車いすユーザーとファッションの話をしてみたら、ちょっと生きやすくなった話
「あなたの配属は大阪局。担当は、福祉班の『バリバラ』です」
……え?
私は2019年冬、いわゆる中途採用でNHKのディレクターになった。
20代前半、地元広島のNHKでリポーターをしていた私は「出演するより作る方がおもしろそう」と思い立ち、東京の制作会社のディレクターとして数年間、あさイチなどを制作していた。
【広島局リポーター時代の筆者】
【あさイチでは「牛肉」や「眉」など様々なテーマを制作】
30歳(独身)を過ぎた頃、急激に「このまま結婚しなかったら一人で生きていけるんだろうか?」という不安にかられ、一念発起。
採用試験を受け、NHKの正社員になった。
「これからはあさイチとかの経験を活かして、番組作るんだろうな~」と思っていた矢先、言い渡された配属先が、バリバラだった。
今日は、 “福祉番組”どころか“障害者”にも全く縁がなかった私が、「ファッション」という共通言語をカギに、車いすユーザーとちょっとわかり合えるようになるまでの、話をしたい。
32年間、交わってこなかった“障害者”
バリバラって、あの障害者が出てる番組?
某番組の裏で“感動ポルノ”とか言ってバズってたアレ?
知っていることは本当にそれくらいで、ほぼ見たこともない番組だった。(すみません)
私は、家族にも親戚にも学生時代の友達にも、障害者が身近にいた経験がない。(いや、いま考えるといたのかもしれない。気づいてなかっただけで)
たまに駅で車いすの人を見かけるくらい。点字ブロックは目が見えない人のためにあるんですよね、くらいの知識レベル。
障害者なんて、まさに私の人生史上、全く交わってこなかった世界。
もうちょっと本音を言うなら、
交わらなくていいなら、交わらないほうがいいと思っていた世界。
「あいつ何しに来たん?」何も聞けないディレクター
バリバラ班に入ってすぐ、早速なじめなさそうな私をみかねたプロデューサーが、「とりあえず、いろんな人に会って話してみれば?」と(あたかも簡単なことかのように)提案してくれた。
私は、先輩ディレクターの取材先や、ネットで調べた当事者団体、手当たりしだいにアポを取って、会うことにした。
身体障害、精神障害、LGBTQなどの当事者や、その支援者の方、どなたも、こんな「福祉のことなんて全くわかってません」状態のど素人を受け入れてくださり、本当に有り難かった。
「なんでも聞いて」と。
でも、いざ対面すると、なんでもどころか、なんにも聞けない。
どんな障害なんですか?
何歳の時からですか?
どうやって生活してますか?
そんな基本的なトピックスが、詳しく聞けない。
(ましてやリポーター経験がある私、なんとな~く相手とテンション合わせて話を聞き出すことにはちょっと自信があったのに…)
“障害”や“性的マイノリティー”を念頭に相手に向き合うと、タブーに触れてしまう気がして、会話の中に踏んではいけない地雷がある気がして、自分でもがく然とするほど、ちゃんと話を聞き出せなかった。
落ち込んだ。
結局、薄っぺらい世間話とか、大阪のオススメスポットを聞くとか、差し障りのない話をして帰って行く私。
バリバラ班になった当初は、そんなことが度々あった。
相手からすると「あいつ、何しに来たん?」状態だったと思う。
「みんなと一緒が、なんかいい」な私
さらに私は、少しして、ある大きな気づきに至った。
バリバラが大事にしている言葉、それは「みんなちがって、みんないい」。
でも私自身はというと、いうなれば「みんなと一緒が、なんかいい」的な人間だ。
雑誌に載っているような流行りの服を求めて、
同じ系統だと認め合う友達と集まって、
同世代が結婚し出すとワーワー言って合コンして、
いわゆる世間一般でいうイケメンが好き。
そんなふうに自分のことを、なるべくなるべく“マジョリティー”という枠にはめて、そのなんとなくイケてる枠からはみ出ないように、慎重に生きている。
「違い」よりも、「同じ」や「大多数」に無意識に吸い寄せられている。
「みんなちがって、みんないい」と大声で言っているバリバラを見ると、また、そんな自分からは遠い世界の話に思えた。
チャンス到来 得意分野「ファッション」
バリバラ班にきて1年と少したった、今年4月。この頃になると、当事者の知り合いが増えていた。
彼らが感じる“社会のバリア”を掘り下げたいという思いで、番組作りに取り組む。
でも一方で、やっぱりどこか“自分ごと”からは遠い、“腹割って話せない感”もぬぐいきれないままでいた。
そんな矢先、ちょっとした転機が訪れた。
「車いすユーザーとファッション」というテーマの企画を、担当することになったのだ。
私は、ファッションが好きだ。
高いブランド品とか持ってるわけじゃないけど、
ファストファッションで安く買った服を、高見えするようにコーディネートを考えるのが好きだし、
ほしいデザインのピアスは自分で作るし、
月1回ネイルサロンで自分の爪がかわいくなっていくのを眺める時間は、何にも代えがたい至福のひととき。
特別なことではなくて「毎日のファッションを楽しむ」というテーマなら、私にもできるんじゃないか。
車いすユーザーあずみん、衝撃の事実
バリバラレギュラー出演者に、あずみんという私と同世代の女性がいる。
捻曲性骨異形成症という骨の病気で、電動車いすに乗っている。身長は96センチ。
早速あずみんにファッションについてのエピソードを聞くと、衝撃の事実が飛び出した。
…え、どゆこと。いつもスカート着てるじゃん。
どうやらあずみんは、着替えに介助が必要で、しかも寝っ転がらないと着替えられない。
楽屋でこれをするのは大変なので、衣装のスカートは、ズボンの上にひざ掛けのように置いて、腰を安全ピンでとめているだけ。
まさか!そんな工夫がなされていたとは!!全く気づかなかったよ、あずみん!!
