のらきゃ掌編×3 その12
以前X(旧Twitter)で投稿した習作の纏めです。
①:きゃっとむかしばなし『みにくいねずみの子』
むかしむかし、あるところに、みにくいねずみさんがいました。
彼は元々普通のねずみだったのですが、イムラの改造手術を受けて、
「体が透明になっちゃった」
とても見難いねずみさんになってしまったのです。
「なんてこった!」
ねずみさんは思わず叫びました。
体が鏡に映らない、写真を撮っても何も見えない。そんな境遇にされてしまったら、嘆くのも当然です。
「体が透明なら、のらちゃんにバレずにどぶどぶできるじゃん!」
全然嘆いていませんでした。彼はどぶねずみでした。
前向きなどぶねずみさんは、早速のらきゃっとのいるワールドに向かいました。
「どぶどぶしてきた、どぶどぶしてきた」
今か今かと読み込み終了を待つねずみさん。
視界が切り替わった瞬間、彼は車道の真ん中を勢いよく駆け出しました。
「うおおーッ! のら! ちゃん―――」
そして、
「べりべりグワアアアアーッ!!!」
のらきゃっとの運転していた車に跳ね飛ばされました。
ねずみさんの体は透明だったので、急ブレーキを踏むことすらできませんでした。
こうして再起不能になり、透明なまま息絶えそうだった見難いねずみさんですが、
「どうしたんですか、ねずみさん。そんなに血塗れになって」
「あれ、のらちゃん見えるの!?」
大量出血で赤く染まった体は見難くなくなっており、ねずみさんは無事にドクターきゃっとの手術を受けることができましたとさ。
めでたし、めでたし。
②:きゃっとむかしばなし『のら雪姫』
むかしむかし、あるところに、狐娘のおじさんの女王様がいました。
ケモミミ少女に一家言ある女王様は、ある日TLに住んでいるねずみさん達にアンケートを取りました。
「ねずみよ、ねずみよ、ねずみさん。世界で一番かわいいケモミミ少女は誰なのじゃ?」
「それはもちろん、のら雪姫です!」
ねずみさん達は即答しました。ねずみさん達はのら雪姫が大好きです。
「わかるのじゃ~」
女王様は深く頷きました。女王様ものら雪姫が大好きなのです。
そのため姫に嫉妬することなく、このまま平和にお話が終わる……はずだったのですが。
「あっ」
「わらわ、いいこと思いついたのじゃ」
女王様が突然、どぶりと笑いました。
「このお話の原作通りに毒リンゴをプレゼントすれば、眠ってしまったのら雪姫を起こすためにキスする展開になるのじゃ!」
「!!!」
女王様の天才的なポストにねずみさん達は目を見開き、いいね、リポストしました。
彼らはどぶねずみだったのです。
「そうと決まれば、どぶは急げなのじゃ!」
女王様とねずみさん達は魔女に変装すると、のら雪姫のいる月面の富山に向かいました。
「ぜぇ、ぜぇ……」
「おや、魔女さんがいっぱい。こんばんは、こんばんは」
息を切らして到着した大勢の魔女を、のら雪姫は驚きながらも歓迎してくれました。
「わたしにリンゴをくれるんですか? こんなにたくさん!」
やりました、とのら雪姫はリンゴを齧って大喜び。
それを見た女王様とねずみさん達も、大喜び。
(やったのじゃ! 後はのら雪姫が眠るのを見届けてから、急いで王子様に変装すれば……!)
計画通りに事が進み、女王様とねずみさん達はどぶりと笑います。
そして、
「なんてみずみずしいリンゴでしょう。おかわり!」
のら雪姫は全然眠らず、言葉巧みに食レポをしながらリンゴを食べ続けました。
「のじゃ!?」
「!?」
女王様とねずみさん達は、驚いて「!?」のソーデススタンプを連打しました。
「そうか! のら雪姫はアンドロイド、毒薬なんて効かないのじゃ」
己の失策に気付き、女王様はがくりと崩れ落ちました。
うなだれる女王様を見て、のら雪姫が優しく声をかけます。
「残念でしたね、猫松さん」
「うう、のらちゃん……ハッ!?」
そう呼ばれた瞬間、女王様はビクッと体を震わせました。
(猫松さん!? わらわは今、魔女に変装してるのに!?)
