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「夫はいるのにワンオペ育児、私の辛さをあなたはわかっていない」と言われ続けた私が作る、次の番組は |#コロナ禍のもやもや子育て

タイトルにしたのは、高校生と中学生、あわせて3人の娘を持つ50代の私に対して、折に触れて妻が投げかけてきた言葉です。

「わかっている」と口では言ってきたし、できるだけ子育てしている「つもり」でしたが、コロナ禍をきっかけにそれは全く違っていたことが、今頃になってわかってきました。

私は1992年にNHKに入局し、以来30年にわたり番組制作を行ってきました。主にNHKスペシャルクローズアップ現代を担当。

テーマはさまざまで、バブル崩壊後の金融不安やIT革命、リーマンショックといった経済モノ、学校のいじめ問題、阪神・淡路大震災や東日本大震災などの災害やそこで暮らす人たちの営み…国内だけでなく、欧米やアジア、アフリカ、アフガニスタンなど各地を駆け回って最前線の様子を取材してロケし、その映像素材を膨大な労力と日数をかけて編集する仕事です。

家を空けることが多く、それに加えて休みであっても地震や大きな事件事故があればすぐに会社にかけつけます。勤務する場所も、子供が生まれた時は東京で、そのあと仙台に転勤し、再び東京に。家族もそこについてきてくれました。

多大な苦労をかけてきましたが、それでも理解してくれた家族には感謝してもしきれません。

文字通り不規則で、先の計画を立てにくい生活を妻や子供たちにも強いてきた「父親失格」の私が「コロナ禍の子育て」をテーマに番組を制作することになりました。どんな気持ちで番組制作にあたろうとしているのか、書いてみたいと思います。

番組の合言葉は「半径1メートル」

今回、私が制作に携わっているNHKスペシャルは、親の悩み・本音が番組の中心を成しています。

大所高所から伝えるのではなく、「半径1メートル」が合言葉。子育てにまつわる制度や仕組みの課題も多くありますが、今回はそうした観点から出発するのでなく、一人一人のみなさんの胸の内を率直に聞くことからスタートし、その悩みをどうしたらなくしていけるか、みなさんと一緒に具体的に考えていきたいと思っています。

そこには、テレビ制作者としてのじくじたる思いと反省が込められています。

先に書きましたように私がNHKに入局したのは30年前。インターネットがまだ一般的でなく、テレビがまさに輝いていた時代でした。

しかし今、状況は大きく変わりました。インターネットが主流となり、誰でもネットで情報を集められます。情報交換もします。

それどころか個人が動画を作成し発信する時代です。NHKを見ない人が増えています。このようにメディアをとりまく全体状況が変わる中、自分たち制作者の手法、伝え方がいつまでもかつてのやり方から抜け出せていないこともテレビ離れを助長しているのではないかと自省しています。

そこで今回は、私たち制作者の側が「子育ての課題はこれとこれとこれだ」と設定するのでなく、インターネットなどを通じてみなさんの声を集める、その情報を発信する、そして皆さんから解決の具体的なアイデアを集め、それをトライしてみる…そんな番組にしようと企画を進めています。

特に大事にしたいのが、悩みを集めるところで止まらず、その悩みを解決する具体的なタネを見つけ、社会に投げかけたいということ。

これも、これまでのテレビ制作の反省点として、私たちはともすると社会課題の問題点を指摘するだけで止まっていたと思います。でも、実は視聴者のみなさんは「いますぐにもなんとかしてほしい」「なんとかこの悩みを解消したい」と切実に願っているはずです。

しかも、ネット空間では役立つ情報を互いに交換したり、励まし合ったりしながら解決策を教えあったりしています。

「求めているのはそういうことではないか…」。そんな自戒の念をもって、30代の子供がいるディレクターを中心に、自分たちも当事者の一人として皆さんの声に向き合い、解決のタネを見つけていこうと試行錯誤しています。

画像 打ち合わせの様子

「できるときにやる」のは家事じゃない?

ワンオペ育児がどれだけ大変なのか、気づきを得るようになったのは、コロナ禍で在宅勤務が求められる中、食事を作ったり掃除をしたりといった家事全般を私が主に行うことになったことがきっかけでした。

「あなたは何もわかっていない。一度やってみるべきだ」

在宅で家にいることが多くなったある日、妻から求められました。「会社に行くから難しい」という言い訳はできません。

私は大学進学以来、一人暮らしをしていたため、食事も掃除も洗濯も一とおりできます。子供が生まれた後も「できるとき」には行っていました。しかし、「できるときにやる」ことと「できないときもやる」ことの間には、何百倍もの違いがあるということを、今頃になってようやくわかるようになりました。

