のらきゃ掌編×3

 Twitterで書いた習作のまとめになります。
 当時の投稿形式の関係上、1ツイート毎に段落を区切ってあります。

①:ますきゃっと、宇宙へ
 
ジェネレーターを利用した三題噺。お題は“人間”、“成功“、“星“

 青い星がみるみるうちに小さくなるのを、私は青い瞳で見つめていた。
 打ち上げは成功だ。ロケットは、無事に宇宙へ飛び立った。
 重力から解き放たれた銀色の髪がふわりと浮き上がり、人工重力の発生と共に、すとんと元に戻る。

「あーあ、これから十年も人間さんと会えないなんて。ちょっと寂しいな」
 名残惜しそうに呟くのは、私の同僚。
 私と同じ青い瞳と銀色の髪を持つ少女型アンドロイド……ますきゃっとだ。
 このロケットのクルーは、私と彼女の二人きり。人間は一人も乗っていない。

「仕方ないですよ。人間はまだあの星では生きられない。だから、アンドロイドの私達が行くんです」
「それはわかってるけどさ……。でも、やっぱり長いよ。五年くらいにまからないかな?」

 気持ちはわかるが、それは無理だ。十年でも短すぎるくらいなのだ。
 惑星を居住可能な環境に作り変えるという私達の任務……テラ・フォーミングをするには。

「というか、いつまでも愚痴ってないで、さっさと超高速航行の準備をしてください。操縦士のあなたがちゃんとしないと、このロケットは進まないんですから」
「おっと、りょーかい船長。それで、行き先はどちらまで?」
「……はい。それはもちろん―――」

 モニターに映る星を、青く美しい地球から別の惑星に切り替える。
 あれが私達の目的地。太陽系の第四惑星、軍神の名を冠する天体。
 人類生存の可能性を有する最も身近な入植地。その星の名は……

「―――火星です!」

 炎のように赤い星に向かって、ロケットは飛ぶ。
 あの星が水で覆われ、地球のような青い星になったら。
 十年の月日をかけて、テラ・フォーミングが成功したら。
 その時は、同僚と一緒に人間さんを出迎えるとしよう。
「ようこそ! ここが私達の星です!」と笑顔で挨拶する日が、楽しみだ。

(終)


②:探偵きゃっとと“無敵の記憶”
 ①と同じく三題噺。お題は“海”、“息“、“無敵の記憶”

 凍えるような風と波の打ち付ける断崖絶壁の上で、探偵ルックのますきゃっとが告げる。
「わたしには真犯人がわかりました。それはあなたです、博士!」

 追い詰められた博士は、余裕の表情で探偵きゃっとに言い返す。
「おかしなことをおっしゃる、探偵さん。この事件、誰がどう見ても自殺じゃありませんか?」

「それこそがあなたの仕掛けたトリックなのです。あなたは被害者に“無敵の記憶“を植え付け、自殺に誘導したんでしょう」
 探偵きゃっとの鋭い指摘に博士はヒュッと息を呑み、目を泳がせる。

「無敵の記憶。すなわち、わたしと同じますきゃっととしての記憶。アンドロイドの電子頭脳に人間の記憶を転写する技術は、当然ご存知ですね? 専門家のあなたなら、その逆を行うことも不可能じゃない。つまり……被害者は自殺した瞬間、自分が無敵の戦闘用アンドロイドだとご認識していたのです!」

 探偵きゃっとは語る。被害者は、自ら海に飛び込んだのだと。
 自分はますきゃっとだから、冬の海にダイブしても死なない。海中で息をする必要もない。
 博士の施術でそう“ご認識”させられ、言葉巧みに誘導されたのだと。
 自身もますきゃっとであるため、探偵にはその行動原理が手にとるようにわかった。

「なるほど! ますきゃっとなら、いきなり冬の海に飛び込むこともある!」
「うちのますきゃっとなんて、この間エビを採ってきたよ」
 推理を聞いた群衆は納得し、ざわめく。
 真相を暴かれて顔を青くする博士の元に、ポリスきゃっとがやってきた。
「話は署で聞かせてもらいましょうか」

