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国産Webtoonから世界へ。グローバルIPを生む「ウェブ小説」の可能性
『梨泰院クラス』や『女神降臨』『地獄が呼んでいる』など、世界的なヒットを続々と生み出している韓国ドラマ。そのヒットの裏側に、原作としての「Webtoon(ウェブトゥーン)」の存在があることをご存知でしょうか?
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韓国で生まれた、縦スクロールで読むウェブマンガ「Webtoon」は今、グローバル市場で急速な成長を遂げています。2021年に約6,800億円の市場は、2030年には約7.5兆円規模に達するといいます。
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国内でも「ピッコマ(Kakao)」や「LINEマンガ(Naver)」を筆頭に、Webtoon市場が伸びてきていますが、紙のマンガ文化が根強い日本では、まだまだ馴染みのない人も多いと思います。ある調査によれば、マンガアプリ利用者の内、Webtoonを読んだことがある人は4割程度だそうです。
そこで今回は、Webtoon市場の"今"や、その発展を支える「垂直統合型のIP創出エコシステム」をご紹介しつつ、本日、シリーズAの資金調達を発表したテラーノベル社が実現したいことについてお伝えしたいと思います。
日本発の「マンガ」と韓国発の「Webtoon」
はじめに、日本の「マンガ」と韓国の「Webtoon」について、ちょっとした歴史的背景とともにご紹介します。
もともと出版市場の3分の1をマンガが占めていた日本。1950年代から週刊漫画雑誌が登場し始め、ピーク時の1995年前後には5,000億円市場と、アメコミ市場の10倍以上のサイズを誇る一大産業でした。
日本の出版社は、漫画家の卵を発掘し、担当編集との二人三脚で長年かけて育てていくスタイルで、素晴らしい作品をこれまで世に生み出してきました。世界的なヒットを記録した『鬼滅の刃』や、『SPY×FAMILY』『チェンソーマン』なども、日本ならではの漫画づくりから生まれた作品です。
一方の韓国では、1990年代の通貨危機によって「紙」文化が壊滅的なダメージを受け、書店や出版社が相次いで廃業や倒産に追いやられたという過去があります。
その後、Webtoonを事業化したのが、のちに「ピッコマ」を運営するKakaoと「LINEマンガ」を運営するNaverです。Webtoonの歴史は、2003年のDaum(2014年にKakaoと合併したポータルサイト)から始まり、2005年にNaverが参入して、この2社が現在もWebtoon市場の大きな割合を占めます。紙の出版社ではなく、インターネット企業が参入したことで、韓国では「小説もマンガもウェブで読むのが当たり前」になっています。
そして日本でも、紙の雑誌やコミックスが右肩下がりな一方で、電子マンガ市場が伸びており、2020年には約4,000億円の市場規模に達しました。このうち、約3,000億円がKindleやその他の電子書籍ストアで巻売りしているマンガの売上で、残り約1,000億円がマンガアプリの売上です。
驚くべきは、国内マンガアプリ市場におけるWebtoon系アプリの売上シェア率です。実は、その約7割は韓国発のWebtoon系アプリ(ピッコマ、LINEマンガ)が占めており、「ジャンプ+」などの集英社のシェアは1割にも満たないといいます。
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さらにグローバルで見ると、Webtoon市場がめちゃくちゃ伸びています。
Naverが展開する「Naver Webtoon」は、東アジアや、東南アジアのタイ・インドネシア、アメリカ・フランスまでダウンロード数でも各国ランク1位を獲得し、グローバルの月間アクティブユーザー数は8千万人を超えています。
また、カカオピッコマが運営する「ピッコマ」は、グローバルのマンガアプリで売上1位を維持していると2022年11月に発表しました。
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(Naver、Kakao両社ともに毎年売上を伸ばしています。)
もちろん、日本が育んできた紙のマンガは今後も多くのファンに愛され、支持されることは間違いないと思う一方で、Webtoonという「新たなマンガ市場」が成長しているという事実にも向き合わなければ、日本が得意とする領域でグローバルで負けてしまうかもしれない。そんな危機感があります。
Webtoonがグローバルで伸びる理由
なぜ、Webtoonがここまで世界の人々に受け入れられているのでしょうか。この問いに対しては、以下の2点が理由として考えられます。
1. コンテンツフォーマットの違い
Webtoon最大の特徴は、スマホに最適化した「縦スクロール」のフォーマットです。
この利点は、日本であれば右上から左下、アメリカであれば左上から右下、といった言語間での「読み方の差異」による影響を受けないため、テキストを翻訳するだけで海外の人も読みやすく、届けやすいことにあります。
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また、紙のマンガよりもWebtoonの方が作品あたりの文字数が少ないため、翻訳にかかるコストも下がります。
2. 制作体制の違い
もうひとつの大きな特徴が「フルカラー」です。出版を前提とされていないWebtoonはフルカラーで制作されており、その体制にも違いがあります。
韓国の人気Webtoonは「スタジオ型」が主流です。1人の漫画家が単独で制作する作品もありますが、ヒット作品はほぼすべてスタジオ型で制作されています。そこでは、ストーリー開発やネーム、着彩などを別クリエイターが担当する分業体制が成り立っており、作家単独よりもチームでスピーディーに制作できるようになっています。その結果、週刊連載を実現することができ、読者の定着に大きく貢献しています。
また、その制作環境を支える資金面のバックアップもあります。Webtoonがドラマや映画の原作になることも多いため、ハリウッド等の巨大な映像産業も原作調達先としてのWebtoonに注目し、出資するケースもあります。
このような形で、世界基準のフォーマット、多産に適した制作プロセスによって、Webtoonが今、グローバルで存在感を増しているのです。
Webtoonと「垂直統合型」のIP創出エコシステム
ざっくりですが、Webtoonの概観が掴めてきたでしょうか?
