「大奥」ラストシーン制作秘話!VFXチームが届けたかった“未来”のこと
2シーズンにわたってお送りした「大奥」、ついに最終回を迎えました。
最後までご視聴いただき、本当にありがとうございました!
ラストシーンでは、これまで時代を超えて紡がれてきたさまざまな人たちの思いが最後に繋がり、幸せそうな胤篤や瀧山たちを見ることができて本当に良かったです…。
原作でも印象的なこのラストシーン。
これまでの大奥では、赤面疱瘡という疫病や権力・理不尽さとの闘い、大政奉還から江戸城無血開城まで、江戸という時代をたくさんの苦難を乗り越えながら駆け抜けてきました。
さまざまな壁を乗り越えて、ひとつの時代が終わり、新しい時代を迎えて明るい未来へと向かうラストを表現するには、光り輝く広い海を行く船の上、である必要がありました。
このシーン、船そのものを作り、海へロケに!は行っていません。
実は新しい技術での撮影にチャレンジしました。
ハリウッドでも使われている“インカメラVFX”です。
この技術を使って皆さんに希望に満ちたシーンをお届けしたい。
そのために、わたしたちVFXチームがこだわったことをお伝えできればと思います。
“インカメラVFX”ってなんですか?
こんにちは。
「大奥シーズン2」で、VFXチームのとりまとめ役・VFXスーパーバイザーを担当したNHKテクノロジーズの藤木です。
「ラストシーンをインカメラVFXで撮影したい」
監督からVFXチームに相談があったのは、シーズン1の放送が終わった直後の2023年3月下旬のことです。
最初にお話を伺ったときは、重要なラストシーンを飾る海と船上のカットをインカメラVFXで表現するということに内心不安でいっぱいになったことを覚えています。
“インカメラVFX”とは、巨大なLEDパネル(通称「LEDウォール」)に映し出されたCGがカメラの動きにリアルタイムで連動し、スタジオにいながらまるで屋外ロケのような映像が撮影できちゃう、というもの。天候や時間に左右される心配もありません。
ちなみに、一般的な“インカメラじゃないVFX“には、スタジオをグリーンバック・ブルーバックと呼ばれる緑や青の幕で囲んで撮影し、あとからCGを合成するというものがあります。
両方を体験した瀧山役の古川雄大さん、こう仰っています。
グリーンバックの撮影のときには完成イメージの共有が難しく、いつも役者の皆さんの想像頼りになってしまうのですが、インカメラVFXの撮影では臨場感を味わっていただけて、それがリアルなお芝居につながったというのは大変うれしいお言葉です。
通常、放送までは完成CGを見ていただく機会がないのですが、現場でCGを見ていただき、そのリアクション(お芝居)を拝見できたことは、私たちにとってもとても良い機会となりました。
記事の最後には、古川さんから皆さんへのメッセージもあります。
ぜひ最後までお付き合いお願いします!
海も船も両方見せたい! かなえたのは“J”
監督からの相談を受け、5月、監督と美術・技術のスタッフが集まって検討を開始しました。
スタジオはどれくらいの大きさが必要か。
船はどこをセットでどこをCGにするのか。
カメラアングルや照明の配置など、インカメラVFXを実現するために打合せを重ねていきました。
まず、決めたのはLEDウォールの形です。
一般的に、インカメラVFXで使用するのは平面または半円の形をしたもの。
しかし、今回は、アルファベットの“J”の形をしたLEDウォールを採用しました。
表現したいのは、船上のデッキから見える広い海、そしてアメリカへと向かう大きな船。
平面の使用も検討しましたが、海も船も両方見せるには、限界がありました。そこで、“J”です。
“J”型にすることで、広い海の奥行きも、船の側面だけでなく船尾も表現することができます。結果、幅26m×高さ6mの巨大なLEDウォールに決まりました。
光り輝く未来を描くには…そうだ!“海のきらめき”だ!
