この曇り空がもし晴れるなら。
今年の冬は寒かったね。
そんな声が聞こえた。
一期一会という言葉を忘れ、そのひとときを大切にできなかった私に、大きな大きなバチが当たった。
どこであなたと出会い、何をして何を想って過ごしたのか。
よしんば思い出せたとしても、なぜあなたと出会えて、どうしたらもう一度あなたと出会えるのかは、きっと神様にしかわからない。
神様はその方法を知っていても、もう私にチャンスはくれないのだろう。
グツグツ煮える感情を、箸で混ぜるように弄ばれた。
神様なんて、嫌いだ。
朝だというのに外が暗い。今日は雨が降るらしい。隣に座る学生の傘が、何度も足にあたった。
外を見ながら息を吐くと、窓が白く曇った。私はそこにネコの絵を描いた。
ここから見る景色も、仕事の行き帰りの道も。
よく行っていたカフェも、何度も寄った本屋も。
信号機ひとつ取っても、あなたとの時間が思い出されて、そこに一人で居ることが、なんだかとても悪いことをしているように思えて。
私はどこへも行かなくなった。
どこへも、行けなくなった。
恋を忘れるのには好きだった時間の三倍の時間が必要だ、という言葉がある。
あなたと過ごした二年と七か月と四日のうち、どれほどの時間本当に好きだったのかはわからないけれども、少なくとも六か月は好きだったようだ。
時間が経つごとに残酷なほど思い知らされる、この気持ちが偽りで無かったという事実だけが、今私がいる暗闇の中で感じ取れる唯一の光だった。
一般的に、女はすぐに男を忘れるというが、あなたのことを忘れたいと願ったことは一度もない。
これは強がりでもなんでもなく、この気持ちを失うことの方が怖かった。
痛みが、苦しさが、あなたが私の中にまだ在ることを教えてくれる。
耐えることなどできるわけもなく、声が枯れるほど泣きながらも、まだ大丈夫だと安心している自分がいた。
一人になってからというもの、私にはあなたと呼べる存在がいない。どこかこのままでいたい自分がいた。
いつかあなたと出会えた時にだなんて、そんな淡い期待を抱いているわけではなく。
あなたが最後のままでいたい。ただそれだけのことだった。
こんな出会いなら知らなきゃよかった。
けれどもたとえ時間を巻き戻すことができたとしても、全く同じ選択をする。
同じ悦びを感じるために。
苦しむことがわかっていても。
でも、やっぱり、ちゃんと幸せだったよ。