ここからは、まだあまり知られていないWebtoon業界のエコシステムについて紐解いていきます。
1. 実は、Webtoonの大半が「ウェブ小説」を原作にしている
Webtoonは、そのほとんどが「ウェブ小説」を原作にしています。
たとえば、世界No.1プラットフォーム「ピッコマ」のWebtoonランキングTOP50のうち、その98%がウェブ小説を原作にした作品です(2022年1月25日時点、当社調べ)。
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つまりは「ウェブ小説からWebtoonが」「Webtoonからドラマ・映画が」生み出されており、ウェブ小説がヒットIPの原作になっているということです。
この背景には、紙の小説が「巻売り」を前提に、1冊の「本」として読み応えがあるように編集されているのに対して、ウェブ小説はスマホで手軽に読むことを前提に「各話」の続きが気になるような構成になっているため、「話売り」のWebtoonと相性が良いことにあります。
そして韓国を中心に、世界では「ウェブ小説→Webtoon→ドラマ・アニメ化→キャラクターIP化」という垂直統合型のIP創出エコシステムができています。
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この業界構造上、よい原作かどうかが、世界的なヒット作を生み出せるかに大きく影響するため、ウェブ小説という「IPの源泉」がより重要性を増してきています。
実際に、Webtoon市場の成長に伴ってウェブ小説市場も伸長しており、WattpadやTapasなど、ウェブ小説サービスを提供する企業の評価額がグローバルで向上しています。
2. Webtoon市場では「原作不足」が問題に
そんなWebtoon市場で今起きている問題が、「原作不足」です。
コロナ禍もあり、Webtoon市場が急速に伸びたことを背景に、新規参入する出版社・スタジオが増えました。一方で、絵はうまく描けてもストーリーをつくるのが苦手な漫画家の方も多く、どちらもできる漫画家はすぐには育たないことから、ストーリー原作の需要が年々高まっています。
こうした背景に加えて、供給側である既存の小説投稿サイトも、以下の問題を抱えています。
1. 話売りに適した作品が少ない問題
2. 新しいクリエイターが育ちづらい問題
ひとつめは、話売りに適した作品が少ないという問題です。
韓国では、ウェブ小説がヒットドラマの原作になった事例がいくつも出ているため、「Webtoonの原作者になりたい」という夢をもつ作家さんも多く、話売りに適した作品が豊富にあります。一方の日本では、作家さんのゴールが「単行本での出版」になっているため、話売りに適した構成の作品が生まれづらいという構造があります。
ふたつめに、新しいクリエイターが育ちづらいという問題です。
従来の小説投稿サイトでは、多くのすばらしい作品が生まれている一方で「人気作家・ジャンルの固定化」という問題が生じています。
なぜかというと、ランキング形式でトラフィックを集めるWebサイトの構造上、人気作品ほど多くの人の目に触れやすいため、新規ユーザーの投稿はPVがつきづらく、ランキング上位の作品が固定化しやすい傾向があります。
結果として、人気作家以外のクリエイターの方が投稿しても読まれづらかったり、感想が得られなかったりして、創作活動のモチベーションを保ちづらいというペインがあるのです。
原作不足を解消するために大切なこと
では、このような課題を解決するにはどうすればよいのでしょうか。
そのために大事なのは「作家さん育成のための場づくり」と「創作活動の出口を用意すること」だと私は考えています。
1. 作家さん育成のための場づくり
まず、作家さんが育つためには、創作活動を楽しんで続けられる環境を用意することが大事だと考えています。
その場づくりに必要な条件は、自分が投稿した作品に対する反応が得られて、創作活動を続けるための収入が得られることです。読者さんからの反応がないと、作家さんのモチベーションが続きませんし、また金銭的な報酬がなにも得られないと、経済的に創作活動を続けることが難しくなってしまいます。つまり「感情報酬」と「金銭報酬」の両輪が大事だと考えています。
私たちが提供する「テラーノベル」という小説投稿プラットフォームでは、スマホに最適化したUXとレコメンデーション機能で、従来のサイトよりも新規作品が読まれやすく、反応を得やすい場所になっています。
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実際に、テラーノベルでは毎月20万の作品が投稿されており、投稿作品数は累計552万を超えています。またアプリの平均利用時間は、読者に限定しても約2時間となっており、エンゲージメントが非常に高いです。(※数値は2023年1月時点)
