page 13 cafe 時計屋
it's story of the Mr. 梛木 亜門
・
「心羽、そろそろ店開ける」
「あ お兄ちゃん」
「お前さ、今日ぼんやりし過ぎ」
・
カラン
・
店のドアを開けた途端
晴天の空に
クリームが乗っかってるような
入道雲の白さが目に眩しくて
思わず瞳を閉じた。
店先に植えた大量のラベンダーの香りが
夏の香りに溶けてむっとする風が吹く
花に水をあげている心羽の瞳が
ゆっくり俺を見上げて瞬きする間、
手に持ったジョーロからは
水が流れるままになってる
「ったく、もう」
朝からもの凄いで上の空だ
まるで絵に書いた上の空
上の空の見本
ぶっちぎりの上の空
「なんか有った?」
「 え? 」
「磨いてたコップを割る所から始まって
発注リストの書き間違え
フルーツの個数を間違えて仕入れる
おまけにほら、」
言いながら首の後ろを指刺す
「 結べてない 」
心羽のうなじの後毛をよけて
ほどけかけたリボンを結び直した
・
この店は“時計屋”という
・
父さんと母さんが残した時計屋は
住宅地の片隅の小ぢんまりとしたカフェだ。
今は引き継いだ俺と心羽の二人で
この店を営業している。
母さんが好きだったラベンダーと
父さんが大切にしていた“時間”
二人の温もりが詰まったこの店は
今では週末に沢山の来客者が訪れ
お陰様で店はとても賑わっている。
・
「時計屋は、
この店にいらっしゃるお客様に
その“ひと時”を売っているんだよ」
・
父さんはよく
口癖のように子供だった俺に
そう言っていた。
「別に何も無いよ」
「誕生日が近いからか?」
俺の言葉にビクッと肩を振るわせた心羽の
髪が風に揺れてミルク色のエプロンに
陽の光が反射した。
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