LEDウォールが決まったら、そこに映し出すCG空間を制作します。
実写のように見せるには、非常に精密に制作する必要がありました。
しかしこれがインカメラVFXの難しいところ。
カメラの動きに合わせ、リアルタイムで歩く人や風にたなびく旗、波を、自然に動かさなければなりません。
が、CGを細かく作り込めば作り込むほどデータは重くなり、滑らかに動かすことが難しくなります。
そのせめぎ合いに、とても苦労しました。
特に、私たちVFXチームが印象に残っているのは、胤篤と少女のラストシーンです。
監督からの要望は、「広がっていく海と広がっていく光り輝く未来」を表現することでした。
当初はCGの負荷を軽減するため、2Dで海を表現することを検討していました。
しかし、「光り輝く未来」を表現するには、「海のきらめきが必要だ!」と思った私たちVFXチーム。どうにかリアルタイムで3Dの海を描画できないかと考え始めました。
水平線のかなたまで広がる海原を、リアルタイムで動くCGで表現するのは非常に困難でした。
船の進むスピードに合わせた波の大きさと速さ、霞の奥行き感など、さまざまな要素を調整する必要がありました。
2週間にわたり、何度も調整と試行錯誤を重ね、ようやく「これだ!」という方向性が決定。
CGの船もあわせて完成までの制作期間は約4か月かかりました。
とはいえ、そこで終わりではありません。
撮影当日も我々の仕事は続きます。
監督から都度、「このカットは全面的にきらめきを」や「このカットは左下に少しきらめきを」などといった要望が伝えられます。
それを受け、一人のVFX担当者が照明などの技術チームと相談したり、CGの調整担当に対応内容を伝えたりします。
例えばきらめきを強めたいときには、CG調整担当にこんな指示を出しています。
「きらめきを強めたいので、CGの太陽の強さを強めてください」
「左下にきらめきを少し入れたいので、CGの太陽の角度を反時計回りに回してください」
結果できあがったのが下のシーンです。
いかがでしょうか?
海面のきらめきからも、このシーンが象徴する“光り輝く未来”を皆さんが感じていただけたとしたら、とてもうれしいです。
目指すのは“気づかれない”こと、“邪魔しない”こと
私たちVFXチームには、もうひとつ大切な仕事があります。
それは、リアルなセットや照明と、CGの世界を“なじませる”作業です。
この船のどこまでがリアルなセットで、どこからがCGかわかりますか?
答えは、左奥の乗客までがリアル。手すりから奥の赤部分がCGです。
こうしたセットとCGや、照明の色とCGの色などの境界を、視聴者のみなさんに気付かれぬようにすること。
それをわたしたちは“なじませる”と言っています。
このシーンでは、CGとセットの甲板の境界線を“なじませる”ことに、とても苦労しました。
地続きにするためには完全に色を合わせなければならず、時間もコストもかかりすぎてしまいます。
そこで、最初のアイデアは、セット側に船室を作り、境界線を隠してしまおうという案。
しかし、これでは船尾がほぼ見えなくなってしまい未来に向かう明るいシーンにも関わらず閉塞感を生む可能性があるということで、却下に。
考えた末、リアルセットの甲板がCGの甲板よりも一段上がったところにあるという設定にしました。
これで船尾も見通すことができ、青空を感じられる明るいシーンになる!と期待したのですが、思わぬ問題が発生しました。
本番前日のテスト中、役者の映像を見てみると、人物とLEDウォールの間に何もないことで、背景のCG感が強く出てしまったのです。
LEDウォールとセットの間をシンプルな段差だけにしたのが原因で、完全に“なじませ”られなかったのです…。
明日の本番を控え、どうすればいいのか途方に暮れていたところ、監督から手すりを段差に取り付けてはどうか、奥にエキストラを配置してはどうかという提案がありました。
他にも照明チームからは照明のバランスの調整、撮影チームからはボケ感を強めるレンズへの変更の提案をもらい、番組スタッフみんなの協力があってできあがったのが、先ほどご紹介した船尾のシーンなのです。
数秒の1シーンであっても、わたしたちの仕事は皆さんに「作りものだよね?」と気づかれたら終わり。
皆さんがドラマに集中できるよう、“気づかれない“・”邪魔しない“CG、それが私たちの目指したところです。
超マニアックですが、“なじませ”の詳しい過程もどうぞ
ちなみに、“なじませ”が完成するまでには、長い道のりがあります。
①CGと照明をなじませ
スタジオのセットの中とCG空間の中にそれぞれ、カラーチャートという色見本と、グレーボールという光のさす方向が分かる球体を配置。両方を見比べながら、カラーチャートがどちらも同じ色に見えるか、光のさし方は同じか確認し、照明の方向・強さ・色合いを合わせていきます。
②レイアウトをなじませ
雲の位置などの空模様やCG空間のモノの位置を、カメラの画角に合わせて調整します。
③ CGとセットをなじませ
船の床や手すりなど、セットとCG空間に同じ物がある場合は、セット側と同じ色になるように調整します。
こうした調整は撮影が始まる直前ギリギリ、「本番!」という声がかかるまで、「あともう一歩リアルな映像に近づけたい」という思いを持って作業を続けています。
最後に…
VFXチームでは、このシーン以外にも、シーズン1と2合わせ、300カット以上のVFXを制作してきました。
関わったスタッフは20人以上です。
そうして作り上げたシーンが大奥を彩る1つとなり、皆さんの心に残るドラマとなっていれば、それ以上のうれしいことはありません。
最後は、その一部を画像でご紹介しながら、瀧山役・古川雄大さんのメッセージとともにお別れしたいと思います。
これまで応援いただいた皆さん、ありがとうございました!
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