現在はまだ実装していませんが、今後は作家さんに対する収益還元の仕組みをプラットフォーム上に導入して、金銭面のサポートにも取り組んでいきたいと考えています。
2.創作活動の「出口」を用意する
もうひとつ大事なのは、創作を続けた先の「出口」を用意することです。
韓国では小説からマンガ化、映像化、という道筋が見えていることから、それをモチベーションに作家さんが創作活動を続けやすい環境ができています。また、人気作家さんの待遇面はよく、夢のある職業にもなっています。
“LINEマンガの広報部によると、韓国の「NAVER WEBTOON」で連載を持っている作家の全体平均年収は約3000万円(日本円換算)、そのうちトップ20の作家の平均年収は約1億7000万円に上るという。その待遇の良さは世界の作家を惹きつけている。”(BUSINESS INSIDERの記事より)
一方の日本では、まだまだウェブ小説を原作にヒットIPを創出した実例がなく、そうした大きなゴールを描きづらい状況にあります。この状況を変えていくためには、原作を育て、グローバルIPとして流通させるエコシステムの構築が重要だと考えています。
なぜなら、創作活動の「出口」がグローバル市場を見据えられるかどうかで、アップサイドが大きく異なってくるからです。そのディストリビューションをー個人が担うのは負担が大きく、創作活動に集中しづらくなってしまいます。そこをバックアップする仕組みづくりを、私たちは担いたいと思っています。
その第一歩として、テラーノベルではウェブ小説からのコミカライズ化を支援するプロジェクトを立ち上げました。
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大手出版社などのパートナー企業とともに、すでに40本以上のタイトルでテラーノベルの投稿作品を原作にしたコミカライズが決定しています。2023年は120以上の新規コミカライズを目標に進行している最中です。
今後はさらに、小説からマンガだけでなく、そのグローバル流通やドラマ・アニメなどの映像化も行っていきたいと考えています。
日本の創作文化から、グローバルIPの創出をめざす
テラーノベル社は、本日、シリーズAで約6億5千万円の資金調達を発表しましたが、私たちが実現したいのは「日本の才能あるクリエイターが創作した物語から、グローバルIPを創出すること」です。
IPの源泉であるウェブ小説を生み出すプラットフォームをつくり、そこから創出したIPのグローバル流通を行うことで、グローバルIPとしてのエコシステムを構築していきたいと考えています。
私は、コンテンツこそボーダレスであり、無限の可能性があると信じています。
フロム・ソフトウェア社の『ELDEN RING』は、国内で100万本を売り上げましたが、その13倍にあたる1,340万本をグローバル市場で売り上げています(※数値は2022年5月時点)。同じ原価でも、市場を変えるだけで経済規模が大きく異なってくるのがエンタメコンテンツ領域です。
にも関わらず、自他ともに認めるエンタメ大国日本は、グローバル市場に対して占める割合は決して高くなく、またその割合は年々減少傾向にあります。もっとポテンシャルのある領域であるはずなのに、生かしきれていないのが現状です。
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「創作文化」を根強くもつ日本が、Webtoonという世界基準のコンテンツフォーマットに合わせれば、エンタメ産業はもっとグローバルで強くなるはずです。そして、日本のクリエイターが生み出すすばらしい作品を世界に届けていくことで、世界中の人々をもっと幸せにしていきたいと思っています。
そんな社会を目指して、テラーノベルは挑戦していきます。
さいごに
私自身は10年以上、UGC(ユーザー生成コンテンツ)関連のサービスに携わってきたなかで、数が質に変わる瞬間の面白さ等、インターネット的で民主的なUGCに対して、大きな魅力と可能性を感じています。
YouTubeの誕生が、テレビという中央集権的なシステムから映像クリエイターの民主化を起こしたように、小説やマンガにおいても、プロではない名もなき作家さんがグローバルIPの原作者になるような未来をつくりたいと思っています。
そのような未来に共感してくださる作家さん、出版社の方々と一緒に取り組んでいきたいです。
また、日本の創作文化とテクノロジーを掛け合わせ、私たちは本気でグローバル市場に挑んでいきます。
弊社にはグローバルなメンバーが揃っていますが、そのなかで再認識したのは、学校で休み時間にお絵描きをしたり、マンガを書いたりといった誰しもが見たことのある風景は、日本特有の文化であるということです。
日本の強みを生かして、一緒に世界に挑戦する仲間も絶賛募集しています。少しでも興味を持っていただけた方は、蜂谷のFacebook(https://m.me/nobutoh)やメール(career@tellernovel.com)などでぜひ気軽にご連絡ください!