のらきゃ掌編×3 その16

 X(旧Twitter)で投稿した習作の纏めです。

①:ショートショート『のらきゃっとASMR』

 ……さん。
 ……みさん
 ……ねずみさん。
 お目覚めですか。こんばんは、こんばんは。のらきゃっとです。
 せっかくのASMRデート中に居眠りしちゃダメですよ、まったくも。
 え? ASMRデートって何、ですって?
 忘れたんですか、わたし達は今、ふたりっきりで―――



―――わたしの運転する車の中にいます。
 ブォォオオオオオオオオオン! ギャリギャリギャリギャリ!
 あ、こら、おとなしくしなさい。
 帰りたいって、そんなにわたしの運転が信用できないんですか?
 大丈夫、大丈夫ですよ。わたしは戦闘用アンドロイドのらきゃっと。
 超高性能なので、時速300kmで運転したって全然余裕……

 あっ。



 カチャ、カチャカチャ。
 ブゥン……。
 スパッ! サクッ、サクッ。ボキッ、バキバキ!
 キュィィン、ガリガリガリガリガリガリガリガリ!!!
 ビーッ! ビーッ! ビーッ!

(……しらなかった、ねずみさんがこんなに脆いなんて……)


 ……は。
 ……ばんは。
 ……こんばんは。
 こんばんは、こんばんは。お目覚めですか、新しい妹。
 そうです、今のあなたはますきゃっと。そしてわたしがお姉ちゃんです。
 いやあ、危なかったですね。イムラ保険に入っていて正解でした。
 では改めてASMRの続きをしましょうか。今度はご安全に、耳かきなど。
 カリカリ、カリカリ、カリカリ…… ズボッ!
 夫。痛くなかったですか?
 そうですか。ますきゃは頑丈ですね、ふふふ―――


(めでたし、めでたし)


②:きゃっとむかしばなし『こぶとりおじさま』

 むかしむかし、ある惑星に、一人のおじさまがおりました。
 おじさまは全く胡乱ではないマトモな教授だったのですが、
「うう、ほっぺたが痛い……」
 病のせいでほっぺたに大きなコブができてしまい、たいそう悩まされておりました。

 そんなある日のこと。
 おじさまは自身のゼミの生徒から、とある噂話を聞きました。
「満月の夜の20時、ネモフィラ畑に行って秘密の呪文を唱え続けると、天女が願いを叶えてくれるらしいですよ」
 ものすごく胡散臭い話です。普段のおじさまなら、絶対に信じません。
 だけど今のおじさまは、わらにもすがる思いだったのです。

 そして、次の満月の夜。
 おじさまはネモフィラ畑にやってきました。
「19時58分……59分……よし、今だ!」
 20時ちょうど。おじさまは、月に向かって秘密の呪文を唱えます。
「のら、ちゃん、べりべりきゅーと! のら、ちゃん、べりべりきゅーと!」
 そのまま30分ほど唱え続けていると、

「こんきゃーっと!」
 なんと、本当に月から天女が降りてきたのです。
「はい、わたしが天女です。20時ちょうどに到着ですね」
 天女が言うならきっと20時ちょうどなのでしょう。
 ともあれ、願いを叶えてもらうため、おじさまは天女にお願いしました。
「どうか、私のほっぺたのコブを取ってください!」

「ワオ、なんて大きなコブ。ですが天女に任せてあんしんです」
 自信満々に頷くと、天女はおじさまを手術室に放り込みました。
 ガリガリゴリゴリと、マトモな手術とは思えない音が響き渡ります。
「そうだ、ついでに服装もコーディネートしてあげましょう」
 わたしは胡乱なおじさまのキャラメイクが大好きなのです。
 そう言って、天女は全身がうねうねした奇怪な宇宙服を用意しました。

 そして、小一時間ほど経った後。
「すごい、生まれ変わったようだ……!」
 おじさまは感動に打ち震えながら言いました。
 彼の頬にはもうコブはありません。
 代わりに頭上にありました。大きなコブがふよふよと浮いています。
「おやおや、まるで惑星ですね」
 天女はのらのら笑って言いました。

