高断熱住宅でもエアコンだけでは暖かく感じない問題? その3 エクセルギー消費速度の話
前回、前々回と、高断熱住宅でエアコンで室温が20度と快適なはずなのに、妻はストーブを付けたがる問題について考えてきた。なぜ室温が十分に暖まっていても、体感的に暖かく感じないという問題が起きるのだろう?という話だ。
ここまでをざっくり要約すると、空気を暖めて、室温が高くなっても、周りの壁や床が暖まらないと、周囲からの輻射熱がなくて人間は体感的に暖かいと感じない。
だから、空気を暖めるエアコンだけじゃなくて、オイルヒーターを導入したところ、上手く行ったというところまでが、前回の話。
今回は、もう一つ進んで、エクセルギー消費量という話まで突っ込んで、今回の議論の最後にしたい。
これまでの何となくのふわっとした話を少し理論的に、とはいえ、熱力学は専門ではないので最終的にはふわっとまとめるんだけど、それでも、納得いくようにある程度理論的なアプローチで、今回の議論をしめくくろうというわけだ。
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それにしても、エクセルギー消費量なんて難しい単語が出てきた。
エクセルギーとは何ぞやというと、これが結構難しいんだけど、すごく簡単に言うとヒットポイントだ。
人間は熱を作っている。平熱を保つように細胞が活動している。
体の外に放射される熱の量が、体内で作られる熱量より大きいと寒く感じる。
熱は拡散する。熱い方から冷たい方に移る。
拡散させる能力がどれくらいあるかを説明する数字としてエクセルギーがある。
エクセルギーが高いということは、まだまだたくさん熱を拡散させる能力があるということ。
つまり、暖かさのヒットポイントと考えると、分かりやすい。
「それってエネルギーとは違うの?」
と思うかもしれない。
エネルギーでいうと、熱エネルギーは保存される。
熱い方から冷たい方に熱は移るけれど、それはあくまで移るだけで、なくなったりはしない。
エネルギーの移り方について考えようと思うと、エクセルギーの考え方が必要になる。
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いきなり難しい響きになったけど、体から熱が放射されるとヒットポイント(エクセルギー)が消費される。
そして、エクセルギー消費速度という観点で考えると、室温と周壁温度が大きく関わってくる。
体感温度を簡易的に示す式として、室温と周壁温度を足して2で割るというやり方がある。
これでいくと、
室温15度 周壁温度25度
室温20度 周壁温度20度
室温25度 周壁温度15度
この3つは同じと言える。
ただ、これはエクセルギー消費速度は考慮されていない。
エクセルギー消費速度を考慮すると、少し違う。
周壁温度が22度程度あれば、室温は18度でも24度でもエクセルギー消費速度はほぼ同じになる。
つまり、周壁温度が22度あれば、室温はいくらか低くても、体感的な暖かさはあまり変わらないということだ。
周壁温度22度でも室温14度まで低くなると、さすがにエクセルギー消費速度は大きくなる。
それでも、室温がそこまで違っても、エクセルギー消費速度ではそこまで大きな差にならない。
逆に周壁温度が16度だと室温24度くらいまであげないとエクセルギー消費速度的には同じにならない。室温24度っていうとかなり暖房をたかないといけない。
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もっと簡単に言うと、体感的な暖かさ=エクセルギー消費量は、室温よりも、周壁温度による周囲からの放射、ポカポカ光線(放射による熱)の方が重要といえる。
何せ、周壁温度が22度まで作れたら、室温は18度でも24度でも同じってことなんだから。
なぜそんなことが起きるかというと、周壁温度が上がることで、そこから発生する放射エクセルギーは、表面温度と外気温の二乗に比例するからだそうな。
よく分からないけど、周壁温度の方がエクセルギー的には効果が高いということらしい。
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ちなみに、エクセルギー消費量の理想は、周壁温度25度、室温18度だそうな。
つまり、エアコンではこれは作れない。
エアコンだとどうしても室温の方が高くなってきまう。
暖房として考えると、空気を温めるよりも、周壁温度を暖める輻射式の暖房のほうが体感的に暖かいというのは、こういうことらしい。
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そんじゃ、エアコンで暖房するのはダメなのか?
高断熱住宅はダメなのか?
