のらきゃ掌編×3 その15

 以前X(旧Twitter)で投稿した習作の纏めです。

①:きゃっとむかしばなし『ヘンデスとグレーデス』

 むかしむかし、あるところに、おかしなソーデスの兄妹がいました。
「ヘンデス!」
 変なお兄ちゃんソーデスのヘンデスと、
「グレーデス!」
 灰色の妹ソーデス、グレーデスです。

 ある日のことです。
 ソーデスの兄妹は変だったので森に捨てられてしまいました。
「グレーデス……」
 グレーゾーンぎりぎりの行いデス、と嘆き悲しむ妹のグレーデス。
 一方お兄ちゃんのヘンデスは、
「ヘンデス! ヘンデス!」
 森の奥に、何やらおかしなものを見つけました。

 ヘンデスが見つけたのは、とてもおかしな、お菓子の家でした。
 その家は屋根や扉、柱まで、全てがあずきバーで作られていたのです
「ヘンデス……」
 ヘンデスが訝しがっていると、
「おやおや、かわいいお客さんですね」
 お菓子の家の中から、べりべりきゅーとな猫耳の魔女が現れました。

「いらっしゃい、いらっしゃい」
 魔女はヘンデスとグレーデスを家の中に招き入れました。
 そして「手料理を振る舞ってあげましょう」とあずきバーでできた食器を取り出しましたが、
「……デス?」
 どういうわけか、食器は一人分しかありませんでした。

「ヘンデス……」
 ヘンデスは魔女の行動がおかしいと気付きました。
 ヘンデスは賢いソーデスなのです。
「グレーデス!」
 限りなく黒に近いグレーです、とグレーデスも気付きました。
 グレーデスも賢いソーデスなのです。

「ソーッ、ソーッ、デス……」
 ヘンデスとグレーデスは、魔女のいる台所にソーッと忍び込みました。
 すると、魔女は大鍋を火にかけながら、
「ゆうちょ、ゆうちょ。ヨシ、後はあの二匹を放り込めばソーデス鍋の完成ですね」
 なんと、ヘンデスとグレーデスを手料理にする準備をしていたのです。

 このまま黙って料理されるわけにはいきません。
 ヘンデスは魔女の背後にソーッと忍び寄ると、
「―――変DEATH!!!」
 強烈な体当たりを食らわせました。
「しまった」
 のうすじなので索敵が苦手な魔女は、うっかり直撃をもらってそのまま鍋に落ちました。

「ヘンデス、ヘンデス!」
「グレーデス!」
 魔女を落として勝ち誇るヘンデスとグレーデス。
 このまま煮込めばいくら魔女とて無事では済むまい。この戦い、我々の勝利デス!
 兄妹はそう確信していたのですが、
「ゆうちょ」

 ざぱーん!
 熱湯が台所に溢れる豪快な音と共に、魔女が姿を表しました。
「ふう、危なかった。鍋があずきバー製でなければ、あっちっちでしたね」
 そう、このお菓子の家の材料は全てあずきバー。大鍋も当然あずきバーでできているので、火にかけ続けると溶けてしまうのです!

「さあ、覚悟はいいですか?」
 お腹を空かせた魔女が二匹の尾をぎゅっと握りました。
「ヘ、ヘンデス……」
「グレーデス……」
 ガタガタ震える兄妹。もはやどうすることもできません。
「大丈夫、ご安心です。鍋は溶けちゃいましたけど」
 魔女はにっこり笑って言いました。
「わたしはお刺し身も好きですよ」

 こうしてソーデスの兄妹は魔女においしく食べられてしまいましたが、
「ふう、おはらいっぱい……うっ!? あいたたた!」
 ヘンデスは変だったので、グレーデスは消費期限がグレーだったので。
 うっかり生食した魔女はお腹の反物質炉を故障させてしまい、一矢報いる形になりましたとさ。

 めでたし、めでたし。


②:きゃっとむかしばなし『三冊ののらべり』

 むかしむかし、あるところに、ますきゃっとの姉妹が住んでいました。
 ある日、妹のロリきゃっとが裏山へ遊びに行こうとすると、
「おねえちゃん、お山行ってくるー」
「あら、じゃあコレを持っていきなさい」
 と、姉きゃっとに三冊の本を渡されました。

 その本は『のらべり』という、とても厚い薄い本でした。
「最近、山にどぶねずみさんが出るらしいからね。危ない時はのらべりを使うのよ」
「はーい!」
 姉きゃっとの言う通りのらべりを鞄に突っ込むと、ロリきゃっとは元気よく駆け出しました。
「お山、お山ー!」

 さて、しばらく後のこと。
 ロリきゃっとが裏山で遊んでいると、草むらから何やらガサガサと音がしました。
「あれ。そこにいるのはだぁれ?」
「た、ただのねずみさんだよ、ドブフフフ……」
 現れたのはなんだか怪しいねずみさんでした。
「お、お嬢ちゃん、かわいいね。僕の家でお菓子でも食べていかない?」

「お菓子!? 食べる、食べるー!」
「ドブフフフ、いっぱいお食べ……」
 ロリきゃっとは怪しいねずみさんの家にお招きされました。
 そして勧められるままにお菓子と紅茶をおはらいっぱい詰め込むと、
「あれぇ? ねむくなっちゃった……」
 突然、スヤスヤと寝息を立て始めたのです。

「特製マタタビ配合の紅茶はおいしかったかい? ドブフフフ……」
 狙い通りに眠ったロリきゃっとを見て、怪しいねずみさんはどぶりと笑いました。
 そう、怪しいねずみさんは、どぶねずみさんだったのです。
「すやぁ……」
「ドブフフフ、いっぱい楽しいことしようねぇ」

