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Nick Drake / Five Leaves Left (1969)

夭逝のシンガー・ソングライター、ニック・ドレイクのデビュー・アルバムには、孤独で繊細な青年の魂が、触れれば壊れそうなほど脆く、胸が苦しくなるほど美しく哀しい音色の中に屹立して響いている。

当時まだ20歳だったニックがそれまでに書き溜めてきた楽曲の中から、選び抜かれた珠玉の10曲を収録した本作は、フォーク系ミュージシャンを手掛ける若手プロデューサーのジョー・ボイドの下、ニックの大学の友人で当時無名だったロバート・カービーをストリングス・アレンジャーとして起用。

同じくジョー・ボイドが手掛けたフェアポート・コンヴェンションのギタリスト、リチャード・トンプソンらの手を借りつつ、時折ジャジーな風味も取り入れながら、ニックの声とアコースティック・ギター、室内学的な響きのストリングスが、ときに不安定に均衡しながらも共鳴する。

絶望の淵を覗いたような深く沈み込むものから、牧歌的な広がりを感じさせるものまで、波のように寄せては返す清廉な10曲を通じて、彼は一つの境地に辿り着き、穏やかな憂鬱と懐古とともに本作を閉める。
儚い歌声と示唆的な詩、そこに生まれるそこはかとない”ゆらぎ”が、聴いている側の心を否が応でも震わす。





ニック・ドレイクのファースト・アルバム。
僕が初めて聴いたニック作品だけに、彼の遺した作品の中で一番愛聴している。
この研ぎ澄まされたフラジャイルな感触が、儚く美しいメロディと声が、疲れた心にゆっくりと沁み渡る。
ストリングスが過剰に感じなくもないが、むしろこの厚みのあるストリングスに寄りかからないと彼は均衡を失ってしまうのかもしれない、と思うようになってきた。
繊細で神秘的で、ときにジャジーな感じ、どことなくヴァン・モリソンの「アストラル・ウィークス」を思わせる。

クロージング・ナンバーの”Saturday Sun”は僕の週末の朝の目覚まし曲です。

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