そういうわけではない。
まず、エアコンはやはりエネルギー効率が良い。室温を上げるということだけで言うと圧倒的に電気代が安い。
周壁温度を上げるのは不得意とは言っても、室温が上がれば、ある程度は周壁温度も上がる。
室温以上には上げられないけれど、それでも、そこそこまでには上がる。
特に高断熱住宅じゃないと、室温から周壁温度を上げる前に、壁の外、家の外に熱が抜けてしまうので周壁温度が上がらない。
これは、薪ストーブなんかの輻射熱の暖房でも同じことで、いくら輻射熱で壁を暖めても、断熱が悪いと壁は冷たくなってしまう。
だから、やっぱりエアコンも悪いものじゃないし、高断熱住宅も重要ということは間違いない。
特にオイルヒーターなんかは、室温はなかなか上がらない。放射(ボカポカ光線)は出してくれるけれど、室温はなかなか上がらない。エアコンと組み合わせることで非常に効果を発揮する暖房だといえる。
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床下エアコンが評判が良いのは、室温よりも床を先行して暖めてくれるからだろう。
確かに室温を上げるなら、床下エアコンよりも通常のエアコンの方が手っ取り早い。
だけど、室温よりも周壁温度の方が体感的には重要だから、先行して床を暖めるのは効果的だと言える。
室内をエアコンで暖房してもどうしても暖かい空気が上に行きやすい。床下を暖房すれば上にある床をしっかり温めてくれる。
理に適っている。
とはいえ、床下エアコンの問題点は基礎のコンクリートに熱が流れてしまうことだろう。基礎を外断熱で取れば蓄熱として考えられそうだけど、内断熱だとイマイチな気がする。そんなこともないのか。内断熱でも基礎断熱はきちんと機能しているのは実証されているんだから、床下エアコンで基礎から外部に熱が抜けるということはないのか。
この辺はよく分からない。
でも、普通のエアコンだって天井が暖まれば、そこから放射はあるはずだから、やっぱりあまり意味がないのか。
メルカリで4000円のオイルヒーターくらいなら買って実験するけど、床下エアコンの実験まではしない。
それでも、床暖房のような大掛かりな仕組みと違って、床下エアコンは仕組み的には難しくない。
ただ、この理屈でいくと、壁についても、外断熱で囲って、床下エアコンの空気を壁の中に通してやって、最後に残った空気を室内に出せば周壁温度的には良いだろう。
そこまでやるといろいろ大掛かりになりすぎるか。
何にせよ、床下エアコンについては、今回の件で随分と考え方が変わった。これまでは床下エアコンはバカにしていたけれど、確かに室温よりも周壁温度の方が大事と考えると、床下エアコンは理にかなっている。
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ちなみに、エクセルギー関連の詳しい計算式やら測定方法は分からない。
宿谷先生という賢い人の書いた資料にグラフが書いてあって、それを見ただけだ。
多分、結構難しい計算やら計測器なんかが必要なんだろう。
詳しくは宿谷先生という方がいろいろ書いてくださっている。
エクセルギー、周壁温度、室温などでググると宿谷先生関連の情報がいろいろ出て来る。
宿谷先生以外の資料はあまり見つからない。
多分、住宅の専門家は熱力学なんて手を出さないし、逆に熱力学の専門の人は住宅には手を出さないのかもしれない。
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随分と小難しいことを書いてみているけれど。
これで、高断熱住宅でエアコンだけで暖房してもいまいち暖かくない問題の全貌がおおむね解けたんじゃなかろうか。
周壁温度は室温よりも体感的には効果がある。
それは、壁が暖まるとポカポカ光線を出すからで、エクセルギー消費量の観点で考えるとポカポカ光線は室温よりも効果的だから。
エアコンは出来るだけ室温を上げる点では最強だから使うに越したことはないけれど、特に寒冷地ではエアコンの効率も落ちる上に、外気が寒く周壁温度も落ちやすいのでエアコン以外の方法で、周壁温度をあげる、あるいは直接ポカポカ光線を出す暖房を併用するのが良い。
我が家については、ありがとう4000円のメルカリデロンギ!
新築なら輻射式のFF灯油ストーブなんかも良いし、薪が無料で手に入る環境なら薪ストーブは燃料代ゼロ円で最強の暖房と言える。
とはいえ、最終的には、一枚多く服を着れば解決する程度なんだから、それが一番良い気もする。
そう考えると、やっぱりエアコン一台で室温20度がキープ出来れば、十分に暖かい家と言える気もする。
本末転倒だけど。
そんなこんなで、高断熱住宅とエアコンでも暖かくない問題、完結です。