【8月22日】 おこげをください
某日
「noteをはじめて5周年記念!」というお知らせが出た。5年前、私はどうしてこのお盆の真っ只中にnoteを登録するに至ったのだろう。経緯が全く思い出せない。しかも、遡ってみたところ、はじめて記事をあげたのは10月である。この2ヶ月のタイムラグは一体何だ。
そういえば、noteの前に「はてなブログ」に登録したこともあった。確か、ブログタイトルをああでもないこうでもないと考えているうちにモチベーションを失い、そのまま何も書かずに終わった気がする。今、私がこうして文章を書けているのは、noteにブログタイトル的なものがなかったおかげかもしれない。
某日
最近、セブンイレブンの筋子おにぎりをよく買っている。数年前に買った時は筋子が小指の先ほどしか入っておらず、不景気の煽り……と切なく思いながら筋子の気配で米を食らった。それを久しぶりに買ってみたところ、筋子が少ないのは相変わらずだが、海苔が味付け海苔になっていた。筋子が少ないのを誤魔化すためなのは明白だが、私は味付け海苔が好きなので「え、嬉しい」とまんまと喜んでしまった。味付け海苔のしょっぱさと少ない筋子のバランスがちょうどいい、とすら思っている。味付け海苔さえあれば不景気を乗り越えられそうだ。まったく呑気なものである。
某日
鳥の巣が落ちていた。鳥の巣というのは不思議である。鳥が拾い集めてきたものだけで、こうもしっかり巣として使えるものが出来上がるとは想像しがたい。しかし、その一方で、この巣で何匹もの雛が育つというのも信じがたい。何せ、雛というのはやたら身を乗り出す。ピーピー鳴きながら身を乗り出して、大きな口を開けて、我先に餌にありつこうとする。あんなに全員で身を乗り出したら、枝だの葉だので作られた巣は簡単にひっくり返ってしまうのではないか。私が親鳥なら気が気じゃない。この巣も、もしかしたら雛たちの大暴れに耐え切れず落ちてしまったのかもしれない。親鳥の気持ちになっていたので余計ぞっとしたが、周囲にそれらしき様子はない。巣立って用済みになったものと決めつけて、鉄筋コンクリート造の巣に帰る。
某日
「ピーゥ!」という叫びが流行っている。私と夫の間での話だ。使い方の決まりは特になく、喜怒哀楽すべてを表現できる汎用性の高い叫びである。
就寝前、明日は仕事帰り飲みに行こう、と盛り上がり、行き先を以前から目をつけていた焼肉屋に決め、その店のサイトを眺めて士気を高めていたところ、メニューの中に「くつべら」というのを見つけた。調べてみると、豚の喉軟骨らしい。知らない部位の肉を食べることにやたら興奮する質である私は、「ピーゥ! 私は絶対にくつべらを食う!」と叫び、ゴロンゴロンと体を回転させ、危うくベッドから落ちそうになった。そして、「もし私が今ベッドから落ちて死んでたら、うちの両親にちゃんと伝えなきゃいけないよ。彼女の最後の言葉は『ピーゥ! 私は絶対にくつべらを食う!』でしたって、ちゃんと言うんだからね、わかった?」と夫に畳み掛け、ゲラゲラ笑いながらまた転がった。知らない部位の肉を食べるというだけでここまで上機嫌になれるのだから、この先の人生も安泰であろう。
某日
仕事中、夫から連絡があり、くつべらがある例の焼肉屋が満席で予約できなかったとの知らせ。落胆、しても仕方がないので、第二候補としてあがっていた最寄り駅近くのもんじゃ焼き屋へ照準を切り替える。お盆休みの可能性、満席の可能性、どちらも大いにあり得る中で、電話で予約することに成功。私はこういう日に救ってくれた店への恩は忘れない。札幌にいた頃、週末のすすきのであらゆる店に振られ続けた夜、いつも「一発ドン」という店に救われていた。「一発ドン」は手頃な価格帯で味も普通においしい焼肉居酒屋なのだが、私が行くと週末でもなぜかいつも入れた。今も潰れることなく営業しているから、繁盛していないというわけでもない。そういう不思議とタイミングが合う、信頼できる店が自分の中に一つあると心強いものである。このもんじゃ焼き屋もそんな店になり得ると、私は確信した。
しかも、このもんじゃ焼き屋、安くてうまい。前回来た時に感動したのが、「明太クリームもんじゃ」である。明太チーズもんじゃは定番だが、明太クリームもんじゃはあまり見かけない。まろやかで絶妙においしい。ぺろりと平らげ、豚そぼろもんじゃも追加した。これも珍しい。そしておいしい。牛すじ煮込みも肉が大きくておいしい。ビールが進む。
隣の席にはカップルがいた。同じく明太クリームもんじゃを食べていた。その鉄板をふと見て、私と夫は驚愕した。なんと、おこげを全て残している。もんじゃとは、鉄板に張り付いたおこげをヘラではがしながら食べるもので、むしろおこげが本体くらいの、おこげありきの食べ物と認識していた。それなのに隣の鉄板は、とろっとした生地の部分だけが食べ尽くされ、全体におこげがこびりついたままになっている。信じられない光景だった。私と夫なんてどちらがより早く、より焦げたおこげの部分をとるか、心理戦を繰り広げながらもんじゃを食しているというのに。それくらい、おこげには価値があるのに。おこげを丸々放棄するなんて、もんじゃの神様がいたら呪われても文句は言えまい。店の人もこんな鉄板を見たら悲しむのではないか。
いろいろ思うところはあったが、もんじゃ焼きを食べ慣れていないのかもしれない。そういう客もたまには来るであろう。これから何度かもんじゃを食べるうちに、わかってくるに違いない。そう考えて溜飲を下げた我々だったが、また信じられない光景を見た。会計するおこげ放棄カップルが、店の人と親しげに話している。奥から店主らしき人までやってきて、カップルが店主に何かお土産のようなものまで渡している。
常連!? そんなバカな。常連があんな罰当たりなもんじゃの食べ方をするというのか。一体どういうことなのか。まだ2回しか来ていない客の分際で怒りが込み上げる。店員が隣の鉄板のおこげをガリガリ剥がして捨てている。なんてもったいない。私に食べさせろ。
今〜〜私の〜〜願〜いごとが〜〜叶うならば〜〜おこげが〜ほし〜〜い〜〜。
おこげをください。