どうせ転勤するんでしょと言われた私が 愛と覚悟を決めて“超ローカル宣言”してみた件
NHK北海道の“勝手に広報部長”アナウンサーの瀬田宙大(せた・ちゅうだい)です。「あさイチ」リポーター時代は30代前半でしたが、ことし5月で38歳。すっかりアラフォーです。札幌転勤が決定した当時は正直、人生初の雪国暮らしに不安が募りました。しかし、いまは雪が演出する美しい景色に魅了され、メリハリある四季を心から楽しみながら(自分でも驚くほどに)、元気にやっています。
今回は私がキャスターを務めるニュース・情報番組「ほっとニュース北海道」を中心に、仲間と共に仕掛けているさまざまなプロジェクトの背景にある思いを、本音で語りたいと思います。
地域密着をガチでやる。マジで。
札幌赴任2年目、2019年秋。ある飲み会に参加した。
そこでこんな言葉が聞こえた。
「NHKって“地域密着”っていうけど、結局はみんな転勤でいなくなっちゃうじゃん」
痛いところを突かれた。何も言えなかった。そのあとずっと自問自答した。
自分なりに精一杯、地域と向き合ってきたのに、言い返せない。
あの夜、覚悟が決まった。変えたい。変えてやる。
ポッと出じゃありません。根っこの話。
NHK北海道は、おととし、みずから手を挙げた有志職員50人程の「北海道タスクフォース」というチームを立ち上げた。目的は公共メディア時代の未来のNHK北海道像を議論し、提示すること。どうすれば地域の役に立てるのか。そこで得られた知見と仮説をもとに、去年4月、様々なプロジェクトを始めた。
あなたと!に込めた私たちの本気。
大事なことは“私たち”であり、私だけではないということ。
まず、若い世代とのつながりが薄いことがわかった。
そこで、高校生の活動を応援し、全道に広く知らせることを目指した企画「NHK高校放送部」をスタート。
部活動や高校の課外活動、たった一人の取り組みなどを幅広く取り上げた。
ことし3月には、マイナークラブ☆フェスティバルと題したイベントも開催。新たなつながりが生まれつつある。
「シラベルカ」は、みなさんから頂いた投稿をもとに、NHKが持つシラベル“力(ちから)” で調査・報道していくという企画。
素朴な話題から硬派なものまで、ジャンルを問わずお伝えするもので、夏休みや冬休みには「シラベルカ for teens」と題して、子どもたちの悩みにも向き合うなど、“私たち都合ではない”番組作りにつながっている。
地域の若者が企画してくれた番組も。
「#ローカルフレンズ出会い旅」は、地域を案内してくれる人をフレンズと呼び、地域に暮らしているからこそ知りえた情報や関係性、ライフスタイルを旅テイストで見せる番組だ。“人と出会うために人は旅をする”という、人とのつながりの大切さを実感できるのが特徴で、人に会うにも物理的な距離がネックとなる北海道においては、その喜びが大きく、感動があることも改めて共有できたと感じている。
さらに、TVを持たないワカモノたちにも北海道の魅力を届けるために、「the Locals」というブランドで、紙媒体とWEBでも同時展開。
“ローカルプレーヤー”と私たちが呼ぶ、地域を輝かせようと活動する人と、道内各地のNHK職員を一枚の写真に収めて“地域のパートナー”として紹介している。
こうしたさまざまなプロジェクトを通じて、「地域とつながる」を実現しようと取り組んでいる。
ローカル礼賛という落とし穴
「ローカルは難しいこともたくさんある。絶賛するためのローカルとなった時点で、都市目線なのではないか」。
ことし1月、ある人からこんな指摘を受けた。その通りだ・・・。
去年4月からあれこれ始めた私たち。当初「ローカル」「地方」という言葉に知らず知らずのうちに内包されていた...もっというとメディアらが内包させたネガティブな印象を取り払いたいという思いが核にあった。ポジティブに転換するためにも、「ローカルフレンズ」や「the Locals」など、あえてローカルを冠したプロジェクトを複数走らせた。
その結果、いつの間にか「ローカル」の響きに慣れがあった。今度は知らず知らずのうちに「ポジティブ要素」だけを内包してしまっていたのだ。そんな私たちの慣れに対して、「都市目線では」と違和感を言葉にしてくれたのは、地域の人。
「ローカル=最高という前提が立ちすぎると、逆に興味を持てない。そんな簡単ではないのが地方ですよね」という問題提起にハッとした。礼賛だけでは、歩み寄った事にも、寄り添ったことにも、リアルを伝えることにもならない。見えなくなる怖さを教えてもらった。このリセットは大きい。
