ダンスフロアの未来を築くために今すべきこと ──「GLOBAL NIGHTTIME RECOVERY PLAN」を読み解く
COVID-19の状況においても、多くの都市では、ダンスフロアでの活動は決して不要不急な活動とは位置づけられていません。しかしながら、ダンスフロアやクラブ、ライブハウスへの財政支援は限定的なものであり、業界は大きな打撃を受けています。この状況を乗り越え、復興していくためには、ナイトカルチャーに関わるすべてのステークホルダーが、様々な実験に取り組み、アーティストやベニュー間のネットワークを構築するためには何ができるかを考え、多くの選択肢を開発することを余儀なくされています。
「GLOBAL NIGHTTIME RECOVERY PLAN(以下、GNRP)」では、ダンスフロアの未来を築くために世界各国が行った取り組みがまとめられています。現状を打破し、より持続可能なナイトカルチャーの基盤を整えるために今できることはなにか?この問いに答えるために、GNRPは大いに貢献するはずです。
前回記事ではGNRPの1章「屋外空間とナイトライフとCOVID-19」の読み解きを行いました。より柔軟に屋外空間の活用をしていくためには事業者と住民、行政の一層の連帯が必要です。今回の記事ではGNRPの2章「ダンスフロアの未来」の読み解きを行い、ダンスフロアの未来を築くために今すべきことは何か、そのヒントを探っていきます。
ダンスフロアの未来
COVID-19の感染拡大により、世界中の音楽会場やクラブは閉鎖を余儀なれました。ロックダウンや第二波、再開にあたって設けられた制限は、会場運営者やアーティスト、スタッフにかつてないほどのストレスを与えました。
もともと、クラブでの活動は過去数十年間にすでに不安定で複雑な状況に陥っていました。財施的な課題やジェントリフィケーション、社会的な負のレッテル、制度的なサポートの欠如、行政機関との協議の難しさにより、多くクラブは不安的な状況に置かれ、閉店の危機に直面していました。COVID-19による危機はこの傾向を悪化させました。多くの都市においてクラブは閉鎖に追い込まれており、経営を持続するための画期的な方法を見つけれていません。
現段階でダンスフロアを再開すべきではない理由は多く存在します。そのような中でも、現状を打破し、新しいビジネスモデルを見つけるためには、ダンスフロアは安全性、経済的なリスク、人々の体験の3つの観点から、再開にかかるコストとメリットをすべて把握する必要があります。
GNRPでは、新しいビジネスモデルのためのフレームワーク、ベニューや集団における包括的な評価など、安全で実現可能なダンスフロアの再開に向けた方策やツールを提供しています。
ナイトカルチャー復興に向けて今すべきこと
キャパシティの制限、売上の減少、営業時間の短縮、そして長時間踊れないということは、多くのベニューにおいて既存のビジネスモデルが機能しないことを意味しました。このような状況の中、ベニューを継続して運営していくためには、柔軟性と継続的な学習が不可欠です。小さくてスマートな実験を繰り返すことで、感染者数が増減した際にも柔軟性をもった運営をすることができます。
ナイトカルチャーが今できる実験としては「屋外空間の効率的な活用」、「実験的なテストイベント」「短時間のイベント」、「ハイブリット型のイベント」「より長時間・長期間のイベントやクラブ活動」の5つがあります。
「屋外空間の効率的な活用」については前回記事に詳細な説明がされています。「実験的なテストイベント」では、予約制や限られた観客の開催により、観客からのフィードバックを得て、イベント成功のために必要なことや課題を抽出することが可能です。「短時間でのイベント」では、着席型で控えめな演出のライブコンサートをすることで、衛生面の対策をテストしながら、改善することが可能です。「ハイブリイット型のイベント」では、少人数の観客を会場に集め、多数の観客に向けてはストリーミング配信を行います。「より長時間・長期間のイベントやクラブ活動」では、地域の状況や許可状況に応じて、より長時間・長期間のイベントやクラブ活動を行います。
GNRP中では、このような実験を繰り返しながら運営を行っているベニューがいくつか紹介されています。その中には、一部のプログラムを変更して運営しているベニューもあれば、完全にビジネスモデルを転換させ、新しいコラボレーションを開発しているベニューもあります。
今回はその中で地域に寄り添った新たなビジネスモデルを構築した多目的イベントスペース「ヴィレッジ・アンダーグラウンド(以下、VU)」の事例を取り上げます。
VUに見るコラボレーションと新たなビジネスモデル
VUは、イーストロンドンの中心部に位置する多目的イベントスペースです。VUでは、コンサートやクラブナイト、演劇、ワークショップ、展示会など様々なイベントが実施されています。COVID-19の発生後、VUのチームはすぐに、収容人数の減少と予防策の導入を検討しました。すると、、しばらくはチケット制の文化施設としての運営はできないことに気づきました。
そこで、まずVUはすべての従業員が一時休業の制度を用いて財政的に保護されること、契約者の残高が問題なく決済されることを確認しました。その上で、自社の運営を継続するためには何ができるかを把握するため、迅速に分析しました。
