のらきゃ掌編×3 その4
以前Twitterで投稿した習作に加筆修正したものの纏めです。
①:きゃっとむかしばなし 幸せの青いソーデス
むかしむかしあるところに、のらきゃっとという少女がいました。
のらきゃっとは、大好きなねずみさんと、普通の白いソーデスと一緒に、ささやかながら楽しい暮らしをしておりました。
しかしある日、のらきゃっとは幸せの青いソーデスの噂を聞き、こう思いました。
「幸せの青いソーデスを見れば、ねずみさんがもっと喜んでくれるかもしれません!」
そうしてのらきゃっとは、幸せの青いソーデスを探すため長い長い旅に出たのです。
しかし、どれだけたくさんワールドを巡っても、幸せの青いソーデスは見つかりませんでした。
幾度も幾度もワールドを読み込み、長い長いロード時間を待たされて、のらきゃっとは疲れ果ててしまいました。
そして、遂に諦めて家に帰ることにしたのです。
「おつきゃーっと!」
「ソーデス、ソーデス!」
疲れて帰ってきたのらきゃっとを、ねずみさんと普通のソーデスが出迎えました。
我が家に帰り、温かい家族と再会して、のらきゃっとは思います。
「ああ、なんでこんな簡単なことに気付かなかったのでしょう? わたしが探していたものは、最初からすぐ近くにありました」
「このソーデスを青くすればいいですね」
「デス!?!?!?」
のらきゃっとは白いソーデスをキャフーンで煮込んで色をつけ、幸せの青いソーデスを手に入れました。
そうして、大好きなねずみさんと一緒に、青いソーデスをおいしくいただきましたとさ。
めでたし、めでたし。
②:きゃっとむかしばなし ソーデス売りの少女
「ソーデス、いりませんか? ソーデス、いりませんか?」
冬のとても寒い日、地球のある階層都市で貧乏な女の子がソーデスを売っていました。
頭に雪を積もらせて、びゅうびゅうと吹く北風に凍えながら、一生懸命にソーデスを売っていました。
しかし、道行く人間達は女の子の声に耳を傾けてくれません。
「どうして売れないんだろう? こんなにかわいいのに」
白くて丸くてもちもちの、かわいいソーデス。
しかしかわいいだけでは売れません。戦争で負けた地球の人間に、ペットを飼う余裕はないのです。
「ソーデス、いりませんか?」
女の子は何度も呼びかけました。このソーデスが売れないと、女の子も明日のごはんが食べられません。
「ソーデス、いりませんか……?」
女の子は何度も呼びかけました。しかし、ソーデスを買おうとする人間はまったく現れません。
「ソーデス、いりません、か……っ」
寒さに震える女の子が挫けて泣きそうになった、その時。
「ソーデスひとつ、くださいな」
一体のかわいらしいアンドロイドが、女の子に声をかけました。
もちろん、のらきゃっとです。
「ソーデス、買ってくれるんですか!?」
「そうです、そうです。冬のソーデスは身が締まっておいしいんですよ」
そう言うと、のらきゃっとはソーデスに忘れろビームを撃ちました。
「ソッ―――」
ソーデスは、一瞬でごはんになりました。
赤外線で内臓がグツグツ煮えて、ソーデスはホカホカ。
おいしそうなお肉の匂いがぷ~んと漂います。
すると、ぐうと大きな音が鳴りました。女の子のおなかの音です。
顔を赤くしておなかを押さえる女の子を見て、のらきゃっとはソーデスの肉をぶちりと千切り、差し出しました。
「ふふっ、はんぶんこにしましょうか」
「いいの? ありがとう、アンドロイドのおねえちゃん!」
「あむっ……わあ! ソーデスって、すっごくおいしい!」
女の子が叫ぶと、それまで興味がなさそうにしていた街の人々が集まってきました。
「おい、その生き物って食えるのか?」
「そんなにおいしいなら私にも一つちょうだいな!」
そして、在庫のソーデス達はあっという間に売り切れました。
「やったー! 全部売れちゃった!」
貧乏だった女の子は大喜び。しばらく明日のごはんに困ることはありません。
「よかったですね、ふふふ」
のらきゃっとも優しく微笑みました。
こうしてのらきゃっとは、一人の可哀想な女の子を救い、一都市の食糧難も解決したのでした。
全て彼女を製造したイムラ・インダストリのおかげ。イムラのアンドロイドは地球の皆様の暮らしを支えます。
イムラ、バンザイ!!! イムラ、アンド、スバラシイ!!!
