高タンパク食は体に良いのか.「科学者たちが語る食欲〜食べすぎてしまう人類に贈る食事の話〜」より考える.
最近車通勤時間が長くなった関係でAmazonAudibleを利用していて,今回「科学者たちが語る食欲 デイヴィッド・ローベンハイマー著」を読了(聴了?).副題にあるテーマに対して,動物や人間の実験や観察を元に食事について大変示唆に富む内容で,私なりの要約をメモとして記しました.
summary
人を含む全ての動物はタンパク質の摂取によって食欲をコントロールする.
タンパク質と糖質のバランスは程よいものが良い.
本書ではバッタから始まりチンパンジー,人に至るまでの生物の食事に関する実験を紹介しています.第1章と2章のバッタの研究の記述がそのまま本書の結論になるのではないか,と思われるような内容になっていました.
バッタの研究では,餌の種類を高タンパク食と高炭水化物食とに分けて,それによってバッタの寿命や生殖能力などなどがどのように変化するかを実験しています.
・(過剰な)高タンパク食は,生殖能力は高くなる,寿命は短くなる.
・(過剰な)高炭水化物食は,生殖能力は低くなる,寿命は長くなる.
というものでした.
そして,「食欲」という点に着目すると,
・タンパク質の摂取量がある程度の必要量になると,食欲が満たされる.
・逆に,タンパク質が少ない場合=炭水化物が中心の食物を食べている場合,食事摂取の総量が多くなる.これは必要なタンパク質が摂取できるまで食べているの理由ではないかと考えている.
という内容です.
「タンパク質欲」を満たすという視点で食事量が決定されるというのが本書の前半の内容のまとめだと思います.筆者は,人以外の生物は自分自身に必要なタンパク質の摂取量を本能的にわかっていると記載しています.食事の総摂取量はタンパク質の摂取量に影響される,これは大変示唆に富んだ内容と思います.ちなみに,タンパク質欲を満たすために食事をするのだという話とは別に,ここで紹介された実験は過剰な高たんぱく質食と炭水化物食の比較によって生殖能力と寿命の高さについても述べており,過剰な高タンパク食は繁殖のためにあるとして,寿命と繁殖はトレードオフであり,どちらかを満たすために食欲,食べるものを選択していると述べています.そして,動物のほとんどは繁殖を満たすための食事,つまり高タンパク食を選択するとも述べています.
人の食事に関しては後半で述べられていますが,食品添加物を中心に,元々の素材が調理加工の工程で全く別物に変わっていること,それらの食品が食欲を異常に促進してしまうことを問題視しています.糖質を過剰に摂ってしまうことだけでなく,タンパク質含有が極めて少なく,加工食品自体に中毒性があるということが,現在の人々の食習慣に大きな影響を及ぼしていると述べています.直感的にとても良くわかる話ですが,盲目的にコンビニエンスな食事を摂っている現代人にとっては身を持った話として自覚しづらいだろうなと思います.
多くの時系列的な研究経過と結果をもとに食事について語られている本書の結論は,糖質とタンパク質のバランスを整え,適切な食材を摂取することになると思います.結論だけを見れば当たり前のようですが,例えば現代の高タンパク食に対する盲目的な姿勢への警鐘と反省を促し,またコンビニエンスな食事に対する自己規律的な対応など,実際に行動に移すことが難しい内容について科学的に述べられており,理解し納得して行動を起こすためのきっかけになる本だと思います.
良い本でした.