page 17 兄のセレナーデ
it's story of the Mr. 梛木 亜門
「いいよ お兄ちゃん」
「後ろに乗っけてくからコレ被って」
久々に見た白地に赤い花の浴衣
心羽がこれを最後に着たのは
何年前だっただろう…
「電車で行くからいいってば」
亜門「誰かと一緒ならまだしも
浴衣姿で混雑した電車に乗せられ
るかよ」
心羽「だからって
浴衣でバイクの後ろって困るよ。
髪も浴衣も崩れちゃう」
亜門「んなもん、着いたら直せよ」
半ば怒ったような瞳で小さく抵抗する
心羽の頬に後毛が揺れる。
亜門「俺のいう事を聞かないなら
花火大会は禁止にする」
心羽「意味分かんない‼︎
学生じゃないのに禁止って!」
意味わかんないのは、そっちだ。
この所やけに上の空だったと思ったら
前日に花火大会に行くとか言って
友達と行くとばかり思ってたら
誰かと待ち合わせするらしいし、
どういう事かって問い詰めたら
待ち合わせの相手とは初対面だと言う
しかも
相手は男‼︎
そんなシチュエーションに
一人で行かせられる訳がない。
亜門「こうやって時間が過ぎて遅れるより
素直に言う事を聞いた方がいいって
思うけど?」
心羽は勝気な瞳で話を聞くのをやめて
ヘルメットを見つめながら
ため息をついた。
心羽 「…お店、どうするの、」
亜門 「店は伊藤さんが30分くらい
居てくれるって。
今回は送るから」
心羽「わかったよ」
俯いた心羽の華奢な身体を
白い浴衣が頼りなく包んでる。
ま、どんな相手なのか遠目から確認して
帰って来るつもりでいる
亜門「何度も言うけど、何かあったら
すぐ連絡しろ」
心羽「私、成人してるんだから
そんな事分かってるよ」
いい年の妹にこんな事を言うのは
普通じゃないのかもしれない。
だけど
俺は兄でも有り保護者でも有る感覚で
今まで過ごして来た。
納得行かない表情で
ヘルメットを被る心羽を座らせた。
亜門「つかまっとけ」
思いを吹き払うようにバイクを走らせた。
心羽の腕にかけた椿の模様の巾着が
風に流れる。
あいつみたいな男じゃなきゃいい
天の川に置き去りにするような
そんな男じゃなきゃいい。
〈18〉
続きは7/13更新