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【戸田智弘】「地獄」 ものの見方が変わる座右の寓話

同書からの抜粋となります。

第10章 欲望との付き合い方

 地 獄

 一人の男が夢を見ている。
彼は死んでしまって、遠い遠いところにいる。
そこはとても快適な感じがした。
ちょっと休んでから彼は呼びかけた。
「誰かいますか」。
すると、すぐに白い服を着た人が出てきた。
そして尋ねた。
「何かご希望ですか」。
「何かもらうことはできますか」。
「何でもあなたのご希望のものを差し上げられます」。
「では、何か食べるものを持ってきてください」。
「何を召し上がりますか?
ご希望のものは何でもございます」
 彼は食べたいものを運んでもらい、
それを食べて眠り、
すばらしい時間を過ごした。
それから演劇を見たいと所望すると、
それも見せてもらえた。
こうしてくり返し、くり返し、
彼は望むもののすべてを叶えられた。

 しかし、そのうちに彼はそれに飽き飽きしてしまう。
白衣の人を呼び寄せて言った。
「私は何かをしてみたいのですが」。
「申し訳ありませんが、それこそ、
ここであなたに差し上げられない唯一の事柄なのです」。
これを聞いた男は言う。
「私は吐き気がする。飽き飽きした。
いっそのこと、私は地獄にいるほうがましだ」。
すると白衣の人は叫び声をあげて言った。
「一体、あなたは、どこにいるとお考えだったのですか」

参考文献
『キリスト教と笑い』(宮田光雄著、岩波新書)




こちらの内容は、

『ものの見方が変わる 座右の寓話』

発行所 株式会社ディスカヴァー・トゥエンティワン
著者 戸田智弘
2022年1月30日 第1刷

を引用させて頂いています。



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