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都市を面白くするために、どうやってステークホルダーを動かす? 音楽で場所を探す「Placy」× ナイトデザインカンパニー「NEWSKOOL」対談

都市には文化が必要だ──。わかっている人には当たり前の概念だけど、いざ街を見渡してみると、どうでしょう。同じようなビルに、同じような店。とってつけた「カルチャー“感”」が量産される都市のなかで、なんとなくつまらなさを感じる。

そんな現状に、ビジネスとして継続的に取り組むスタートアップがあります。Placyは、『空間を感取して意味を創る』をビジョンに掲げ、人の感性データを組み込んだ都市開発を目指し、好きな音楽から店や場所を探せるアプリを開発しています。音楽を軸に「自分と似たような感性を持った人」が訪れた場所を見つけることができます。Placy代表の鈴木綜真さんは、都市にイノベーションを起こすためにナイトデザインを提唱し、このnote「Night Design Lab」を主宰するNEWSKOOL代表の鎌田頼人と同世代で友人同士という関係性。

今日は「都市×音楽」をテーマにしたスタートアップを率いるふたりの対談から、いかに文化を都市に実装できるのかを探ります。

(INTERVIEW BY YOSHIHITO KAMADA, TEXT BY SHINTARO KUZUHARA, EDIT BY KOTARO OKADA, ART DIRECTION BY HARUNA WATANABE)

都市に漂う「いい雰囲気」 を解析したい

鎌田 今日は都市×音楽の領域でこれからどんなチャレンジができるのかについて話せればと思っています。そもそも綜真くんはどういう経緯でPlacyを起業したんですか。

鈴木 就活に疑問をもって、海外に行ったことががきっかけになっています。京都大学で物理を専攻していたんですが、卒業をひかえ、やりたい仕事や入りたい企業が見つからない。このまま就活を続けるのは違うんじゃないかと考えて、とりあえず海外へ行くことにしたんです。

鎌田 どこの国へ?

鈴木 まずはバルセロナへ行きました。街なかをボーッと見ていると、観光客の行動が気になったんです。明確な目的を持たずにフラフラしているんだけど、同じくらいの年齢で同じような背格好の人でも、交差点を右に行ったり、左に行ったりする。それぞれ、楽しそうな雰囲気を見出していて、進む方向をなんとなく選んでいる。ということは、もしかすると “都市の要素” を定量化できれば、どんな人がどんな方向に行くのかシミュレートできるんじゃないかと思ったんです。本気でやってみようと思い、ロンドン大学UCL Bartlett School修士課程に進み、都市解析を学ぶことにしました。

でも、UCLに入学するまでに半年間ほど時間があったんです。お金もないし、旅もちょっと飽きてきたとき、音楽の著作権を管理するプラットフォーム開発のインターンシップをMIT Media Labが募集しているのを発見しました。とりあえずハッカソンに参加して、インターンとしてMIT Media Labに在籍することになりました。

鎌田 そこではどんなことを?

鈴木 音楽の解析です。例えばAがつくった曲をBがリミックしてYouTubeにアップした場合、再生数の収入はBにしか入らない。でも、Aにもきちんと分配されなければフェアではない。そこを改善できるように、音楽を解析してAにも収入が生まれるようにするプロジェクトでした。

鎌田 なるほど。音楽を解析する今のサービスにはその経験が活きているわけだよね。その後に進学した、UCLの研究は?

鈴木 性別や世帯年収、健康状態、交通量など、すでに分析が進んでいる要素を使っている人が多くて、みんな真面目だなぁと思いました(笑)。それは大事な要素だけど、新しい発見は少ないのでは、と。僕はまだデータになっていない要素の解析がやりたかった。僕が課題を感じていたのは、多くの都市が同じような風景になってしまったこと。スターバックス、H&M、マクドナルド…。これじゃあ、つまらないんです。そうじゃない都市に漂っている「いい雰囲気」を定量化できないかって考えた。バルセロナで考えていた「なぜあの人はあの曲がり角でまがったのか」への答えになるかもしれない、と。

ひとまず、インターンで得た音楽の解析のノウハウを活かし、音楽で都市を解析してみることにしました。いいメンバーにも巡り会えて、ひとまず、エリアの音楽情報を可視化することはできた。でもそこから先にいってみたくなった。つまり可視化したデータで、どう人の行動を変えるか、都市を面白くするかという実装の領域は研究ではカバーできない。だから起業を決めたんです。

「夜」の価値を都市に活かす

鈴木 いままでも何度か話しているけれど、かまちゃんがNEWSKOOLを立ち上げたきかっけは?

鎌田 夜の時間の “フラットさ” をもっと広く活用したいと思ったんだよね。僕の生まれは北海道の片田舎。肩書やバックグラウンドに縛られた田舎特有の息苦しさが嫌で東京大学に進学して、上京。でも東京も一緒だった。

鈴木 一緒だったっていうと?

