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「場をつくり、クリエイティブを生み、都市へと浸透させていく」SHIBUYA QWSのエグゼクティブディレクター野村幸雄氏が語る、渋谷のこれから

大都市の熱狂と小さな都市の温かみを併せ持つ渋谷。

インディペンデントな魅力を持つ渋谷は、COVID-19による新しい生活様式と、渋谷駅を中心とした再開発をきっかけとして大きな分岐点を迎えています。渋谷の未来像は、都市全体がひとつのインキュベーションハブとして機能するクリエイティブ都市なのか、高度に商業化され、アイデンティティを失った都市なのか。誰もが、渋谷を向かう先に注目しています。

先の見えない時代において、私たちはどのように渋谷の未来像を描き、それに対して向かっていけばいいのでしょうか。

2001年に東急株式会社に入社し、現在では共創施設「SHIBUYA QWS(渋谷キューズ)」のエグゼクティブディレクターを務める野村幸雄さんは、不動産デベロッパーという立場から渋谷の再開発に関わり、この問いに立ち向かっています。

渋谷再開発の中核を担う高層ビルである渋谷スクランブルスクエア。その15階にあるSHIBUYA QWSは「渋谷から世界へ問いかける、可能性の交差点」をコンセプトに、多様な人々が交差・交流し、社会価値につながる種を生み出す会員制の施設です。野村さんは、QWSの企画から運営までに関わることで、変化する渋谷とそのプレイヤーを見続けてきました。

今回のパンデミック以降の渋谷の課題、新しい可能性を解き明かすべく、野村さんに話を聞きました。

渋谷におけるとまちづくりとカルチャーの関係性

──野村さんはデベロッパーという立場からまちづくりに関わっていると思うのですが、野村さんから見て、渋谷のまちづくりはどのようなステイクホルダーのもとに、どのように進められているのでしょうか?

渋谷全体に関わるまちづくりは、東急が主導しています。東急はまちづくりの中でも、さまざまな役割を担っていますが、その中でも一番大きなものがステークホルダー調整です。渋谷の街にはさまざまなステークホルダーがいます。23もの商店街、地主、地域住民、専門家の集う渋谷駅中心地区デザイン会議。まちのデザイン1つを変更するにも、多様なステークホルダーの合意形成が必要です。合意形成がよりスムーズに進むように東急は尽力しています。

エリアごとなどの中小規模の開発は、渋谷区が主導しています。渋谷未来デザインをはじめとするさまざまな民間企業と連携して、開発を進めている印象です。

──文化事業活性化の取り組みなどは行っているのでしょうか?

デベロッパーの役割は、カルチャー自体を作っていくことよりも、”集積に耐えうる/カルチャーコンテンツを誘致できる素地”をつくることだと捉えています。結局はカルチャーをつくっていくのは、クリエイティブな人々同士の交流です。そのため、クリエイティブな人々が集まる街の雰囲気や空気感を生み出していくのが、私たちの使命だと考えます。そのような場づくりの一環としてQWSもデザインしました。

─場をつくることによって街を活性化させていくというのは、ある種ボトムアップ型のアプローチだと感じたのですが、他のアプローチでの都市開発は行っているのでしょうか?

特区的なアプローチで文化事業を活性化していくこともありますが、ステークホルダー調整と申請プロセスが、あまりにも大変なため、気軽には手が出せません。仮に特区の申請が通ったとしても、特区の中で全く新しいものを作っていくには、相応なクリエイティブなアイディアを社会実装していく体力が必要です。

──場作り以外の切り口での、文化事業活性化の取り組みはありますか?

今、カルチャー自体を作っていくことに注力しているのは渋谷区という印象です。音楽系のイベントやファッションウィークなどの取り組みを行い、文化産業の活性化をしています。東急としてはそこに協賛するかたちが多いです。東急の中でも一部のチームは、箱を作らずに道玄坂をハックしたアートイベントや映画祭を開催していますが、組織全体としては、ハードを作る方の力学が強いです。ただ最近はエンタテイメントシティSHIBUYAの実現に向けたコンテンツの実施・誘致・育成を目的としている専門部署が創設されるなど変化の兆しはあります。

──そのような組織構造の中で、課題点はあるのでしょうか?

現在、東急が抱えている問題として、ソフトを運営する部隊とハードを開発する部隊との乖離があります。なので、いざ建物を作ってみたが、運営してみると使いづらいということはよく起きてしまいます。そのため、最近では、タスクフォース委員会みたいなものを作って、ソフトとハード間の分断を減らす取り組みを行っています。

エリアマネジメントの方法論

──東急は渋谷のエリアマネジメントを勢力的に行っていると思うですが、組織内部ではどのように合意形成がされているのでしょうか?

