のらきゃ掌編×3 その11

 以前X(旧Twitter)で投稿した習作の纏めです。

①:きゃっとむかしばなし『黄泉のら坂』

 むかしむかし、あるところに、のらナギとのじゃナミという神様がいました。
 二人は仲睦まじい夫婦だったのですが、
「🔥のじゃナミ🔥」
「のじゃー!?」
 嫉妬したねずみさんに燃やされ、のじゃナミは地の底にある黄泉の国に送られてしまいました。

 一人残されたのらナギは、のじゃナミを探して黄泉の国へ潜りました。
「迎えに来ましたよ。さあ、一緒に帰りましょう」
「のらちゃん……!」
 その言葉にのじゃナミは歓喜しましたが、
「帰るけど、黄泉の国を出るまでわらわの姿を見ないでほしいのじゃ」
 何故か、のらナギに奇妙な約束をさせました。

 のらナギは約束を破った事と高い所から落ちた事が一度もない神。当然今回も約束を守ろうとしましたが、
「見るなと言われると見たくなりますね」
 我慢できず、秒で破ってしまいました。
 すると、
「ああっ! のらちゃん。こんなわらわを見ないで……!」
 そこには、変わり果てた姿ののじゃナミがいました。

 のじゃナミは、ほとんど体が隠れない極小のビキニを着ていました。
 おまけにローションで全身ヌルヌル。頬は赤く染まり、息も少し荒らげています。
 そう、お察しの通り。
「うう……配信直後のわらわを見ないで……」
 地下に落ちたのじゃナミは、これ幸いとどぶ配信をしていたのです。

「こうなったら、一日千人のねずみさんを黄泉の国に引きずり込んでやるのじゃー!」
 恥ずかし狂ったのじゃナミは、ヤケになって配信開始のボタンを押しました。
 過激な配信にどぶねずみさん達の目が釘付けになり、
「「「チュウ……」」」
 次々に昇天し、黄泉の国に囚われてしまいました。

 黄泉の国とは死者の国。このままではねずみさん達が死んでしまいます。
 ですが、それを黙って見ているのらナギではありません。
「大丈夫、任せて安心です。のじゃナミさんが死なせた千人、わたしが蘇生してみせましょう」
 自信満々に言うのらナギの手には、一本のメスが握られていました。
「オペを始めます!」

「しまった」
 ドクターのらナギの手術は失敗しました。

 任せて安心ではなかったので、ねずみさん達は黄泉の国に引きずり込まれてしまいました。
「ほらほら、わらわを見るのじゃー!」
「「「どぶどぶしてきた」」」
 のじゃナミのどぶ配信はまだまだ続いています。
 このままでは、全てのねずみさんが魂を囚われてしまう! そう思われた矢先、
「仕方ないですね」

「わたしもヤバイ水着で配信しますよ、ねずみさん」
「「「「ああああああああ!!!!」」」」
 のらナギは、地上でとても健全な全年齢向けの配信を始めました。

「「「「のらのらしてきた」」」」
 健全な配信に釣られたねずみさん達は、一日に千五百人ものペースで黄泉の国から地上へと吸い出され、
「うおおー! のらちゃんえっちなのじゃー!」
 どぶ配信をしていたのじゃナミもいつの間にかコメント欄に蘇り、みんなで仲良くどぶどぶしましたとさ。

 めでたし、めでたし。


②:きゃっとむかしばなし『P休さん』

「むかしむかし、あるところに、P休さんという黒猫がいました。
 P休さんはトンチが得意で、例えば”この橋渡るべからず”と書かれた橋は
『これは端ではなく真ん中を渡ればグワーッ落とし穴!』
 見事に墓穴を掘りつつも、アンドロイド身体能力で乗り越えていました」

「ある日、P休さんの評判を聞いた狐娘のおじさんの王様が、彼をお城に招きました。
『やあP休さん。実はわらわに力を貸してほしいのじゃ』
『任せなさい。何を隠そう、俺は幾多のセッションを口八町で切り抜けてきた男……!』
 王様の言葉を聞き、P休さんはドンと胸を叩きました」

