「ありのままのあなたでいい」就活生のリアルと向き合った私たちが伝えたいメッセージ
毎週月曜から木曜夜10時45分から放送中の夜ドラ「わたしの一番最悪なともだち」。
プロデューサーを務めています、押田友太です。
2022年に放送したよるドラ「恋せぬふたり」では企画・演出を担当しました。
そんな私が、このドラマが生まれるきっかけについて、少しお話できたらと思っています。
就活生のリアルを伝えたい
実はこのドラマ、皆さんがご覧になっているものとはちょっと違った形で最初は進んでいました。
作家の吹野剛史さんのアイデアである「親友のエントリーシートを拝借して、ある企業に就職する」ということは、変わらない部分ですが、今よりも恋愛を中心としたお仕事ラブコメディの形式になっていました。
もちろん、このアイデア自体はとても面白いものではありましたし、これもこれで一つの正解だとは思っていましたが、実際に現役の就活生に会って話を聞いたときから、少し考えが変わり始めます。
私自身は2012年に就職活動をしています。
この当時も、どん底ではありませんでしたが、リーマンショックや東日本大震災の余波で、そんなに楽といわれる就活ではありませんでした。
「お祈りメール」という「ご活躍をお祈りされる」文面だけで落ちた時には、なぜ落ちたかわからないからこそ、何か自分自身の存在を否定されているような、やるせない気持ちになったことを覚えています。
そんな胸がチクっとする感覚は残ってはいるものの、10年近く前の出来事ですので、現役の就活生たちの気持ちとはかけ離れているかもしれないという懸念がありました。
演出と共に、当初はそんな現役就活生たちとの認識の差をレベル合わせするために始めた取材でしたが、その取材がこのドラマの一つの道しるべになっていきます。
取材させていただいたのは、男女問わずさまざまな大学に通う3年生から4年生の学生で、すでに内定を得ている人もいれば、別の進路を辿った人もいたり、これから就活するという方たちも含まれていました。
当然ながら多様な価値観にあふれており、わたしたちの世代と変わらないなあという印象もありましたが、共通して、次のことだけが違いました。
それは、コロナ禍に学生生活を送ったということです。
大学に通って勉強するということはもちろん、サークル活動やバイト、旅行など、一般的に「思うような学生生活」を送ることができなかった方々がほとんどでした。
取材した中で、ある方の言葉が印象に残っています。
すべての方ではありませんが、言うなれば、就活をある種の「自己実現、人生の転機」と捉える方が多かったように思いました。
今の自分をどう変えるかという意識。何かになりたい、そういう気持ちがあるからこそ、本当に真面目に「何者」かになろうともがいている、そんな感じがしました。
その人たちを見て、何かになろうとすることのうれしさ、苦しさをすごく感じたし、同時に「今の自分はこのままで良いのか…」というおそらく誰でも感じる「焦り」みたいなものに、とても共感した記憶があります。
そういう学生たちのリアルな声を少しでも伝えたいという思いがこのドラマの大きな方針転換につながったのです。
面接官だって悩んでいる
このドラマの企画を具体化していくとき、就活生だけではなく、企業側も取材したいというのは当初から思っていたことでした。
というのも、私自身、採用面接を担当したことがあり、その経験をする前と後では、認識が大きく変わったからです。正直とても難しかったです。
短い時間の中で、学生たちの本音を聞き取り、この会社で一緒に働きたいかどうかを見極める。
仕事がら俳優のオーディションは経験していますが、採用の面接という、もしかしたらこれで相手の人生が変わってしまうかもしれない面接に関わることは怖くもあったし、とても緊張しました。
誠心誠意、面接は行いましたが、就活生たちの実力を十分引き出すことができたのか、絶対の自信はありません。
この経験があったからこそ、ドラマで就活を描くならば、面接官のリアルな声だって聞いておきたいと思ったのです。
出版社、メーカー、広告代理店、コンサルなど、いわゆる業界の大手というところに取材をさせていただきました。
もちろん、詳細については企業秘密が前提ですので、ここで開示することはできませんが、取材していて、あるキーポイントを見つけます。
それは、コロナ禍を経て学生時代に力を入れたこと(=ガクチカ)に大きな差がみえるようになったということでした。
つまり、コロナ禍という未曽有の状況の中で、自ら進んで新しい経験をしようとする人とそうでない人の差がはっきりしていたということでした。
大学時代にさまざまな経験ができないので話すことがなく、だからこそ高校時代のことや、中学時代、さらに小学校時代までさかのぼる人までいたということも教えてくれました。
でも採用面接で求めていることについて、ある方はこう話してくれました。
ドラマの中で登場するさまざまな面接官のたたずまいやセリフに、これら取材内容は反映されていますが、言いたいことは、面接官だって悩んでいるということです。
だからこそ、このドラマでの面接官は、得体の知れない威圧感を与えるだけの存在ではなく、就活生をサポートできる血の通ったキャラクターにするという選択をしました。
最終面接を担当し、ほたるの直属の上司となる原田泰造さん演じる木下が、部下と接する際のあり方にもぜひ注目してください。
脚本家・兵藤るりさんの力を借りたい!