「な、何のこと? わらわは通りすがりの魔女で」
「隠しても無駄ですよ」
しらを切る女王様に、のら雪姫はスマホの画面を突きつけました。
そこには女王様の天才的などぶポストが表示されていました。
「わたしはTL監視きゃっと。あなたがきゃっとを見る時、きゃっともあなたを見ているのです」
「もちろん、どぶねずみさん達も見てますよ」
そう言うと、のら雪姫は魔女に化けたねずみさん達を指さしました。
全てバレていたと悟り、女王様とねずみさん達はガタガタ震えます。
「ゆ、許してのらちゃん」
「大丈夫、乱暴なことなんてしませんよ」
のら雪姫はべりべりきゅーとな笑顔を見せると、
「―――はい、あーん」
嗜虐的に目を細めて、歯型のついたリンゴを女王様とねずみさん達の口元に運びました。
こうしてどぶ女王様とどぶねずみさん達は、毒リンゴを食べて長い長い眠りについたのですが、
「「「チュウ……」」」
最期にのら雪姫と間接キスができたので、寝顔はとても幸せそうでしたとさ。
めでたし、めでたし。
③:きゃっとむかしばなし『すっぱいブドーデス』
むかしむかし、あるところに、一匹のねずみさんがいました。
ねずみさんが散歩をしていると、道端に立派なブドーデスの木が生えていました。
「「「ブドーデス、ブドーデス!」」」
「元気なブドーデスだ、おいしそう」
ねずみさんはじゅるりと舌なめずりをしました。
しかし、ねずみさんは体が小さいので、いくら跳んでも高いブドーデスの枝には届きませんでした。
「ぜぇ、はぁ……」
「「「ブドーデス、ブドーデス!」」」
声を揃えて鳴くブドーデスの実を恨めしげに見上げると、ねずみさんは言いました。
「やーめた。あんなブドーデス、どうせすっぱいに決まってる」
「縦、それはどうでしょう?」
その時、ねずみさんの後ろから声が聞こえてきました。
声の主はもちろん、べりべりきゅーとなのらきゃっとです。
「ねずみさんの代わりに、わたしが確かめてあげますよ」
そう言うと、のらきゃっとはひょいひょいとブドーデスの木を登り始めました。
VRC登山部としていくつものワールドを制覇してきたのらきゃっとには、木登りくらいお手の物。
あっという間にてっぺんに辿り着き、ブドーデスの実に手をかけました。
「ゆうちょ」
「「「デスッッッ」」」
実をもぎ取ると、ブドーデスの断末魔の叫びが響きます。
のらきゃっとは全く気にせず、ぱくりと実を頬張りました。
「ほら、甘くておいしいですよ、ねずみさん」
そう言って、のらきゃっとは下から見上げるねずみさんにブドーデスの実を分けてあげました。
「のらちゃん……!」
のらきゃっとの優しさに、ねずみさんの目が潤みます。
無理だからって拗ねてはいけない。誰かの力を借りたなら、不可能も可能になるかもしれない。そんな教訓の詰まった美しいお話になりそうな一幕でした。
しかし。
「みえ」
ねずみさんは、うっかりそう言ってしまいました。
スカートのまま、ブドーデスの木をひょいひょい登ったのらきゃっと。
その一部始終を下から見上げていたねずみさん。
彼に何が見えてしまったのかは、言うまでもないでしょう。
「……見ましたね?」
のらきゃっとはスルスルと木から降り、ねずみさんの頭をむんずと掴みました。
「あああああああああ!!!」
「「「ブドーデェェェェス!!!」」」
その後、辺り一体に断末魔の声が響き渡り、道は血とブドーデスの汁で真っ赤に染まり、見るも無惨な光景が出来上がりましたが、
「うまい、うまい」
のらきゃっとはお肉と実を頬張り、幸せそうに笑っていましたとさ。
めでたし、めでたし。