鉄道と天カメと私~#NHK鉄道の日~
10月14日、NHKの全国各地域にある放送局のツイッターアカウントから、とっておきの鉄道の画像が投稿されました。
その数、全部で337ツイート。#NHK鉄道の日、というイベントです。
こんにちは。大阪拠点放送局のアナウンサー、近田雄一と申します。
「鉄オタ選手権」という番組のナレーションを時々担当していることと、個人的に鉄道好きということもあって、この取り組みについて書くことになりました。
実は去年大阪局は参加しておらず、今年はひそかに機会をうかがっていたところ。
お天気カメラでいかに“映える”鉄道風景を切り取るか、その一部始終に加えて、一連の投稿の中で特に気になったものをピックアップ!それでは、出発進行!
▼去年の投稿画像はこちら▼
お天気カメラの「間合い運用」
NHKのお天気カメラは全国に約850箇所。そもそもどこでどうやって動かしているんでしょうか?大阪局で言えば…
ニュースフロアにある副調整室の調整卓。スタジオに指示を出したり映像や音声を調整したりする、いわば放送の司令塔です。
(災害時などに東京から放送が出せなくなった際、大阪局から全国に向けてバックアップ放送を行うのもここ)
その一角に、お天気カメラを動かす装置があります。
モニターを見ながら、左のレバーで拡大縮小、右のスティックで上下左右にカメラの向きを変えることができるそう。技術の担当者が操作方法を丁寧に教えてくれました。「そうかそうか」とうなずいた私。
それから、運転席の後ろでかぶりつきになって、前面展望と運転士の一挙手一投足を見つめる子どものように見つめていると…
なんと、「鉄道の日」の撮影に関しては、放送ではないということで、自分でカメラを操作することに!
もちろん、本来は災害や緊急報道のためのもの。何かあればすぐに交替するということを固く技術担当者と約束をして…。
お天気カメラで鉄道を撮影することは、そう、言うなれば鉄道の「間合い運用」。特急用の車両を、運用の無い時間帯に(または始発駅に回送する代わりに)普通列車として運用するようなものです。
新大阪“以東”で500系をねらえ!
ということで、カメラ操作を自分でやることになった私。放送でお天気カメラの映像を見ながら情報をお伝えしたことは何度もありますが、動かした経験はほとんどありません。
教わりながら、いざ自分でやってみるとこれが意外と難しい。リモート操作のため、手元の動きに比べてカメラの動きがワンテンポ遅れるのです。どうしてもカメラが行き過ぎる。
ここだ!と思うポイントの手前でスティックを止めるのがコツだそうですが、何度も微調整してやっとのことで画角を固めるだけで精いっぱい。しかも…
「あ、また来た!」
新幹線が次々と通るため、気になって気になって気になって…。
ちなみに、放送上複雑なオペレーションが必要なときは、“Aという画角からBという画角まで、○秒でカメラを振る”などと事前に設定して自動で動かすことも可能だそうです。
続いては、どのカメラを使用するか。参考にしたのはこのファイル。
すべてのカメラごとにどの方角に何が映るかを詳細に記した資料です。近畿分をとじただけでもかなりの分厚さに!こうした資料が手の届く所にいつも備えられていることで、緊急時にも迅速な対応が可能になるのです。
今回選んだのは、新大阪駅を東側から撮影できるカメラ。年末年始やお盆の時期の交通機関の混雑を伝えるニュースなどで、見覚えのある方もいらっしゃるかもしれません。
ただ、ここでふだんどおりに新幹線を映しても、「鉄道の日」的に“映える”画像にはならない。そこで考えたのが…
新幹線500系!この尖ったシャープなフォルム。根強い人気のある車両です。
かつては東京-博多間を走っていた500系も、現在は博多-新大阪間のこだま号として運用されるのみ。つまり新大阪より西でしかその姿は見られない。
しかし実は、車両基地から始発の新大阪駅に向かうわずかな区間、新大阪以東を走るのです。そのシーンを撮影できれば、大阪局ならではの一枚になるのでは…。
狙いは、こだま841号博多行。入線は20番線。カメラから見て一番左側の線路だ。いつもニュースで伝える時よりもやや左方向に画角を調整する。そして…
スマホを構える。…ここでひとつお断りです。システム的にはお天気カメラの映像をパソコンや編集機に取り込み、元の画質のまま動画や静止画にすることは当然可能で、放送ではもちろんそうしています。
ただこのときはちょっと朝の早い時間で、こちらに割く人手がなく、やむを得ずモニターを接写するという手法で撮影に臨むことに。
(※イメージ。大阪駅もこの手法で撮影しました!)