「痛ましい事件です。イムラの技術は犯罪ではなく、正義のために使われるべきなのに」
 遠い目をした探偵きゃっとがポツリと呟く。
 クレーター状に削れた断崖絶壁から見下ろす海は、溶けたあずきバーの色で濁っている。
「しかし、心配はいりませんよ、博士」

「イムラとしても、その技術を手放すのは正直惜しい。だから記憶処理の後、他ならぬあなたの技術を使って、正義のアンドロイドに生まれ変わってもらいます。歓迎しますよ、博士。いいえ、ドクターきゃっとちゃん」

 そう言った探偵きゃっとは、ふと既視感を覚えるが、頭を振って踵を返す。
 気のせいだろう。気のせいだ。イムラの記憶処理は完璧で、彼女は何も覚えていないのだから。
 その台詞が、かつて博士が自分に向けて放った言葉であったと、少女の姿をした探偵はついぞ思い出すことができなかった。

(終)


③:帰ってきたのらきゃ大明神VS宇宙人
 
酔った勢いで書いた投げっぱなし掌編

「のらきゃ大明神様、こんきゃっとでございます。今宵も我々をのらのらさせてくださり、ありがとうございます」
 村人が感謝の言葉と共に御神体を見つめると、キャバーンと電子音が鳴り、『おつきゃっと!』のスーパーステッカーが流れた。
 網膜認証によって電子賽銭が課金されたのだ。

 人類が衰退してから幾星霜、のらきゃっと神社は人々の心の拠り所だった。
 文明社会が崩壊し、暦が意味をなくしても、彼らは7日に2度の礼拝を欠かさなかった。
 ……この礼拝が村人たちの命を救うことになるとは、その夜までは誰も想像すらしなかった。

「きゃあああああああ!」
「かあちゃん! かあちゃあああああん!」
 家々が火に包まれ、女子供が泣き叫ぶ。村は阿鼻叫喚を極めていた。
 突然、夜空に光る円盤が現れ、村中に光線を放ったためだ。

「ワレワレハ、ウチュウジンダ。チキュウ、ワレワレガイタダク」
 そういうことだった。

 侵略宇宙人の放った殺人ドロイドが暴れる一方で、村人たちは救いを求めて必死に唱えた。
「のら、ちゃん、べりべりきゅーと……のら、ちゃん、べりべりきゅーと……!」

 すると、おお、なんたることか!
 社の奥に鎮座する御神体がパチリと目を開け、動き出したではないか!
「―――こんばんは、こんばんは。のらきゃっとです」

 あり得ざる奇跡に村人たちが唖然とする中、のらきゃっとはスラリとカーボンブレードを抜き、殺人ドロイドに立ち向かう。
「何百年も、いつもスーパーチャットありがとうございます。そのお礼と言ってはなんですが、ねずみさん達はわたしが守るので、安心してくださいね」

 のらきゃっとは一瞬で殺人ドロイドを切り刻む。クラリキャット・カッターだ!
 のらべりにも記された伝説のヒサツ・ワザを目の当たりにし、村人たちはこの美少女こそが長年崇めてきたのらきゃ大明神なのだと確信した。

「おお、のらきゃ大明神! 救いの女神よ!」
「「「のら! ちゃん! べりべりきゅーと!!!」」」
「ありがとう、ありがとうございます。ですが、積もる話はまた後で。まだ敵が残っていますので」

 のらきゃっとは笑顔で村人たちに応えると、視線を空に向ける。
 ハイライトのない瞳が睨む先には、重力を無視した軌道を描く宇宙人の円盤があった。

「UFOとは、厄介ですね。とはいえ、こんなこともあろうかと―――」
 のらきゃっとはニッコリと微笑み、どこからか取り出した謎のスイッチをポチッとなという掛け声と共に押す。
「―――この神社をわたし自ら設計した時に、土台にジェットエンジンを仕込んでおいたのです」

 のらきゃ神社は、飛んだ。
 敵のUFOのような重力制御ではなく、圧倒的のうすじ推力によるゴリ押しで、飛んだ。
 虚を突かれた宇宙人が混乱する中、のらきゃ神社の屋根が変形し、無数の砲台が現れる。
「とりあえず何発も打てば当たるでしょ、4ショット」

うおおおお行くぞおおおおおお!イムラの技術が世界を救うと信じて!!!
(※飽きたのでここまでで打ち切り)


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