「むにゃむにゃ……はっ!」
 たっぷり10時間寝てから、ロリきゃっとは目を覚ましました。
 気付けばベッドに寝かされており、服もかわいいパジャマに着替えさせられています。
「あれ、どうして……」
「よく似合ってるよ、ドブフフフ」
 どぶねずみさんがUnityをいじりながら笑いました。

(おねむの間に勝手にお着替えさせるなんて、ヘンタイだ。ねずみさんは、どぶねずみさんだったの!?)
 ロリきゃっとはようやく姉きゃっとの警告を思い出しました。
 それと同時に、
(……あっ! のらべり!)
 姉きゃっとに持たされた、危ない時に使う本のことも思い出しました。

 どぶねずみさんの目を盗み、ロリきゃっとはゴソゴソと鞄を漁ります。
 服は着替えさせられていましたが、幸い鞄の中身はそのままでした。
(のらべり、ちゃんとある。だったら!)
 作戦を思いついたロリきゃっとは、どぶねずみさんにお願いします。
「お願いねずみさん、トイレに行かせて!」

「紅茶を飲みすぎて循環液が漏れそうなの!」
 ロリきゃっとは涙目になって懇願します。
 どぶねずみさんは一瞬(トイレ? アンドロイドが?)と疑問に思いましたが、
「ねえ、おしっこもれちゃう……」
「わ、わかったよ、ドブフフフ」
 どぶどぶしたせいで、うっかり疑問が頭から抜けてしまいました。

「よし!」
 作戦通りトイレに入ったロリきゃっと。
 持ち込んだ鞄の中から、三冊ののらべりを取り出します。
(後はこれを使って……)
 その時、コンコンとノックの音がしました。
「ドブフフフ、そろそろ済んだかい?」
「ちょっと待ってー!」
 ロリきゃっとの返事を聞き、どぶねずみさんは扉から離れました。

「そろそろ済んだかい?」
「ちょっと待ってー!」
「そろそろ済んだよね?」
「ちょっと待ってー!」
「流石に、もうそろそろ済んだでしょ?」
「ちょっと待ってー!」
 ロリきゃっとはいつまで経ってもトイレから出てきません。
(……まさか)
 訝しんだどぶねずみさんが勢いよく扉を開けると―――

「イヤーーーーッ!!!」
 アンブッシュだ! 扉の影に潜むロリきゃっとがのらべりを三冊纏めて振りかぶり、その角でどぶねずみさんの後頭部を全力殴打!
「グワーーーーッ!!!」
 鈍器めいたアツイ・ウスイ・ブックで脳天をかち割られたどぶねずみさんは、断末魔の叫びを上げて昏倒! いちげきひっさつ!

「アバ……バ……」
 さっきまでどぶねずみさんだったものは虫の息。トイレの床でピクピクと震えています。
「―――危ない時はのらべりを使え(物理)。こういうことだよね、おねえちゃん」
 ロリきゃっとは勝利の余韻に浸り、満足気に笑います。
 想像の中の姉きゃっとはグッと親指を立てました。

 こうして意気揚々と帰宅したロリきゃっとは姉きゃっとに武勇伝を語ったのですが、
「のらべりで時間を稼いで逃げてね、ってことだったんだけど……」
「えっ!?」
 妹ののうすじぶりに姉きゃっとは苦笑いをし。 ロリきゃっとは顔を赤くしてしばらくトイレに籠もりましたとさ。

 めでたし、めでたし。


③:きゃっとむかしばなし『のらとのらのらす』

 むかしむかし、あるところに、のらというきゃっとと、のらのらすというねずみがいました。
「こんきゃーっと!」
 のらはべりべりきゅーとな配信者をしており、
「のらのらしてきた」
 のらのらすはその配信を見てはのらのらしておりました。

「こんきゃーっと!」
 のらは毎週配信を頑張っていました。
 今年は寒くなるらしいので、冬の電気代高騰に備えてお金を貯めておきたいのです。
「のらのらしてきた」
 一方のらのらすは、毎日のらのらするばかり。
 のらが配信する日はもちろん、配信のない日もアーカイブでのらのらしていました。

「こんきゃーっと!」
 それからも、のらは毎週毎週欠かさずに配信しました。
「のらのらしてきた」
 同じように、のらのらすも毎日毎日のらのらしました。
 そして時は過ぎ、厳しい冬がやってくると―――

「しまった」
 お財布を開けたのらが思わず嘆きました。
 なんと、冬に備えて貯めていたはずのお金がすっからかんではないですか。
「むむむ。1回500円なら無限に課金できる気がしたのに……」
 ここ最近、のらは配信の一環としてソシャゲの大会に出場していました。
 そこでついつい熱くなり、廃課金してしまったのです。

「どうしましょう、どうしましょう」
 のらは頭を抱えながら部屋をうろうろしています。
 と、その時でした。
「のらのらしてきた」
 困ったのらの元に、のらのらすがやってきたのです。

「のらのらしてきた!」
「こ、これは……!」
 のらのらすは、のらにある物を差し出しました。
 毎日毎日のらのらして、毎日毎日作り続けたノラニウムです。
「わたしにくれるんですか? ありがとうございます、ねずみさん!」
「チュウ……」
 のらの表情がぱぁっと明るくなり、のらのらすは嬉しそうに一回死にました。

そうして大量のノラニウムを手に入れたのらは、
「今日は寒いですね……夫!」
「🔥猫松🔥」
「のじゃあああー!」
 このように、寒くなったらノラニウムを火種にして暖を取り。
 焚き火でほくほくするのらを見て、のらのらすは毎日のらのらできましたとさ。

 めでたし、めでたし。

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