萩市の課題を解決するために新たな複合施設が誕生。『グランド萩イースト』
山口県萩市。幕末から明治に活躍し、今の日本の礎をつくりあげた多くの志士を育てた「松下村塾」で有名ですが、その萩市の中心部に新しい施設ができました。萩市の課題を解決するためにつくられたその施設は、かつては市内でも有名なホテルでした。そのホテルがコロナ禍で廃業。施設の再生に手を挙げたのは福岡県に本社がある社会福祉法人でした。なぜ福岡の会社が萩で新しい施設の運営をはじめたのでしょうか。そこには萩市の課題に正面から取り組もうという思いがありました。
「萩の中心に廃墟をつくってはならない」わずか20分で施設の再生を決断
2021年1月に住宅型有料老人ホーム「グッドタイムホーム・グランド萩」とデイサービス「グッドタイムクラブ・グランド萩」としてオープンしたこの施設、以前は「萩グランドホテル天空」という市内で最も大きなホテルでした。最盛期には修学旅行生が3校同時に来て1,000人位が一度に宿泊する、そんな萩市を代表するホテルでした。
建物の老朽化などもあって客数が減少傾向になり、コロナが決定打になって2020年に廃業になってしまいました。
ホテルでの再生も検討したようですが老朽化が激しく、この施設を再生しようという人はなかなか現れませんでした。
そんな中、社会福祉法人 創生会さん(以下、創生会)は、銀行からこの施設を紹介されました。同じような案件を佐賀で進行中なので、将来の萩の高齢者福祉事業の不安を取り除くという目的も考慮して銀行が声をかけたのでしょう。
グランド萩の運営責任者、施設長の阿部さんによると「弊社のオーナーがここに来て、20分ぐらい当時の市長と一緒に見て、ここ(市内の中心地)に廃虚ができたらいかん。うちがなんとかする」と即決、それで再生への取り組みが始まったそうです。
まずは老人ホームから。そして東館の企画、運営に取り組む
阿部さんたちが担当となり、グランド萩へやってきました。老人ホームがメインの創生会ですが、地元の競合他社に影響がないように、要介護3、4、5を除いた、自立・要支援・要介護1を中心に取り組むことになりました。
同時に、市内には施設がいくつかありますが、その周辺の山間部や沿岸部に課題があると言われました。働き手の方が60歳オーバーなので、あと3年から5年ぐらいで全滅する可能性がある。それに対応するサービスを行ってほしいというオーダーがありました。
現在は半径50キロぐらい、上は益田の直前の江崎位まで、下の方は阿東や美祢、秋吉台、西は長門の先まで送迎しています。ヘルパーを行かせるのは難しいので、ここに来てもらいデイサービスでお風呂に入って食事をして楽しんで帰ってもらうというのがメインになっています。毎日70人ぐらいのお客さまがデイサービスに来られていますが、半分ぐらいは周辺部の方です。
「グッドタイムホーム・グランド萩」と「グッドタイムクラブ・グランド萩」の運営が安定してきたところで、次に「東館」に取り組むことになります。
建物の構造が別棟になっているため、介護をやるとオペレーション上、別チームがもう一つ必要になるので介護施設は難しいと考えました。高齢者向けの市営住宅的な使用を萩市に提案したところ、高校寮の運営をやってほしいと言われます。また(市の)企業誘致推進課から、萩市に企業を誘致してもオフィスがないという話を聞きました。萩・明倫学舎に企業のためのオフィスがありますが、ほぼいっぱいになっている。誘致した企業の従業員の住まいも必要だという話や「看護師寮がなくて困っている」という話もあり、最終的に「地域課題解決型複合施設」というタイトルの施設として東館(グランド萩イースト)が2024年4月にオープンしました。
阿部さんは、萩市についてこんなことを感じています。
阿部さん「萩はネームバリューがあるし、幕末に活躍した有名な人の成果がいっぱいあって、それだけで人は来るという認識を持たれてるかもしれないですけど、本来ならば、もっとストーリーを作ったりとか、町ぐるみで仕掛けをするとかしないともったいないと思います。
僕らは観光業ではないので、萩のネームバリューは関係なくて、実体的な今のここの状況をみています。実際、毎年人口が減っているという現実があります。
だから、この施設は入り口でしかなくて、これがうまく機能して、多分半年、1年かかると思いますけど、フル稼働し始めたときに真っ暗だった建物がいつも明かりがついていて、人の出入りがあって、いろんなことがここから情報発信されている状態になり、地元の大手の企業さんたちが『俺たちもやろう。こんな需要があるんだったらやれるね』と思ってくれる施設を目指しています。
また、消滅可能性自治体と言われている自治体の人たちが見学に来てくれて、多分、古いホテルはいろんなとこにあるはずなので『こんな発想でこうやるとこんなことができるのか』と思ってくれたらいいな、と考えているんです」