とはいうものの、コアとなる制作陣の中に就活現役世代は入っておらず、年代的に一番下である私でさえ、この世代から10年近く離れていました。
そんな我々が“いま”の就活生のリアルを描くことなんて並大抵のことではありません。
そんなときに、力を借りたいと思ったのが、まだ20代半ばの新進気鋭の作家である兵藤るりさんでした。
兵藤さんは、NHKで「就活生日記」(2020年)など就活を舞台にドラマを描いた経験があり、「おいハンサム!!」(フジテレビ系)などで声高ではありませんが、大切なメッセージをコミカルに仕込んでいくすばらしいセンスの持ち主です。
そんな兵藤さんにプレゼンをしたところ、社会人2年目を迎えた自分だからこそ向き合える物語があるのではないかと快く引き受けていただきました。
そこから吹野さんの「親友のエントリーシートを拝借して就職する」というアイデアを出発点として、兵藤さんの等身大で豊かな想像力を存分に発揮していただき、よりリアルを重視し登場人物の内面に迫った、全く新しい「わたしの一番最悪なともだち」というオリジナルストーリーが生まれたのです!
ありのままのあなたでいいんだよ
「イチとも」はほたるが就活して内定を得るまでを描くのではなく、社会人になって3年目までを描くドラマです(実はそこが重要なポイントですが、それがなぜかは本編を見てのお楽しみです)。
そんな物語をつくる上で、大事にしてきたことがあります。このドラマの企画書に書かれていることを引用します。
「個性」や「人と違うこと」を求められている社会かもしれないですが、実は「自分らしさ」って自分が一番気づいてないものだと思っています。
いつの間にか、そんな自分を押し殺して「誰かが求める自分」に向かってしまう。
ドラマに登場するほたるや美晴もまさにそうです。
自分ではない誰かに「がんばって」なろうとしてしまう。だから息苦しくなってしまうのではないだろうか。
ほたるや美晴みたいな人って世の中にたくさんいるはずなので、そんな息苦しさを少しでも解放できるきっかけに、ささやかながらこのドラマがなれたら、という思いを込めました。
そして、もう一つ大事にしたことは、何かを完全に否定しないことです。
ほたるはウソをついて(美晴のプロフィールを拝借して)、就職します。
もちろん、そのこと自体は良いことではありません。でもウソをつくことだって必要なときはある。
ウソが誰かを守るときだってあるし、背伸びをするウソが自分を成長させたり、大切なことに気づかせてくれたりすることだってある(だからこそ「がんばること」自体も否定はしません)。
あるいは、「やりたいことがない」や「夢がない」ことは決してダメではない。これから気づいていけばいい。
このドラマは一つの価値観に縛られないようにしたい。それは決して大きな声ではなく、静かに、届く人には届くような小さな声で。
そう、すべては「ありのままのあなたでいいんだよ」というテーマにつながります。
誰かに合わせるのではなく、自分の生き方を肯定していく。
肯定するのは、「自分自身で」なのかもしれないし、「自分ではない誰かによって」かもしれません。現実的には難しいことかもしれません。理想かもしれません。
でもそういう考え方を持つことってすてきだと思いませんか?もちろん、この考え方も一つの捉え方ですので、見ている方の自由な発想に最後はゆだねたいと思っています。
長々とここまで読んでいただいた方、本当にありがとうございました。
一筋縄ではいかないところや胸が痛くなるようなシーンがたくさん出てくるドラマです。
でもだからこそ、「わたしの一番最悪なともだち」がこれから、どうなっていくのか。ぜひ見守ってほしいと思っています。
ほたるや美晴は果たして、お互いを許し合うことができるのか。
現在チームを挙げて、総仕上げの真っただ中です。
物語はいよいよクライマックス!最後までご覧いただければ幸いです。
▼「わたしの一番最悪なともだち」HPはこちら▼
▼兵藤さんの執筆秘話はこちら▼