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ドラマ「恋せぬふたり」が生まれた理由 

はじめまして、よるドラ「恋せぬふたり」を企画・演出しています。押田友太です。

2013年にNHKに入局し、広島拠点放送局を経て、4年ほど大河ドラマや連続テレビ小説を中心に、東京でドラマ制作に携わっています。

そんな私がこのドラマを企画したきっかけについて、少しお話できたらと思います。


恋愛を描かないとドラマにならないのか?

劇中写真

最初に赴任した広島拠点放送局で初めて制作したドラマがあります。それは高校生が神楽という伝統芸能を部活動として頑張る物語でした。

そのドラマを制作したときに、作家さんとの打ち合わせで、ドラマの本筋とは関係ないのですが、「やっぱり主人公が高校生だったら、恋愛要素は入れたほうがいいですよね」ということになりました。

そのときは青春ドラマだとよくあることだし、それでいいとも思ってはいたのですが、一方で、高校生が主人公なら恋愛を描くことが必要なのかという気持ちもありました。

結果的には、主人公のヒロインとその親友、そして、男性の先輩との三角関係もなんとなく描くということになりましたが、単純に部活に熱中するお話でも良かったのかなと放送終了後、思うことがありました。

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その後、東京に来て大河ドラマや連続テレビ小説に携わっていると、やっぱりヒロインと相手役というのがセットになっていて、恋愛要素が出てくることがほとんどです。世の中の反響もヒロインの発表と同時に、「では相手役は誰だ?」と話題になることが多いような気がします。

もちろん、ドラマや映画の世界において、誰と出会い、どう恋愛関係に発展し、どう結ばれていくのか(あるいは結ばれるためにどう障害を乗り越えていくのか)ということを見守るのは、観客にとってドラマティックな要素であることに疑いはありません。

「メロドラマ」というジャンルがあるように、フィクションにおいて「恋愛を描くこと」が最も重要な歴史を有しているものだとも思います。
でも恋愛を描かないとドラマにはならないのか?アンチ恋愛ドラマ=ドラマにはならないのか?と疑問は拭えませんでした。

そんなときに、新人作家さんと共同で脚本を開発する会が部内であり、ある作家さんから「リスロマンティック」(恋愛的に惹かれるが、その感情を返してほしいとは感じない、またはパートナー関係になることにこだわらないセクシュアリティ)という言葉を教えてもらいました。

その言葉を深く知るためにある団体に取材をさせてもらうと、その対応をしてくださった方がアロマンティックやアセクシュアルに詳しい方で、言葉の意味や当事者の方々の声などを教えてくれました。不勉強ながら「アロマンティック」や「アセクシュアル」という言葉をその時は全く知りませんでしたが、リスロマンティックは元々同じコミニュティ内で生まれた言葉で、とても近しい関係性にあることを伺いました(関連カテゴリーとして一つにまとめられることもあるそうです)。

そして、お話を伺う中で、その方の言葉にハッとしました。

「日本のドラマって、必ず恋愛することが良いということを描かないとドラマにならないんですかね?」

「そういう映画やドラマしかないと、自分の存在が否定されているように感じてしまう当事者の方もいます」

自分の中の疑問とその方の言葉が何となく合致しました。なにげなく「恋愛は良いものだ」というドラマをわれわれはつくっているけれど、実はそれをみることで傷つく誰かがいるかもしれない。
恋愛することは幸せだという「当たり前」は、実は「当たり前」ではないのかもしれない。

アロマンティック・アセクシュアルの当事者だけではなく、より多くの「恋愛しないと幸せじゃないの?」と思っている人たちへ向けてつくる、そういうドラマがあっても良いのではないか。

その思いからこのドラマの企画は生まれました(こういう企画を認めてくださった尾崎チーフプロデューサーには本当に感謝です!)