どうやらバリバラに出演し始めて2年間このスタイルを貫いているが、誰にも気づかれたことはないらしい。
スカートめっちゃほしいねん!
続けて聞いてみた。
じゃあ、私服のときは、スカートちゃんとはいてるの?
身長96センチ、しかも車いすに乗っているという超特殊体型のあずみんは、試着しないとちょうどいいサイズのスカートには出会えない。
車いすから移動して寝転がって着替えるなんて、店の試着室ではできないから、スカートを買ったことがないらしい。
普通に、私服ではけるスカートがほしいあずみんの気持ち、私にもすごくよくわかる。
そりゃ、絶対ほしいよね。
ストンと腹に落ちた。
あずみんが、お店で試着して服を買う企画を、放送することに決めた。
自ら「障害」を増やす女、さしみちゃん
もう一人、印象に残っている人がいる。
ウェブデザイナーをしながらユーチューバーとしても活動する、さしみちゃんだ。
さしみちゃんは、生まれつきの珍しい骨の病気の上、後天的な疾患も加わり、障害としてはかなり複雑。
私はまた例のごとく、なんとなくその部分に触れるのをためらいながら、まずはファッションのこだわりを聞いていた。
ネイルの話で盛り上がった。
さしみちゃんは、スカルプ(長さ出し)ガンガンの、ド派手ネイルをしている。
「あんまり爪長いと小銭とか取りづらいですよねー」と私が何気なく言ったとき、さしみちゃんはこう答えた。
…え、そゆこと言うんだ。
私は触れてはいけないタブー、踏んではいけない地雷を警戒しまくっていたのに、さしみちゃん側から、余裕でぶっ放してきた。
しかも、ド派手ネイルの話にポップにまぶして。
「障害」だけを、勝手にその人の枕詞に決めつけていたのは、私だ
なんだかハッとした。
さしみちゃんにとっては、下半身に障害があることも、ネイルが好きなことも、同等に、自分自身の一部だ。
”障害があるあずみん“ “障害があるさしみちゃん”
そうだけど、それだけじゃない。
“スカートがほしいあずみん” と “ド派手ネイルのさしみちゃん”だ!!
ファッションという共通言語をもつと、そんな当たり前のことが、ようやくはっきりわかってきて、もっと目の前の人と、いろんな話がしたくなった。
取材を終えるとき、さしみちゃんに、
と言われた。
嬉しかった、私の自己満かもしれないけど。
私、前より生きやすくなりました
バリバラ班に来て、最近思うことがある。
私、前よりちょっと、生きやすくなったなぁ。
自分を無理に“マジョリティー”という謎の枠にはめる意味が、ないと思えるようになったからだ。
だってそもそも、その人のどこを切り取るかによって、マイノリティもマジョリティもない。
周りがしたからって結婚に焦らなくたって(いや、したいけど)、流行りじゃなくても、お気に入りの服なら着続けたって、突拍子もないタイプの人を好きになったって、
まぁいいか。
私もどうせ「みんなちがって、みんないい」の一員だ。(笑)
ちなみに、あずみんやさしみちゃんを取材した「車いすユーザーとファッション」の企画は、6月24日(木)Eテレよる8時~バリバラで放送します。
※放送後1週間は見逃し配信もあります
(見逃し配信の視聴には登録が必要ですが 登録後すぐにご覧いただけます)
見た人が、「みんなちがって、みんないい」を感じて、ちょっとでも生きやすくなったらいいなと思っています。