ロケではそうはいきません。屋外であることを生かした広い画も多く、その範囲内すべての太陽光を塞いだり、反対にすべての範囲に太陽代わりの光を当てたりすることは困難です。また、雲や太陽は刻一刻と動きます。
そこで、屋外ロケで重要な役割を持つ「天気を決める、読む」という照明の仕事の出番です。
ロケで「天気を決める」のはLDです。演出担当の意志を最優先に、前後のシーンとのつながりや史実、心情表現、情景などを考慮し、晴れで撮るのか、曇りで撮るのか、安定するならどちらでも良いのかなどを現場で判断します。
また、脚本で特定の日時や場所が指定されている場合は、事前にそのときその場所の天気を調べたうえで収録に臨みます(ちなみに、気象庁のデータによると、先ほどのシーン1994年8月15日の岡山の天気は晴れでした)。
ただし、ドラマはあくまでフィクションであるため、必ずしも現実にあったことすべてを忠実に再現するとは限りません。心情表現や情景などを優先することもあります。このさじ加減も演出担当やLDの仕事のひとつです。
続いて、「天気を読む」のは照明フロア担当(現場の最前線で器具を準備したり配置したりする人)です。一回の芝居の間に天気が変わる(太陽が出る/雲に隠れる)ことがないよう、芝居の尺と雲の動きを考慮して本番を始めるのか、あるいは雲が去る/来るまで待つのかを現場で判断します。
風によって動く速度や向き、大きさ、厚さが変化する雲の動きを読むのは難しく、だからと言ってずっと待っているわけにもいかず、どこかで決断しなければなりません。
雲一つない快晴や一面雲に覆われているときは心穏やかですが、まばらな雲や濃淡のある雲の合間をぬって撮影するときは、「なんとかこの芝居の間は安定してくれ…!」「雲が湧かないでくれ…!」などどきどきしながら本番を迎えることもあります。
このように、屋外ロケは常に天気との戦いでもあります。朝丘神社での木漏れ日や大和川での夕焼けなど、屋外だからこそ撮れる、天気が生かされた印象的な画を目指してロケに臨んでいます。
超苦労したお化け屋敷の照明
続いて、こういったロケや、ふだんのスタジオでの天気や時間表現などとは少し異なる特殊なシーンについてお伝えします。
ひなたが条映の来場者数挽回のために提案したお化け屋敷のシーンです。このお化け屋敷、どこかの遊園地のものではなくスタジオ内にまるまる作られていました。
照明器具も大量に仕込まれていて、それらがオフになっている営業前とオンになっている営業中の2パターンの雰囲気が全く違うのがお分かりいただけるかと思います。
仕込む際にもポイントがあり、
・下からあおるように
・おどろおどろしい濃い色を
各お化けや装飾に当てるようにしています。
子供のころ、懐中電灯を顔の下から当てて相手を怖がらせるということをやったことがある方もいるのではないでしょうか。なぜ、これらを怖いと感じるのかというと、人は顔の認知にとても敏感だからです。
そのため、ふだん太陽や天井灯など上からの明かりがメインに当たっている顔を見慣れている人間にとって、下からの明かりや見慣れない色の明かりが当たっている顔には強い違和感や恐怖心を抱くとされています。
また、このシーン、お化けが飛び出るのに合わせて仕込んだ明かりをつけるということもやっています。去年の12月以降、私はLSC(Lighting sub chief/調光卓の操作を行う人)をやらせてもらっていて、このお化け屋敷のシーンのときも担当していました。
調光卓のボタンを押すだけで明かりをつけることはできるのですが、練習機会はドライリハーサル(出演者の動きを確認する工程)とテスト(すべて本番同様に行う工程)の2回しかありません。そのため、
・お化けはお客さんがどの位置に来たら、どのくらいの勢いで、どこから飛び出るのか
・複数カメラがある場合はどのカメラを見ておくべきなのか
・調光卓のボタンを押してから明かりがつくまでの遅延はどのくらいなのか
などを少ない機会で把握し、お化けが飛び出るのと同時に明かりがつくよう心がけました。
私自身ホラー系が大の苦手でこのお化け屋敷もかなり怖かったですが、このときだけはお化けを凝視し、お化けと心を一つに本番に臨みました。
錠一郎と五十嵐のあのシーンは…
最後にもう一つ、個人的にひなた編で印象に残ったシーンを紹介させてください。
ひなたと別れた五十嵐のもとを錠一郎が訪ねるシーン。錠一郎が初めて自ら過去を語る姿が印象的です。
場所はおなじみの条映休憩所ですが、ふだんと雰囲気が少し違うなと感じた方もいるのではないでしょうか。
LDによると、台本を読む中で、このシーンはふだんの休憩所と異なる締まった雰囲気の明かりにしたいと考えたそうです。そのため、ふだん休憩所で撮影する際は、ベースとなる明かりを全体にまわして明るめにするのですが、このシーンではそれをせず、あえてコントラストを強くしています。これによっていつもの休憩所と異なる雰囲気が醸し出されています。
このときの器具配置はというと、
朝の設定であるため、太陽代わりの照明器具の高さを低く、青めにしています。
そして、真っ暗にならない程度に弱めに五十嵐と錠一郎の半面を照らしています。
また、五十嵐と錠一郎の握手が印象的になるよう、器具を追加して握手する位置に明かりの芯がくるように当てていました。
コントラストをつけることによって、このシーンの特別感や錠一郎の秘めたる強い思いがより強調されているように思います。全てがきれいに明るく見えれば良いというわけではない照明のおもしろさを感じ、個人的に印象に残ったシーンでした。
さいごに
これを書いているのが3月頭で、2月26日のクランクアップから数日が経ちました。
私自身初めての”朝ドラ”で不安だらけでしたが、照明の先輩方をはじめ、作品、出演者、スタッフ、そしてみなさまの声のおかげで丸一年の撮影を終えることができました。
「長かった…!」とも「もう終わってしまうのか…」とも感じるよくわからない不思議な感覚ですが、初めての”朝ドラ”が『カムカムエヴリバディ』で、このチームで本当に良かったという思いです。この経験を糧に、改めて次の作品に臨んでいきたいと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
「100年の物語」も残りわずかですが、まだまだ見どころ満載です!
ぜひ、最後の最後までお楽しみください。
▼制作チームから視聴者のみなさまへ▼
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