「腕組みをしたP休さんが尋ねます。
『で、依頼の内容は?』
『コレを見てほしいのじゃ』
 王様は美しい屏風を取り出しました。
 その屏風には、ネモフィラ畑で踊る猫耳の美少女が描かれていました。 『かわいい!』
『同感。でもかわいいだけじゃなくて、本当はとても困った猫なのじゃ』
 狐娘のおじさんの王様は、深くため息をつきました」

「王様は哀れっぽく頼み込みました。
『わらわ、この子に毎晩燃やされて困ってるのじゃ。どうにかして屏風の中から連れ帰ってほしいのじゃ、P休さん』
 そう言いつつ、王様は内心ほくそ笑みました。
 屏風の中の美少女を連れ帰れるはずがない。トンチ勝負はわらわの勝ちなのじゃ! そう勝利を確信していると、
『わかった』」

「『この俺好みの美少女を、屏風の中から出してみせようじゃないか』
 P休さんは不敵な笑みを浮かべ、Wiiリモコンを取り出しました」

「さて。それから4年か、5年か、100年か。とにかく長い時間が過ぎ……おや?」
 そこまで絵本を読んだところで、わたしはふと気付きました。
「むむむ、もう配信終了の時間ですか。名残惜しいですが、今日はここまでにしておきましょう」

『いかないで』『いかないで』『いかないで』
 わたしを引き止めるねずみさん達のコメントが流れます。
 嬉しくてニコニコしていると、その中に一つ気になるコメントを見つけました。
「『話の続き、どうなるか気になる』……ですか」

 はてさて。P休さんは、Wiiリモコンで何をしたのか。
 屏風の中の美少女は、結局外に出られたのか。
 その答えは確かにここに存在していますが、ちゃんと説明するには時間が足りないので……
「そうですね」
 ここは、ちょっと意地悪しちゃいましょうか。

「このお話の続きは、あなた自身の目で確かめてみてくださいな!」
 そんな言葉で誤魔化して、わたしは配信終了ボタンを押すのでした。
 めでたし、めでたし。



「配信終了ボタンがあるの、こっちだった」
 今度こそ、めでたし、めでたし。


③:きゃっとむかしばなし『笠ジゾーデス』

 むかしむかし、あるところに、のらきゃっとという美少女がいました。
 プラモ作りが得意なきゃっとは、趣味が高じて某企業のアンバサダーを務めていたのですが、
「何これ」
 その企業が展示した新作カープラモの奇妙な外見に、それはそれは困惑しておりました。

 富山県をイメージした、大雪に強い合掌造りのカープラモ。
 車の上に家を載せたのうすじ極まるデザインには宣伝大使ののらきゃっとも頭を抱え、
「買う人いないでしょこんなの」
 案の定、頭だけでなく在庫も抱えることになってしまいました。

 さて、展示会の日の帰り道。
 冬の富山を思わせる大雪の中、在庫商品を抱えながらテクテクテクテクと歩くのらきゃっとは、
「あ、ジゾーデスだ」
 道端に数体のジゾーデスが並んでいることに気付きました。

 こんこんと雪が降る中、じっと佇む石でできたジゾーデス達。
 彼らの頭上には真っ白な雪が降り積もっており、とても寒そうに見えました。
「おやおや。これはちょうどいいですね」
 きゃっとは自分の抱えた荷物、大雪に強い合掌造りのプラモに視線を向けると、

「ちょうど、お腹が空いていたんです」
 荷物を置いて、ジゾーデスにガブリと齧りつきました。
 きゃっとは校舎が大好物なので、石だって食べられるのです。
(デスーッ!?!?!?)
 ジゾーデス達は悲鳴を上げたそうな雰囲気を発していましが、石なので何もできずに食べられてしまいました。

 そうしておはらいっぱいになったきゃっとは、歯型のついたジゾーデスをじっと見つめて、
「これ、ジオラマに使ったら面白そうですね」
 在庫のプラモと組み合わせた写真を投稿して大いにバズり、アンバサダーの役目もしっかり果たしましたとさ。

 めでたし、めでたし。

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