キーワードは“伴走”~気づきをくれたのは
様々な取り組みをするうえで大切にしていることがある。それは“伴走”すること。本当の信頼は、つながり続けることで得られるもの。
(左・中西拓郎さん 右・瀬田アナウンサー)
その気づきをくれたのは地域の人だ。2020年日本地域コンテンツ大賞・地方創生部門で最優秀賞(内閣府地方創生推進事務局長賞)を受賞した「.doto」という道東エリアのガイドブックを制作した一般社団法人「ドット道東」の代表理事・中西拓郎さん。彼は、地域を走り回り、自治体ごとの境界を溶かし続け、道東というエリアが一つのかたまりだと PR している。番組のための対談収録で、彼はこんなことを言った。
“ちゃんと伴走しきる”、重たい言葉だ。
4月からの「ほっとニュース北海道」では、新コーナー「ローカルフレンズニュース」を始めることにした。ローカルフレンズを一度担ってくださったOB・OGが毎週登場し、地域目線でいま伝えたいニュースを伝えるというもの。新しい仲間も増やしながら、つながり続けることも大事にしていきたい。
退路を断つ⁉︎“超ローカル宣言”
私が担当する「ほっとニュース北海道」の新年度のテーマは“超ローカル宣言”。
ポスターにはやや長文のメッセージも載せた。内容は、ニュース、キャスター、広報、編成で相談して言葉を練った。綴ったのは私たちのリアルな思いだ。
「NHKって東京の放送局でしょ?」「NH K は世の中を客観的に見ていて冷たいよね」・・・。NHK職員は多かれ少なかれこうした声をかけられてきた。これまでの「仕方ない」「わかる人にはわかってもらえる」という消極的な考えを捨て、私たちはこの課題としっかり向き合いたい。そんな思いを記した。
一方で、最近こんなこともよく思う。
10 年後、どこで何をしているのだろうかと。 答えは簡単だ。正直わからない。正確にいうと、組織のひとり。役割のある場所にいるということでしかない。
新年度で、私は北海道暮らしも番組キャスターも 4 年目に突入する。 でも、実は、虎視眈々と“10 年キャスター”を目指している。宣言にもあるように、10 年後を想像し、みなさんと創造するならちゃんといたいから。その可能性も見えてきた。NHK プラスで地域放送も配信されるようになってきた時代。本部と地方の境界が溶けてきたと感じている。さらにこの note のように WEB での発信を駆使すればどこにいても全国規模の仕事は可能!
それなら、愛着ある北海道にいたい。ローカルを選ぶことが豊かな時代ですからね。あ、言っちゃった。でも、本音です。
ということで、はじめます
私たちにとって、この1年は勝負の年。6月には、札幌拠点放送局は新会館に移転します。気持ちも装いも新たに、地域と共に歩むメディアへの変革に向けた大きく、大切な一歩を踏み出します。私自身の率直な思いは、「ほっとニュース北海道」の新年度PR30秒に込めさせてもらいました。
よし、やるぞ!!!と、ここまで強気で書きつつ、実は、結構、不安もあります。アイデアを柔軟に取り込み、頭柔らかく前へ進められるのかなど、いろいろあります。
でも、やるんです。
これからの働きでみなさんに「いいね」を貰えるよう、がむしゃらに、地域のみなさんと対話をしながらしっかり働きたいと思います。
この組織に入って同期アナから 「せたちゅーってなんかあつくるしくてめんどくさい・・・」と影で言われてきました(こういうのって伝わってくるんですよね)が、これまでは知らないふりをして何も言い返しませんでした。人は人と思いつつ、どこかで、自分って変なのかなと思うこともあったから。
でも、仲間がいるいまなら言える。熱くて何が悪い!!
瀬田 宙大(NHK札幌放送局 アナウンサー)
2006 年入局。長崎、静岡、東京を経て、現在は札幌勤務。趣味は愛犬に遊んでもらうこととカメラ。 家族と共に北海道各地に足を運び、北海道ライフをプライベートでも楽しんでいる。犬と暮 らしている経験を生かして、3 年前から不定期で BSP で放送している「家族になろうよ〜 犬と猫と私たちの未来〜」の司会も担当。東京時代は「あさイチ」リポーターを 4 年間務め たほか、NHK スペシャル「医療ビッグデータ 患者を救う大革命」の情報プレゼンターや 「発達障害 解明される未知の世界」のナレーションも担当した。2018年からは全道向けニュース・情報番組「ほっとニュース北海道」のキャスターを務めている。座右の銘は「三歩先を読み、 二歩先を語り、一歩先を照らす」。