【レポート】ニュートラの学校 入門編セミナーin新潟
2022年度からスタートした「ニュートラの学校」。昨年度(2023年度)は佐賀・新潟にて入門編を実施しました。このセミナーでは、福祉と伝統のものづくりの可能性について、実践者と語り合い、仲間を増やしていくことを目的としています。新潟では福祉施設だけではなくデザイナーや販売店など多様な視点でものと関わる人たちが登壇しました。翌日におこなった訪問レポートとともにお楽しみください。
冒頭のキーノートでは東京・町田で染織のものづくりをすすめるクラフト工房La Manoの高野賢二さんを迎え、尊厳のあるものづくりについて紹介いただきました。
3000平米もの広大な土地のなかにある、自然とともに仕事をするLa Manoの活動は約30年間にわたります。天然素材をつかった染織商品には定評があり、販売会では高い売上を誇ります。また、利用者によるアート活動にも力を入れていて、アート・クラフトにあふれた空間が広がっています。
高野さんがLa Manoに関わるようになったきっかけは、たまたま染織の学校の先輩から勧められ、ほんの2、3年いるつもりが、気づいたら現在まで休みなく関わるようになったそうです。日々仕事づくりやものづくりのあり方に携わっています。天然素材や工法にこだわったものづくりをすすめてきました。妥協せずに伝統の染めやものづくりの方法を、利用者にも取り組みやすい形で進めてきました。
大切にしているのは、利用者が頑張るというだけではなく、その人がそこに関わったからこそうまれる技術や経験、能力や感性、発想から作り出された製品や作品を世に出していくことだそうです。
La Manoの転機となったのは、それまで試行錯誤をしてきた手ぬぐいづくりを展開させた鯉のぼりの商品でした。当時なかなか売れなかった手ぬぐいを活かす方法を考えていたときに、遊び半分で鯉のぼりの柄で染めてみようと思いついたのがきっかけだそうです。それをアースデイのイベントで販売したところ想像以上の反響があり、本格的な製造販売へと移行していきました。利用者の工賃(給料)につながるよう、1セット4万円前後で販売をしています。
工賃を上げるということは、今の福祉施設の大きな課題になっていますが、ただただ給料を増やすだけではなく、日々の環境づくり、ものをとおして繋がる幸せそのものを価値とする考え方も必要だと高野さんは言います。たしかにお話を聞く中で印象的だったのは、La Manoの活動する敷地内には四季を感じさせる空間があったり、年間の行事を大切にしたりと、仕事の視点だけでなく、人が生きていく上で共有できるカルチャー(文化)全体をとても大切にしている事例がいくつもありました。
キーノートの最後に高野さんが印象に残ったエピソードを話されました。鯉のぼりを購入したご家族から喜びの手紙をもらったときに、自分たちが仕事として取り組んだものが誰かの幸せにつながることを実感。ものづくりをとおし、人と人とのつながりを感じる瞬間だったそうです。
後半のディスカッションでは、地元新潟でデザイン事務所やショップ運営をする迫一成さん、ニュートラプロジェクトを運営しているGood Job!センターの安部さんが参加しました。
はじめに迫さんより活動を紹介いただきました。hickory03travelersとして、22年にわたり、店舗営業、商品卸売、そしてデザイン業を並行して運営されています。ものをつくるデザイナーの視点と、ものを売るバイヤーの視点。両方の視点がわかるからこそ、柔軟に商品開発や販売に関わることができるそうです。
代表的なお仕事としてお話いただいたのが、地元新潟のお菓子「ゆかり」を「浮き星」としてリニュアルさせた事例です。
それまで知る人ぞ知るお菓子だったものを、ネーミングやパッケージを新しくすることで、年間約1000個から6万〜10万個に販売数が上がったといいます。もう一つは、砂時計の「すなだときお」。日本で3件しかない、ガラス製の直管型のガラスの砂時計を製造されている会社との案件です。
希少な製造工程をとにかく知ってほしいという思いから、擬人化したキャラクターのプリントを市内の福祉施設「あおぞら」さんに発注したり、土台の木工を仏壇や包丁の製造会社に頼んだりと、地元とのつながりも作りながらリニュアルしたそうです。
迫さんが大切にされているのは、ただ新しくするだけではなく、ものづくりにどう関わり、伝えていくか、という視点です。「浮き星」はたまたま後継者がいたことで、現在も継続して製造販売をしていますが、「すなだときお」は、製造機械が壊れてしまい、販売するのは在庫限りとなったそうです。無理やり継続させるのではなく、幕引きしていくことも大事な局面だと語る迫さんからは、デザイナーとしてのものづくり、バイヤーとしての適切な距離感のあり方を教えていただきました。
次に、Good Job!センターの安部さんからは、伝統のものづくりである「はりこ」を、作り方を変えることによって障害のある人が作りやすく、かつバリエーションも生まれたという事例をお話しいただきました。
はりこの伝統的な作り方は、仕上がりにあわせて木型を作り、その上に和紙や新聞紙を貼ります。この方法だと最後に張り子を割って木型を取り出す必要があるのですが、Good Job!センターでは代わりに3Dプリントでつくった型を埋め込んだまま仕上げをしていきます。これによって取り出す手間が省けること、ある程度複雑な形も作れるなどメリットが大きいことがわかりました。また、一つのはりこのかたち「GOOD DOG」が、企業や地域でたくさんのコラボを生み出し始めていることも紹介。絵付けワークショップなどをとおして子どもや国内外のひとたちと交流をしたりと、広がりも生まれている事例を紹介しました。
また、最近取り組んでいる、こけしを手本にしながらオリジナルの人形をつくるプロジェクトを紹介。春日大社境内で枯れ落ちた木を活用するのに、岡山の玩具工芸舎と連携し、「コッパン人形」(木っ端とハンコの組み合わせでできた人形)というラインナップを発表しています。誰でもできる作業と、その人にしかできないセンスの絶妙なバランスの上に成り立つ商品に、参加者も熱心に聞き入っていました。
その後は高野さんも入り3名が壇上に上がりディスカッションをしました。
丁寧に作ることと、その人のセンスをいかす、揺らぎのようなものをどこまで製品で出すかという議論ののち、会場からの質疑応答も受け付けました。
質問者1「アートと量産品の間にある工芸について、値段の付け方をどうしたらいいのか」
安部さんから、原価から積み上げるだったり、売り場を想定して価格をつけたり、多様な値付けの仕方があるという事例をお話しいただきました。
また、高野さんや迫さんからは、郷土玩具というラベルを貼ると、必要以上に値段は上げられない、鯉のぼりは桐箱のオプションをつけて価格をあげているなど、カテゴライズやオプションという考え方も提案をされていました。
質問者2「福祉の世界から遠い立場なので、福祉施設との出会い方がわからない」
迫さんから、福祉施設との出会いは本当に偶然だったそうです。 ただ、その偶然から福祉の現状を知ることができ、知ると応援したくなる、関わりたくなる、という流れが生まれ、そこから世界が広がっていくこともあると説明されてました。
また、参加者の感想として「新潟は車文化なので、車の内装に使えるような商品開発があってもいいのではないか」といったユニークな提案をいただき、地域の慣習や特性に寄ったものづくりの可能性も感じたひとときでした。
新潟編にご参加いただいた登壇者および参加者のみなさん、ありがとうございました!