自社の持つ資源は何であるか検討した結果、VUの立地はロンドンの金融街に近く、毎日都市のオフィスに自転車で往復する人々にとって貴重な場所であることが分かりました。そこでVUは敷地内の一部を自転車置き場としました。またサイクリング業界での信頼性や評判を担保するため、ハイエンドの自転車店とのパートナーシップを結び、週1回バイクのチューニング等のサービス提供を実現しました。これより、VUはCOVID-19の状況でも運営を継続できる新たなビジネスモデルを獲得しました。VUのビジネスマネージャーであるキャサリン・カーン氏はGNRPに下記のメッセージを寄せています。
今、音楽べニューで働くプロフェッショナル達は、柔軟性、勇敢さ、 問題解決力と自ら学ぶ姿勢を強めていかなければならない。今それ以外に何ができるだろうか。
仮想空間の可能性
ロックダウン中の都市の対策として、バーチャル・イベントやバーチャル・クラブが増えてきています。仮想空間の活用は直接会うことのできないコミュニティを結びつけることが可能になります。そのような中でオンライン世界における公平性と不公平性の問題を理解することが、オンライン・イベント、オフライン・クラブの新たな課題だと言えます。
オンラインのアルゴリズムは、一部の人種、年齢、性別に偏る傾向があります。そのためハラスメントやプライバシーの問題と向き合う必要性があります。また、特にアクセスの多い仮想空間のプラットフォームはFacebookやAmazonといった企業が所有しているため、誰が最も利益を得るのか考える必要性があります。
ナイトライフの安全ガイドライン
ナイトベニューでのイベントを開催する上で大切な要素は「安全性」と「リスクの認識」です。GNRPでは、ソーシャルディスタンスを取ること、マスクを着用すること、アプリによる追跡と事前登録を行うこと、検温またはPCR検査をすることの4点に関してそれぞれベニューにどのようなメリットをもたらし、どのようなリスクが生まれるかを示しています。
その上で、雰囲気のコントロール、来場者の管理、非言語コミュニケーションを組み合わせて、イベント体験を最初から最後までポジティブなものとして設計するため、現実的な感染防止対策を開始前、来場時、イベント時、閉店時、退場後といった5つの段階に分け紹介しています。
すべて人にとって公平なダンスフロア
クラブは管理不能、安全ではない、社会にとって必要な活動ではない、という人々や企業・団体による認識は、クラブに対する偏見を生み、結果として監視や警察による取締りなどの厳格化につながっています。今回のCOVID-19の状況においても「夜遊び」こそが感染症の温床であるとされ、クラブのオーナーや従業員、客は偏見の対象となり、ウィルスを蔓延させる社会的な悪役として非難されました。しかしながら、このような人々を非難することは、ナイトベニューを社会から孤立させることに繋がり、結果として感染経路を曖昧にし、感染を加速させる可能性もあります。
このようなクラブを取り巻く世論を変えることは困難です。しかし、この状況を少しでも変えるためには、ナイトタイムの公式・非公式ネットワークを通じ、政府・自治体との連携によって誤った情報、非難、モラル・パニック等の情報に対応するためのコミュニケーション戦略やアクションプランの取りまとめが不可欠であること分かってきています。実際に、東京の歌舞伎町においては、区と多くのクラブ経営者の調停により、安全ガイドラインが敷かれた上での合法的なクラブ経営と感染者の早期発見を実現しました。
ナイトライフは都市の文化とコミュニティを再定義する
今現在も多くのダンスフロアやクラブは厳しい局面にあります。ベニューが閉鎖されることは都市においてコミュニティや文化的な空間を恒久的に失うことにつながりかねません。この危機を乗り越えるためには、ナイトライフのクリエーターやビジネスが、より広い範囲での都市開発の議論にどのように参加するべきか改めて考えるべきです。
ナイトライフのステークホルダーはその専門知識と独自の視点を活かし、都市のコミュニティと文化を再構成できるのです。より持続可能な都市をつくっていくためにはナイトライフのステークホルダーを巻き込んだ、より分野横断的なコミュニケーションが必要となります。
GNRP第2章は下記のリンクよりダウンロードすることができます。
『NIGHT DESIGN LAB』が主催するオンラインイベント「Night Design Talks」では、「ナイトカルチャーの再創造とダンスフロアの未来」をテーマとして扱います。GNRPの第1章と第2章を解説しながら、この危機を乗り越えるためにどのようなアイデアが検討可能なのか、『Night Design Lab』を運営するメンバーで議論します。
日時:
2021年2月1日(月)19:30-20:30
タイムスケジュール:
19:30-19:35 Night Design Labのご紹介
19:35-20:00 Global Nighttime Recovery Planの解説
20:00-20:30 解説に基づくディスカッション、Q&A
※ビデオ会議アプリケーション「Zoom」を利用して開催。
登壇者:
鎌田頼人(NEWSKOOL CEO)
岡田弘太郎(編集者/NEWSKOOL編集パートナー)
参加費:
無料
参加について:
こちらのリンクからご参加ください。
主催:
合同会社NEWSKOOL
『Night Design Lab』とは?
新たなる「夜の価値」を探す研究機関です。国内外のナイトタイムエコノミー事例やナイトカルチャーに関わるキーパーソンへの取材、ナイトタイムの課題や新しい楽しみ方の提案、インサイトの発信を行います。
https://newskool.jp/