「さらば、わが愛 覇王別姫」役者に生きた男。舞台の上でだけは愛される者でいられる
芝居に行きることを決意した少年は美しい虞美人を演じながら、項羽に思いを募らせていく。なのにただ愛することも、戦争、革命に阻まれる。
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遊郭ではもう育てられないと、遊女の母に劇団に連れて行かれるも、手を引かれる少年には指が一本多くあった。これではだめだと断られると、母は外に飛び出して、少年の指をナタで切り落とした。
(このシーン、最初に青くて暗い路地に、刀を研ぎますよ、という声が聞こえている。で、母が飛び出したあたりで、ああ!そうなるのか!と口元を押さえてしまった。)
少年は劇団に入ることを許され、朝から晩まで厳しい稽古をつけられる。間違えれば激しく叩かれ血が滲む、過酷な環境の中、加入時から少年をいつも助けてくれる兄気分に次第に想いを募らせていく。この時点では、芝居についての思いはまだ見えない。機会は一つの悲劇と訪れる。ある時、脱走の機会に恵まれて、兄貴分の制止もきかず一人の少年と逃げ出した。その先で、偶然に覇王別姫の芝居を見る。その芸に圧倒されて、辛い稽古にも耐えて芝居の道に生きると決めて劇団に戻り、自ら進んで厳しい罰をうける。けれども、その厳しさを目の当たりにした共犯の少年は、恐ろしさに首を吊ってしまった。
月日は流れ、少年は美しい顔立ちになり、女役を美しくこなす。そして見染められ、権威に組み敷かれた帰り道で、捨てられた赤子を見つける。駆け寄って抱きかかえるも、側にいた大人からは運命について諭される。制止される。それでも、少年は赤子を拾うことを決めたのであった。
振り返ると、運命というのがとても重要なワードだったように思える。あのとき選んだ選択が、後になって毒だったとわかることの連続。運命に逆らったからなのか。絢爛豪華な衣装に甲高い歌声の芝居がいつまでも続くのだと思っていたのに、戦争や革命が芝居を翻弄する。
けれど、一貫して芝居にいきる一人の主人公を描き続けているので、違和感やぶれはほとんど感じなかった。唯一あげるなら、妊娠中の女性があの激闘のなかに飛び込むのは、何か不自然な演出に思えてしまった。それも、終盤の怒涛の展開で霞んでしまうけれど。終盤、保身のために人が人を売って裏切って、他者の秘密を暴き悲劇が襲う。穏やかな調べに美しい歌声の中、揺れる肢体があまりにも悲しかった。