page 19 夏の歯車
it's story of the Mr. 神島 蓮
快「マジ…かよ」
行き交う人の波に、
赤い花の浴衣はとてもよく目についた。
彼女の髪に刺してる白い花が近づく度
陽炎みたいに眩しくぼんやり反射して
ただそれを呆然と見ていた。
噴水のパウダー状の霧が
露天の街灯に、ちりぢりに舞う
粉々に散っては消えていく
繰り返し
繰り返し
生まれては消える
ザー・・・
「 … 」
思わず呟いてしまった
“汐音”という声が
最大に噴き上げた噴水の音に消されて
消えた
「…蓮くん、ですか?…」
「…」
「…心羽です 織姫の…」
「…」
「ぉ、おい蓮、
しっかりしろ」
「黄色のヒマワリを持ってるから
神島 蓮くんですよね?」
「ぁ、うん。神島蓮です。
ヒマワリ…良かったらもらって」
「ありがとう。
ミニヒマワリ、可愛い」
「 … 」
「あ、えっと
俺はこいつの友達の八木快といいます。
すみません。
蓮のやつ、
ちょっと今
頭がフリーズしていまして」
「 … 」
「蓮、…お前 大丈夫か?
いつもこんな感じじゃないんですけど
ごめんね」
“ちょっと来い”と、
強引に腕を引っ張られてその場を離れた。
「蓮、
俺でも見間違うくらいだから
気持ちは分かる。
汐音さんが生き返ったんじゃないか
って程似てるからよく分かる。
近くで見るともっと似て
本当に信じられないよな」
「 … 」
「いいか、蓮、よく聞け。
いくら似てても、
あれは汐音さんじゃない!」
シ オ ネ ジャ ナ イ
「別人として
ちゃんと向き合わなきゃダメだ」
ベ ツ ジ ン
「蓮、
俺はこれからどうしたらいい?」
しっかりと
目線を合わせるように向き合い
快は会話を続けた。
「相手がイマイチな場合、
連れて帰ろうと思ったから
一緒に来た。
まあ、
大丈夫そうだったら
何も無かったように帰ろうと
思ってた。
この状況は
どっちにも当てはまらなくて
マジ緊急事態」
小声で早口にまくし立てる快の目を
ただぼんやり見つめるしかなかった。
こんな事が起きるなんて
本当に予想出来ないパターンだ。
快「けど…」
小さなため息をつきながら快は
言葉を続けた。
快「俺の役目は
ここまでだ」
噴水が勢いを上げて吹き出す
祭りのネオンに彩られて
シャボン色に散っていく
終わりと始まりの間で
夏の歯車が動けない。
〈19〉