「天女様、ありがとうございます。なんだか頭がスッキリしました!」
 おじさまがキマった目で言いました。
 手術の後遺症か、彼の目は天女と同じくらいぐるぐるしていました。
「胡乱な宇宙服も最高に惑星です!」
「ふふ、喜んでもらえてよかったです」
 おじさまと天女は、二人で高らかに笑いました。

 こうして願いを叶えてもらったおじさまは、満月の度にゼミの生徒達をネモフィラ畑に連れて来ると、
「君達も頭に星をつけなさい」
「教授何言って、あっあっあっ」
 噂話のお礼に惑星を啓蒙して、みんなしあわせにしてあげましたとさ。

 めでたし、めでたし。


③:きゃっとむかしばなし『ガンプラころりん』


 むかしむかし、あるところに、のらきゃっとという美少女がいました。
 のらきゃっとはガンプラ制作を趣味にしており、この日はRGシャア専用ザクを組み立てていたのですが、
「あっ」
 うっかり手を滑らせて、足のパーツを床に落としてしまいました。

 ザクのパーツはなんかいい感じに跳ねて、窓から外へと飛び出しました。
 おうちの外の坂へ落ちると、そのままころころと転がっていきます。
「まてまてまてまて」
 のらきゃっとは必死に追いかけますが、なかなか追いつけません。
 そのパーツはシャア専用の赤いパーツなのでとても速く、転がる速度も通常の三倍ありました。

 ころころころころ、スポッ!
 ザクのパーツは、近所のねずみさんの巣穴へ落ちてしまいました。
「むむむ」
 困って唸るのらきゃっと。
 すると中から、楽しそうな声が聞こえてきました。
「のらのらしてきた、のらのらしてきた」
 ねずみさん達が落ちてきたパーツを囲んで踊っていたのです。

「のらちゃんの香りがする!」
 きゃっとが触ったパーツには、ノラニウムがたっぷり付着していました。
 ノラニウムのミルクティーに似た香りを嗅いで嬉しくなってしまい、ねずみさん達はしばらくのらのらしていましたが、
「あれ、のらちゃん! こんきゃーっと!」
 外にのらきゃっと本人がいることに、ようやく気付いてくれました。

「こんばんは、こんばんは。ねずみさん、そのパーツは……」
「僕達へのプレゼントだよね! まさかのらちゃんがうっかりパーツを落とすはずないし」
「そ……そうですよ。わたしは超高性能ですからね」
 やったー、と無邪気に喜ぶねずみさん。
 見栄を張ったせいで、のらきゃっとは今更返してとは言えませんでした。

(マイヤー、ねずみさんが喜んでくれるなら)
 そうしてきゃっとがパーツを諦め、巣穴から出ようとした時です。
「のらちゃん、これ!」
 ねずみさん達が、何やら小さな箱と大きな箱を一生懸命運んできました。
「ノラニウムのお礼だよ。どっちか片方、受け取って!」

「ワオ」
 中身を確かめたのらきゃっとは、驚きの声を上げました。
 小さな箱には、新品のRGシャア専用ザクの足パーツが。
 大きな箱には、なんとHGUCペーネロペーが全部丸ごと入っているではありませんか!
「さあ、どっちが欲しい?」
 ねずみさんがそう尋ねると、

「両方ともわたしのです、わたしの」
 のらきゃっとは当然のように即答しました。
「ハイヨロコンデー!」
 ねずみさんも当然のように2つの箱を差し出しました。

 こうしてのらきゃっとはRGザクの足を完成させ、ついでに次に作るガンプラも手に入れたのですが、
「うわ」
 箱をパカッと開けてはみたものの、あまりのパーツの多さにびっくりして即座に閉じてしまい。
 ペーネロペーは、いつまで経っても完成しませんでしたとさ。

 めでたし、めでたし。

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