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脚本家・吉田恵里香さんへのオファー

とはいうものの、「恋愛しないと幸せじゃないの?」ということを主題につくるドラマは並大抵ではありません。

前述したように「恋愛」というのは、物語を推進する力があり、そういうつもりはなくてもいつの間にか「恋愛脳」にならざるを得ない自分がいました。三角関係、恋の駆け引きなど、ヒリヒリするような展開に引かれる思いは、恋愛ドラマにいかにとらわれているのかを実感することでもありました。

その悩みを一緒に共有してくれたのが、脚本家の吉田恵里香さんです。

あるインタビューで、吉田さんが脚本を務められた「30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい」(テレビ東京系)という作品に、原作と違い、恋愛をしなくてもいいキャラクターが登場していて、そのアイデアは吉田さん発信ということが書かれていました。

さっそくお会いしてお話を伺ってみると、ずっと描きたかったテーマであり、ぜひ制作したいというお返事をいただきました。たくさんのラブコメをつくり、恋愛ドラマに向き合ってきた吉田さんだからこそ、「恋愛をしない幸せ」をどう描くのか、そこにすごく興味が湧きました。

脚本を制作する上では、アロマアセクという言葉を出さないという選択肢もあったのですが、「真正面から向き合ってみたい」という吉田さんの思いに引っ張られ、アロマアセクという言葉を出して描くことを決心しました。

そこから考証の方にも入っていただき、なるべく嘘がないように、取材を重ね、丁寧につくっているつもりです。なので、登場人物が話す台詞せりふは、実際に取材の中でお話いただいたフレーズやエピソードなどをアレンジして使用させていただいています。

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特に咲子と羽の設定にはとても時間をかけました。
このドラマでは、咲子と羽は同じアロマアセクですが、アロマアセクの中でも多様な人を描けるように、恋愛や性愛などについて「よく分からない」「嫌悪感がある」という設定にそれぞれしています。

考証の方のアイデアで、咲子と高橋のイメージをより鮮明にするために、アロマやアセクに関連する50近い質問や事例を用意しました。
そして、咲子、羽はそれらに対してどう対応するか・経験してきたかということを一緒に考えながら、キャラ設定についてすり合わせを行いました。
(岸井ゆきのさんや高橋一生さんとも共有しています)

例えば、「自分に向けられた恋愛的アプローチに気づかなかったことがありますか?」という問いであれば、咲子なら「はい(周りに言われて気づく)」、高橋なら「ほぼない(警戒心があるため)」などの対応や経験をしてきている人物だろう、とすり合わせていったイメージです。

アロマアセクについてより深く知っていける契機になったにはなったのですが、想像以上に時間がかかり、自分たちがいかにさまざまな偏見に満ち満ちているかを問い詰められる経験になりました。

自分の幸せは自分で決める

そんな風に脚本づくりでもさまざまな余曲折があったこのドラマ制作ですが、俳優部、スタッフの全面協力によりなんとか放送にたどり着きました。その上で、吉田さんと共有したこのドラマで一番大事にしたいことをお伝えします。

それは「自分の幸せは自分で決める」ということです。
当たり前ですが、決して「恋愛しないことが良い」ことで「恋愛している人が悪い」ということ言いたいわけではありません。

これは良いことでこれがダメという風に決めつけてしまうと、結果的に「押し付け」になってしまいます。これまでの恋愛ドラマが目指してきたことと変わりないのです。

むしろ私たちが目指したいのは、自分の本音を隠して、他人に合わせて生きていくのではなく「自分の感情に嘘をつかずに生きていく」、他人にとやかく言われる幸せではなく、「自分の幸せは自分で決める」そんな勇気を与えられるドラマとして最終的に着地したいと思っています。

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長々とここまで読んでいただいた方、本当にありがとうございました。スタッフ一同、最後に向けて奮闘中です!「恋せぬふたり」がどうなっていくのか、最後まで見守ってくださると幸いです。

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よるドラ「恋せぬふたり」
[総合] (月)よる10時45分〈全8回〉
NHKプラス&NHKオンデマンドでも配信中
第1~4回「イッキ見」再放送 2月19日(土)午前1時01分から(放送時間が変更になりました。※当日変更の場合あり)
第5回 2月21日(月)放送

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