大阪局発信の画像が他と比べて粗いのは、決してお天気カメラの性能のせいではなく、私のせいです。すみません。
そうこうしているうちに近付く入線時刻。列車は画面左下から急に現れるはず。反射神経の勝負。スマホを持つ手がぷるぷるし始めた、次の瞬間。
来た。連写。ひたすら連写。
無事フレームにおさまった。特徴的な流線型。
正真正銘、新大阪以東を走る500系。
朝日を背中から浴びながら堂々入線…………、かっこいい!!!!!
実際の投稿がこちら。
たくさんのいいね、ありがとうございました!500系人気、健在ですね。
…と、以上が投稿までの一連の流れです。報道、技術、多くの協力や助言があって、撮影に至ることができました。
お天気カメラについての日頃の習熟が、緊急時への対応、さらには今回のような取り組みにつながっていることは言うまでもありません。
#NHK鉄道の日 近田的ハイライト!
さて、「鉄道の日」当日は、前述の通り全国各局が合わせて337ツイート。ここからは、その中から特に個人的に気になった投稿をご紹介していきます!
■今年は「East i」を追っかけ!実は、その中に…!?
去年のドクターイエローに変わって、今年はJR東日本の新幹線検測車「East i」を追っかけることになった「#NHK鉄道の日」。
金沢→長野→さいたま→福島と、見事にバトンがつながれました。そのきっかけを作った金沢局の午後4:25のツイートに注目。
動画の0:19あたりから、「East i」の手前を何かが横切る!? 在来線と並走する区間だと思いますが、そこを電気機関車とディーゼル機関車が連結して走っていたのです。
電気機関車の形式はおそらくEF510。何らかの目的で、無動力状態のディーゼル機関車を引っ張ってどこかへ輸送する途中だったのでしょう。貴重なシーンを捉えた金沢局、さすがです。
■憧れのダイヤモンドクロスと三刀流
次にあげるのは、近田憧れの鉄道の光景、松山局投稿の伊予鉄道のダイヤモンドクロスです。
線路が平面で交差する地点のことで、全国でもわずかしかない貴重なスポットです。
ここを列車が通過する時の独特のジョイント音(ガタンゴトンというあれ)は、鉄道ファンであればいつかは生で聴きたい憧れのリズム。
映っているのが、元京王電鉄3000系&5000系という点に懐かしさを覚える人も多いかもしれませんね。
もう一つは、大津局のお天気カメラが撮影した京阪京津線の800系。
道路を4両編成の電車が走る、という迫力もさることながら、列車の走る様子にご注目。右から左へ、坂を上っているのが分かりますか?
実はこの電車、琵琶湖近くの併用軌道の区間(道路上の線路を走る区間)を走った後、登山鉄道並みの傾斜(最大61パーミル=1000mにつき61mのぼる)を越えて、最後は京都の地下鉄にまで乗り入れてしまうという、二刀流どころか三刀流の超万能車両なのです。
その特徴の一端を感じ取れる映像でした。
■「自走しないキヤ」の背後にいた大スター
ラストは、鉄道好きで知られる名古屋局・別井アナウンサーによるツイート。
レールを運搬する気動車がディーゼル機関車にけん引されるという、それ自体珍しい運用ですが、注目は午前11:01にツイートされた動画。
この#自走しないキヤが通過する前、何気なく後方右から左に走っていく貨物列車が映っています。鉄道ファンはむしろこちらに反応するはず。
EF66-27、愛称ニーナ。生まれは1970年代。EF66という形式の電気機関車のうち、かつてブルートレインをけん引したEF66の基本番台で唯一残る機関車です。
走るたびに鉄道ファン界わいがざわつくほどの人気の機関車。午後にネタバレツイートをしていましたが、当初それについてはひとことも書かずに、さりげなく発信するとは。別井アナ、にくいねえ。
と、ここまで、あくまで個人的に気になったものを紹介しました。本当は迷いに迷ったんです。ご紹介したい映像・画像がとにかくたくさんあって。
各局担当者の鉄道愛を改めて感じたい方は、後日まとめ記事を投稿予定ですので、ぜひお読みください。
最後に…
今回の取り組みに参加する中で、新人時代、上司によく言われていたことを思い出しました。
「自分の所属する局の天カメの場所と何が見えるかをしっかり覚えておくように」
地震などの災害が起きて最初に映し出されるのは、当該地域のお天気カメラの映像です。ふだんの様子をよく見ておけば、いざというとき異変にいち早く気付き、視聴者の安心安全のためのすばやい情報伝達につなげられる。
「鉄道の日」は、きっと各局の担当者が、自局のお天気カメラと改めて向き合う日になったことでしょう。前述の通り、この取り組みはいわば「間合い運用」、平穏なればこそ。
その平穏に貢献できるようなNHKでありたい。来年、3回目があることを願って…。最後までご乗車いただき、ありがとうございました。
▼鉄道好きが高じて、大阪局ではこんなコーナーの立ち上げにも関わりました▼
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