page14 織姫の秘密
it's story of the Mr.梛木 亜門
亜門「日に焼けるから入って来いよ」
心羽「 うん 」
・
心羽には忘れられない男が居る
・
その男と別れたのは随分昔の話だし
別れてから他の彼氏が出来た事も
知っているけど、
未だに心羽の心に焼き付いてるのは
高校時代のアイツだって事は
別に心羽から聞いた訳じゃないけど
分かっていた。
・
7月7日は心羽の誕生日で
その七夕の日にアイツと別れた。
誕生日を迎える度
心羽がどこか寂しい表情をして
晴れない想いを抱えてるのを
俺はずっと側から見て来た。
互いに好きだったのに
事情が有って無理やり別れさせられたから
浄化出来ない憤りを持つのは当然で…
けど、
それを見てるしか出来ないのは辛かった。
でももう7年だ
もうそろそろ前を見てもいいと思う
真夏の鮮やかな空が広がっても
心羽は天の川で
来ない彦星をずっと待っている。
七夕の織姫ごっこは終わりにして
陽の当たる世界に移行していい頃じゃない
のか?
・
カラン
・
「ごめんね
暑くてボーっとしちゃって…」
そんなに無理しなくていいよ
「何となく今日は忙しくなると思うんだ」
心羽のそういう“カン”は外れない
そういう日は決まって店は混み合う。
ふふっ、
「って言ってもこの店、
お兄ちゃん目当ての女の子ばっかり
だけどね」
「余計な事はいいから
アイスコーヒー入れて」
「え?」
「俺が飲みたいから。
心羽の分と2つ用意して」
「生クリーム入れてもいい?」
「ホント、好きだなそれ」
心から笑えるようになるまで側にいる
それは
父さんと母さんが死んだ時に決めた
俺の唯一の誓いだった。
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