体調が悪くても、どんなに仕事が忙しくても、家事は逃げてくれません。毎食のメニューをどうするか、冷蔵庫の食材の減り具合をみながら先々のことを考えることは、かなり頭を使います。

ちょっと油断すると野菜が干からびています。それを見ると本当にへこみます。張り切って「もてなし料理」を作るのとは根本的に違います。

食事を作るのも、当たり前ですが手間も時間もとられるわけで、「お弁当はできるだけ手料理で」と言っている人がいますが、そんなこと無理!冷凍食品さまさまです。シンクやガスコンロ周りは洗わないとすぐに油っぽくなるわけですが、これまでは妻がこまめにきれいにしてくれていたから使えていたということに、これも今さらながら気づかされました。

画像 シチューの鍋
毎週必ず、カレーかシチューを作って2日間持たせる!

加えて、子供がわがままを言います。妻は子供を自立させていくために、自分でできる家事を子どもにできるだけやらせようとしていますが、当然、やらないことも多々あり私と子供はケンカ。自分がやってしまったほうが早いと私がついついやってしまうと「自立させることが親の役目なのにまったくわかっていない」と妻から怒られます。

「子供に教えるのは本当に骨の折れることだし、根気のいること」と妻はよく話していますが、その意味も、今頃になって肌感覚としてわかってきたというお粗末な状態…。

今回の番組制作の過程で、制作メンバーが、ネットで子育て漫画を発信する白目みさえさんを取材しました。

画像 白目みさえさん

女性の本音を主にインスタグラムで毎日投稿し、フォロワー9万にのぼる人気アカウントになっている白目さん。「夫との認識のずれ」が人気テーマですが、夫と妻が家事の種類を書き出した作品では、白目さんが200種類出したのに対して夫が10。

画像 家事に対する認識のずれを漫画で表現

これ、まさしく我が家。

「夫にとって自分がやっている家事がすべてだという認識ですけど、私にとってはそのほかの残りの家事を私がやっているという認識で、そもそもの家事の総数の認識がお互いにずれていました」

と語る白目さんの言葉どおりの暮らしになっていたのです。

今回の番組では、まさしく我が家のような「夫はいるのにワンオペ育児」がテーマのひとつです。

コロナ禍の育児で何が困っているか調べてみると、外出自粛や在宅勤務などで男性の在宅率があがっているはずなのにワンオペ育児に悩む女性たちの声が多いことがわかりました。
外に出られない、人に会えない…そもそもストレスだらけの暮らしを強いられている上に、夫の不理解で子育てに悩み、苦しくなっている女性たちが多くいます。
私も、自分の経験をもとに、そうした皆さんの声にしっかりと向き合い、こうした状況を変えるために何をしたらいいか考えて、伝えていきたいです。

夫たちは、いつ、どこで気づけるか

今回の番組では男性の育休についても考えていきます。私は16年前に3か月育休をとりました。

何か立派な考えがあったからとったわけではなく、長女にアレルギーがあり、文字通り泣き続ける夜が続くなか、私はディレクターとして最も脂が乗っている時期で不在ばかり。
ある晩、「もう無理!」と追い込まれた妻が叫んだことがきっかけでした。

育児休職中は本当にめまぐるしく、子供のこと以外何も手が回らない状態。泣いている理由がわからず、疲労感とストレスが蓄積されていきます。
「あーっ」とか「もう」とか言葉にならない叫びを何度もあげます。
パソコンでメールを確認する時間すらありませんでした(スマホがない時代です)。

妻がよく「特に小さい子供を育てているときは子供以外の世界がない。社会から切り離されている」と話していますが、それを初めて自分ごととして実感したのはこの時でした。
育休をとらなかったら、その実感は得られていなかったと思います。

日本では男性の育休取得は少しずつ増えていて12.65%(2020年度)になっていますが、女性の8割以上が取得していることに比べるとまだまだ低いままです。私たち男性側がどれだけ変われるか、そのことが本当に大事だなと感じています。

画像 男性の育休取得に関するグラフ
出典:厚生労働省 令和2年度雇用均等基本調査より

番組では、みなさんの悩みや解決策のアイデアを募集しています。その声が、私たちの番組の中心になります。私たちは寄せていただいた声を番組などで紹介するだけでなく、さまざまなサービスを提供している人たちに投げかけたり、行政に伝えたり、そんなことを行っていきます。

少しでもコロナ禍の子育ての悩みが解消される、そんな番組づくりにみなさんのお力を貸していただければうれしいです。ぜひ、みなさんの声をお寄せください。

プロジェクトセンター チーフ・リード
矢島敦視

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「つながれ!チエノワ」プロジェクト

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5月29日(日) NHKスペシャル「つながれ!チエノワ」

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