page6 オセロと素麺
it's the story 八木 快
コウと2人で暮らす事になってから
黒一色でコーディネートされてたはずの俺の部屋はいつからかコウによって白の占める割合に圧倒されて
言ったらオセロで負けてくみたいに
どんどん白にひっくり返されている。
もう物凄勢いで部屋が変わって行く
そんな現在進行形の俺の部屋
いや、
2人の部屋
・
「蓮…まだあの時計してたね」
・
素麺を食べる手を止めたコウがボソッと呟く
長い髪を後ろに束ねたその、
いっぱい食べる気満々なヘアスタイルって
そういや高校の頃よくしてたっけと思い出す。
陸上部で日に焼けた素肌のコウと、俺と、蓮
3人の思い出は沢山有りすぎて
逆に記憶に無いけど、
いや、無いって事はないけど
別に記憶喪失って訳じゃなくて
そういう意味じゃなくて
こんな風にふいに蘇る時
思い出ってそういう物なのかもなと思う。
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「あの夏から7年か」
「忘れられないよね…そう簡単には」
けどさ、
「あいつ見る度それでいいのかって思う」
「…、」
「進んでかなきゃいけない事も絶対有るわ
けだろ」
「、…」
「あんなの汐音さんが望んでた事
なんかじゃ絶対無い」
水に流されてく麺がザーザと静かな音を
立てて泳いでいく
俯いたコウが箸で素麺の流れをぐっと堰き止めた。
・
「そんな風に…」
水の音を遮るようにコウは呟く
「消えない傷跡みたいに愛されるのって
どういう気持ちなんだろうね」
「死んでしまったんだからどんな気持ちとか
そんなの分からねえだろ」
お前の口からそんな言葉を聞くと
コウはまだ蓮を想ってるんじゃないかと思ってしまう。
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