阿部さん「おかげさまで老人ホームなども皆さんすごく楽しみに来られています。毎日7、80人ぐらい来られていて、高齢者の皆さんの温泉センターのようになっています。天然温泉があるので温泉に入ってバイキング料理を食べて、遊んで歌って踊って運動して帰るというような。実際にここで10年ぶりの再会があったこともあります。こちらの集落とあちらの集落で、全然家から出られなくなった人たちがここに来て、『あんた生きとったのね!』と泣きながら抱き合っているということがありました。そういうのを見ると、やって良かったなと思います」
若い人に、萩を変えていってほしい
グランド萩イーストを運営するにあたり、阿部さんは地元の飲食店で働く高垣さんに声をかけました。
阿部さん「僕が抱えているテーマを高垣さんに話したら興味を持ってくれて、『今一緒にやれることをやりましょう』と言って、すごいエネルギッシュに動いてくれているんですよ。ただ、仕組みとしては始めたばかりなので全然できていないことはありますし、まだ初期設定を今つくっている最中でもあるので、目の前に大変なことはいっぱいあります。同時に地域の人たちに対するアプローチの仕方なども考え中です。今後、この施設を使いながら、大きなことはできないかもしれないけど、小さいことを積み重ねて、萩市の役に立つような存在になりたい。どうしたらみんなに『もっと萩市を盛り上げよう』という意識を持ってもらえるようになるのか。また、東館には高校生も来ているので、高校生たちが『萩に残りたいよね』『やっぱり萩っていいよね』と言ってくれるような仕掛けや体感ができたらいいと思っています。
僕らはどうしても50代、60代、70代の人たちと萩の未来について語っていましたけれど、この人たちはいなくなるんですよね。率直に言うと答えを出さなくても自分たちの時代はいいかもしれない。ただ、それ以下の40、30、20代、特に20代や10代の人たちは萩のことが好きでここに残りたい人たちは自分たちのことなので、今行動をはじめないと、40代になってからそのテーマに取り組みますと言っても、その時には人口が半分になってるので、それはまずいと言っています。
自分たちでやりながらそれに共感できる人たちが集まってくれて、3年後5年後ぐらいにムーブメントができていて、高垣さん中心で若い人たちがすごい活動してたりとか、そこに目指して県外、市外から若い人が集まってくる、そんな感じになったらいいなと思っています」
グランド萩イーストのマネージャー、高垣さんにも話をうかがいました。
高垣さん「私は去年の夏頃に萩に戻ってきました。福岡や柳井の方に出ていたのですが、地元に帰ってきて何の仕事をしようかなって思いながら実家の手伝いをしていたときに、たまたまお声がけいただいて、ここに見学に来て施設長にお話をうかがいました。萩出身ではないのに、こんなにも萩のことを考えている人はなかなかいないので心を打たれました。
私もせっかく帰ってきたのでもっともっと萩に貢献したいなとは思っていたんです。
東館という新しい施設が始まって、テーマが『地域課題解決型』なので、そこで何か私ができることがあれば、一緒に頑張れたらいいなと思いました。変化していくというか、どんどんレベルアップしていくという点ですごく興味が湧きました」
阿部さん「東館は、僕はずっと一人プロジェクトでやってきたので、やっと現地に三人強力な仲間ができて助かっています。彼女たち三人のグループでものが動いていったりすると、僕は軌道修正したり、他でバックアップをしたりするだけでよくなる日がもうすぐ来ると思っています。
会社としても初めての試みなので、高校寮の運営を簡単に考えていましたが案外大変だし、二人しかいないのにやっぱりお子さんを預かるということの大変さや、中学出たすぐの子たちを預かって親もとから離れて生活している状況をどうフォローするかというのは、僕の初期設定が甘かったところもあって、彼女たちが徐々に修正をしてくれています。
今後、マンスリーやオフィスが始まると、僕が初期設定していない問題も出てくるでしょう。でも今のチームだと『こんなの出たよ、どうしようか』とポジティブに考えてくれそうな気はしています。言ってすぐにいろんなことが変わるわけではないかもしれないですけど、うまく現場現場で対応をしながら始めてみないと分からないので、始めることを優先しました。
問題を解決することをポジティブに面白がってくれる人たちが今集まってくれているのがほんとにありがたいですね。それぞれがいろんな才能を持っていて、イラストがうまい子とか、何かあっても『私やります』とガンガンやりますし、すごいです。普通に介護だけの発想だと、これができないんですよね。遊び要素というか『こうやったら面白いんじゃない?』というような発想が必要だと思っています」
阿部さんや高垣さんの思いが行動になり、日々、変化している「グランド萩イースト」。オフィス、学生寮、看護師寮、これらの課題を解決し、さらに萩市にどのような影響を与え、発展していくのか、注目していきたいと思います。
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