(この物語の作者はイムラ・インダストリと無関係で、報酬などは受け取っておりません。欺瞞が一切ない)
③:きゃっとむかしばなし 耳なしソーイチ
むかしむかしあるところに、ソーイチという名前のソーデスがいました。
ソーイチはソーデス知能指数が5000もあるソーデスで、なんと尻尾で筆を持ち文字を書くことができます。
かしこい。
ある日、道に迷ったソーイチは、森の中の洋館で夜を明かすことになりました。
ごはんを食べて眠ろうとしたその時、ソーイチはソーデスの街で聞いた噂話を思い出します。
「あの洋館には恐ろしい幽霊が住んでるデス。泊まったソーデスはみんな、パクリと食べられてしまったデス」
幽霊にかじりつかれる想像をして、ぶるりと身震いするソーイチ。
しかし賢いソーイチは、あっという間に対策を思いつきます。
「体中に有り難いお経を書いておけば、幽霊が出ても平気デス」
すぐさま筆を使い全身にお経を記すと、ソーイチは安心して眠りにつきました。
そして、草木も眠る丑三つ時。
デスデス眠るソーイチの元に、べりべりきゅーとな幽霊が現れました。
「こんばんは、こんばんは。ゴースドメイドきゃっとです」
幽霊は、メイド服で猫耳で、しかも戦闘用アンドロイドでした。
属性過多です。
「なんとおいしそうなソーデスでしょう、じゅるり」
大口を開けた幽霊は、ソーイチにかじりつく寸前にハッとします。
全身に記された有り難いお経。幽霊が普通の幽霊だったなら、触れた瞬間に成仏してしまったでしょう。
「でも、残念でしたね。わたしはアンドロイドなのでおまじないは効かないのですよ」
幽霊は耐性を持っていました。無情!
「では改めて、いただきます」
行儀よく手を合わせ、幽霊がソーイチにかじりつきます。
やはりソーデスはきゃっとに食べられてしまう運命なのか、と思わされたその時。
「グワーッ!!!」
ソーイチの体に歯を立てたゴーストメイドきゃっとが、悲鳴を上げたのです!
なんとソーイチは幽霊に食べられませんでした。
ナンデ? 有り難いお経の力? いや、お経は効かないはずでは?
「ぺっ、ぺっ! うう……このソーデス、スースーウォーターの味がします! くそマズい!!!」
ゴーストメイドきゃっとが思わず唾を吐きました。おくちもわるわるです。
しかし、おお、なんたる知的な作戦か!
ソーデス知能指数が5000もあるソーイチは、お経を書くために墨汁だけではなくスースーウォーターも混ぜて使っていたのです!
これではマズすぎてきゃっとが食べられないのも道理! 実際有効!
「むむむ、せっかくのソーデスの味が台無しです……と、おや?」
悔しそうにソーイチを見る幽霊が何かに気付きます。
視線の先にはソーイチの耳。そこにはお経が書かれていませんでした。
「ははあ、さては尻尾が耳まで届かなかったのですね。それなら、せめてここだけでも……」
幽霊が、あーんと口を開きました。
―――翌朝。
ソーイチが目を覚ますと、お経を書けなかった耳が食いちぎられていました。
頭に残る無惨な歯型。しかし、これはソーイチがあのゴーストメイドきゃっとを見事出し抜いた確かな証拠でもあります。
「ソーデス、ソーデス!」
ソーイチは痛みで泣きそうになりながらも、勝利の雄叫びを上げました。
そして“耳なしソーイチ”の武勇伝は瞬く間に広まりました。
きゃっとから生き延びたソーイチは、どこへ行っても注目の的です。
「デス、デス?」
しかしソーイチの耳はなくなってしまったため、残念ながらソーイチは自分への称賛の声を聞くことができませんでしたとさ。
とっぴんぱらりのぷう。