東急の開発部隊の中にはエリアマネジメント専門のチームがいます。そのチームが主体となってエリアとしてのコンセプト設計が行われています。例えば、渋谷は日本一訪れたい街となるという大きなビジョンのもとに、エンターテインメントシティ渋谷構想みたいなものがあります。

なので、基本的には、エリアとしての大きなビジョンを立ち上げ、それに基づいて、開発のチームが動いています。

──渋谷のエリアマネジメントを行う上での課題感というものはあるのでしょうか?

一番は、渋谷の再開発が進捗する中でこれからというときに、緊急事態宣言の発令があり、人を集めるようなイベント等が開催できなくなってしまいました。そのため、結局の何が成功で何が失敗なのかという考課検証が、難しい状況になってしまったことです。

渋谷スクランブルスクエアや渋谷PARCO、MIYASHITAPARK、渋谷フクラスなどさまざま再開発プロジェクトが開業しましたが、コロナ禍による不確定な要因が多すぎて、結局のところ、なにが開発の功績なのか要因分析が難しくなっています。

ジェントリフィケーションとの向き合い方

──最近、渋谷を拠点に活動する若者のなかでは、渋谷が面白くなくなってきたのではという意見が聞かれるのですが、野村さんは現在の渋谷をどう見ているのでしょうか?

確かに、ジェントリフィケーションによって渋谷からクリエイティブ層は流出してしまい渋谷が以前ほど面白くなくなったという意見はあると思います。しかし、これはもう少しマスな視点でみると、渋谷へのクリエイティブ層の一極集中が分散したという考える方もできると思います。また、最近の奥渋エリアの動向をみていると、このエリアではクリエイティブ層の出戻りが起きているようにみえます。

ジェントリフィケーションは避けて通ることのできない課題だと思うですが、奥渋のような場所がフィーチャーされ、渋谷の中により増えていけばと考えています。

渋谷の今までとこれから

──これからの渋谷のまちづくりには何が求められるのでしょうか?

何よりも文化的価値の分かる人が必要になってきます。今はさまざまな場所で再開発が起こっていますが、残した方がいい場所もあると個人的には考えています。例えば、五反田はキレイになりすぎて刺激がなくなったと感じています。

都市には猥雑性が必要です。都市のオーセンティシティを担保するような、小規模な飲食店やクラブ、ライブハウス、アートギャラリーの存在が欠かせません。しかしながら、現在の渋谷はこのような場所が少なくなり、都市としてのアイデンティティがなくなっていく危険性を孕んでいます。現状行われている再開発は、まだ大丈夫なラインだと考えていますが、これ以上の開発が進めば、渋谷が渋谷でなくなって”One of them”になってしまいます。

──野村さん個人が今後、渋谷で取り組みたいことなどあるのでしょうか?

渋谷が他のエリアと違うのは、街にユーザーがいるというところだと思っています。丸の内や虎ノ門はビジネスパーソンの街なので、サプライヤーしかいません。それに対して、渋谷にはサプライヤーとユーザーのどちらもがいます。

その強みを生かして、渋谷を実証実験の場として打ち出していきたいと思っています。感度の高いユーザーとサプライヤーが共存する街。新しいサービスを試すには、最も適した場所であって、こんな魅力を持つ街はここ以外にないと思っています。

──その他、実施したい取り組みはありますか?

渋谷には公共空間が少ないのが課題だと思っています。公共空間が少ないため、映画祭、ファッションショーのように半官半民でのイベント開催が困難です。

そのため、渋谷スクランブルスクエアの中央棟・西棟などにイベントもできるようなパブリックスペースを検討しています。パブリックスペースでイベントを開催することで、街全体が有機的につながり、”walkable”なまちづくりができると考えています。

渋谷から世界へ問いかける、可能性の交差点

──最後に、これからの渋谷に対する思いを教えていただきたいです。

都市は生き物であり、常に進化するものであると考えています。再開発前の渋谷は面白さを失いつつありました。それを改善するため、渋谷に人を戻すために渋谷スクランブルスクエアをはじめとした再開発が行われています。

結局は、このような再開発の繰り返しをしていくことが重要だと考えます。再開発を行っていくことに不安はあります。コロナの危機が去ったときに、渋谷がかつてのような賑わいを見せるのか不安もあります。しかし、新しいものは作っていかなけば都市は死んでいきます。死と生を繰り返していく都市をより面白くしていくためには、クリエイティブな人々が必要です。私たちは、QWSでの取り組みなどを通じて、若い世代のアイディアがより街に染み出すような環境を作っていきます。



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