クラブ、観客、地元DJの関係はより密接になっていく──ハノイのナイトクラブ「Club Savage」が考える、コロナ禍を超えた先に拡がるアジアのナイトカルチャー
いま世界中のクラブがコロナ禍によって危機に瀕しています。Night Culture Labではナイトカルチャーの再建に向けた動きを発信していく予定ですが、今回はベトナムのハノイにあるナイトクラブ「Club Savage」の共同創業者でありミュージックディレクターのStouky Samyと、共同創業者のJulie Miraにハノイの状況を聞きました。8月24日時点にて、ベトナム国内の新型コロナウイルス感染者数は1016人、死亡者数は27人となり、他の国に比べると感染者数を抑えられている状況にあります。
コーヒーショップ、ラジオ局、レコードショップを併設する「Club Savage」
──Club Savageのミッションを教えてください。
わたしたちのミッションは、地域の音楽好きが集まり、自分の好きなように情熱を表現できるクリエイティブな場をつくることです。クラブカルチャーを中心としたコミュニティを構築して人を集め、人と人との出会いと交流をつくる。最終的にはシーンが成長し、シーンの未来を担う地元の才能をプッシュすることに焦点を当てていきたいと考えています。
また、国際的な才能や地元の才能だけではなく、レコードショップ、映画の映写、芸術の展示会を通じて音楽や芸術の新しい可能性を発見できる場にしたいですね。
──現在のビジネス状況はどのようなものですか?
Club Savageでは、さまざまなアクティビティを提供しています。週末はクラブのみで、昼間はコーヒーショップ、オンラインラジオ局、レコードショップがオープンしています。
──なぜコーヒーショップやオンラインラジオ局、レコードショップなどを併設するのでしょうか?
ハノイにはエレクトロニックミュージックのレコードショップがないため、わたしたちの店が最初になります。ハノイではレコードを収集するのが大変なんです。さらに、音楽というのは夜の時間やダンスのためだけのものではありません。それ以上のものです。素敵な午後にコーヒーを飲みながら、お気に入りのレコードのアートワークについて話すことだってあるでしょう。
地元の新しいプロデューサーや才能に出会い、彼/彼女らと挑戦や夢について語ること。これは、夜のパーティーの喧騒の中では簡単にはできないことです。DJのなかには、ラジオ配信にて練習したり、自分にとって大切だけれどもダンスフロアのためにつくられたわけではない音楽を配信したいという方もいるでしょう。
わたしたちの目的は音楽の可能性をさらに広げ、音楽へのアプローチ方法や楽しみ方を変えることです。あらゆるタイプの個性と表現のための場をつくることもできます。
──ハノイのクラブシーンの特徴やアイデンティティとは、どのようなものでしょうか?
シーンは比較的新しく、観客はかなり好奇心旺盛で、まだ始まったばかりなのが特徴ですかね。
クラブへの補償はないものの、初期のロックダウンは最小限に
──ベトナムは新型コロナウイルスによる死者を少数に抑えられていますが、その理由をどのように考えていますか?
ベトナム政府は、国内で起こった以前のパンデミックの知識と経験により、迅速に行動してきたと思います。感染した人々を追跡し、彼らの親族を検査します。国境と学校はすぐに閉鎖されました。
──クラブ業界は新型コロナウイルスに対してどのような対策を取っていますか? 政府からのガイドラインはありますか?
初期段階からすべてのバーやクラブを閉店し、ステイホームを続けることでした。いまは第二波に直面しており、クラブを閉鎖しています。しかし、政府が対応してくれるようになってからは、生活はかなり早く元通りになりました。
わたしたちはこの3ヶ月間、ほとんど普通の生活が続き、人々は外に出て踊ることができました。国境が閉鎖されたという事実が、観光地や国の一部に大きな変化をもたらしました。多くのビジネスが倒産しています。
──どのように政府や行政と協力していますか? クラブに対する政府の補償はありましたか?
日々、政府の公式声明に従っています。クラブに対する補償はありませんでした。しかし、少なくとも最初は2〜3週間のロックダウンで済みましたね。
──クラブ運営者として、政府に改善してほしいことはありますか?
わたしたちの安全を守ることが優先されていたと思います。いまのところ、政府は仕事をしてくれていて、わたしたちはみんな感銘を受けています。政府からの連絡も明確なものでしたね。
──コロナ禍においてオンラインでのDJ配信が増えていますが、リアルな場の価値をどのように捉えていますか?
音楽、照明、そして、リアルな場での人々の交流という感覚に代わるものはないでしょう。それがクラブ文化の本質であり、とてもシンプルなことです。わたしたちはオンライン配信の体験と比較できない経験を実現するために、音響や照明システムなどのより良いセットアップを提供していきます。
クラブ、観客、地元DJの関係はより密接に
──ハノイのクラブシーンの未来をどのように見据えていますか?
どうやって回復すると思いますか? 国境が閉鎖されているため、クラブやプロモーターは明らかに地元のDJに大きく依存しています。シーンがますます厳しくなっていることは間違いありません。ただ、お客さんは非常に協力的で、クラブ、観客、地元のDJの関係はより密接になり、これはわたしたちのシーンの将来にとって良いことだと思います。
特にヨーロッパや北米では新型コロナウイルスでの死亡者数や感染症数が多く、De Schoolの閉店が発表されましたよね。
──De Schoolの閉店は悲しいニュースでしたね。わたしたちも記事を一本出しました。
インディペンデントなクラブを運営するというのは、リスクのあるビジネスなんです。改善の余地はありますが、騒音の苦情、政治的および財政的状況、あるいは健康問題など、多くの要因があります。いまはおそらく新しいプロジェクトを始めるのに最適なタイミングではありませんが、アジアの音楽シーンはここ数年で改善されていました。しばらくはいまのかたちの留まるかもしれませんが、市場はまだ飽和状態になっていないので、アジアにはまだまだ提供できるものが多くあると思います。
──日本において新型コロナウイルスの感染者数は増加しています。わたしたちに対するメッセージはありますか?
誰もが責任をもって、政府のガイドラインに従うべきです。楽な時代ではありませんが、わたしたちはみんな同じ船に乗っています。日本と世界の状況が良くなり、またすぐにみんなでパーティーができるようになることを願っています。
Photo by Club Savage