鎌田 僕は当時、ラップやダンスをやっていて、いろんな友達がいたんだけれど……川崎の工業団地のラッパーだったり、美大生だったり。でも、そういった人たちと交わってる東大生はほとんどいない。社会の階層化、断絶は、あらゆる場所にあるんだと実感したんだよね。

一方、海外に旅に出ると日本での肩書を気にされることはなく「Who are you?」と聞いてくれる。それがすごく心地よかった。とくにクラブでは、肩書はもちろん、人種もジェンダーも関係なく、よりフラットでいられる。

それはきっと音楽のおかげだと思うんです。音楽にはさまざまな価値がある。音楽が好きな人なら「どんな音楽が好きか」についていくらもでも語れるし、他の音楽が好きな人と仲良くなれる。誰にとっても、音楽が鳴っているだけで楽しい場になるし、人をつなげることもできる。音楽はあらゆる人を結びつける。

鈴木 日本では、フラットな関係を築くことを肩書が邪魔をすることがあるよね。ついつい、自己紹介をするときも会社名や大学名とか肩書からスタートしちゃうし。でも、海外のクラブで「京大生です」と言ったってなにも伝わらない。

鎌田 人と人とをフラットにつなげる。これは「夜」がもっている価値。だから「ナイトデザイン」に注力し、街づくりにも関わっているんだよね。

鈴木 音楽はその場所の記憶と、深く結びつきやすいと思うんです。イントロが流れるだけで、とある場所を思い出して、また行きたくなるような曲ってたくさんある。逆に、音楽が好きな人にとって、音楽が鳴っていない場所や気を使ってない場所は記憶に残りづらい。

鎌田 歩いていれば都市の風景に、止まっていればスマホに目が奪われている。視覚は常に空いてない。でも、耳は空いている。都市という複雑で情報の多い場所だからこそ、聴覚に届く音楽の相性がいいのかもしれないよね。

鈴木 友人で、都市音楽家の田中堅大は「都市が持つ複雑性と同じくらいの複雑性を持つのが音楽」だって話をしていたんだけど、まさしくその通りだと思う。なにかを検索したいと思ったとき、複雑なこと、言葉に定義できない曖昧なことは探しづらい。都市も音楽も、複雑で曖昧で、自分の欲している雰囲気になかなかたどり着かない。そんな複雑な構造が共通しているんだよね。

「街の自己紹介」に失敗している

鎌田 旅をしながら世界のいろんな都市を見てきたけど、いまの東京についてどう思う?

鈴木 かなり均一化しちゃってると思う。昔、西日暮里に住んでいたけど、駅から離れないとおもしろいお店やバーはない。駅前は大手のドラッグストアやファストフード店ばかり。いわば “街の自己紹介” に失敗している状況。ベルリンには家賃の高騰を抑えて、いい場所に個人もお店を出せるようなルールを行政が整備していたりするんだけれど……。

鎌田 渋谷も同じようなビルばかりが立ち並んでいるよね。デベロッパー視点で考えれば、建物を立てて、いち早く売り抜けることが最優先。いくら「そっちじゃなくて、こっちだよ」と伝えたとしても、時間をかけてカルチャーを育てることや、クリエイティブシティといったキーワードには企業側がピンとこないんだよね。最近、都市開発に関わる人と話すときは「今の渋谷に、クリエイティブな人が集うのか?いいテナントが集まるのか?」と投げかけるようにしている。文化の重要性に気づける人が、行政やデベロッパーサイドに増えていかないといけないとも思う。仲間は多ければ、多いほどいいので。

鈴木 そうだね。渋谷の開発を見ているとデベロッパーは儲かる一方、地主の立場では困るのではとも感じる。勢いに任せて開発し、エリアの価値が下げてしまっているんじゃないかな。

カルチャーの価値を定量的に評価し、経済的にもメリットがあるという証明はすでに存在しています。リチャード・フロリダの「クリエイティブ資本論」に出てくる「ボヘミアン=ゲイ指数」によれば、地域の芸術家・音楽家・デザイナーの人口割合と、地域のゲイやレズビアンの人口割合が高いエリアは、文化度が高く寛容で、人口集中と住宅価格の高騰が起きるとされている。

こうしたリサーチは、研究者には共有されているけれど、生活者や企業には浸透してない。都市にカルチャーが必要であることを、より広く生活者にも根付かせていかないと。

鎌田 時間がかかるけど、必要なことだよね。

都市を面白くするために、C/B/Gをどう動かすか?

鈴木 おもしろい都市にするためには、C(Consumer)とB(Business)とG(government)で、それぞれに僕らが働きかけないといけないことがあるはず。例えば、Gには、見えていない価値を浮かび上がらせるような都市の指標をつくってもらう。Bにはそのデータや、新しく生み出された価値をつかって都市づくりに参加してもらう。Cに都市やサービスを積極的に使ってもらう。Placyでは、ぼくらがつくったサービスがCにつかってもらって「これだけのCが行動に移している」とBにプレゼンして、一緒に事業をはじめる。その動きがさらにGも動かしていくという順番で、未来を考えています。

鎌田 僕らもPlacyもちょうどいい位置にいると思う。これまでの経験からC、B、G、それぞれのステークホルダーとつながりをもっている。なおかつ、三者の目線を合わせて、フラットに話せる場をつくれる立場でもある。僕はちょうど「渋谷区観光協会観光フェロー」に就任したので、C、B、Gそれぞれと向かい合い、これからいろいろとやっていこうと思っているところ。

鈴木 僕らも、とある県と一緒にプロジェクトが始まっています。これまで研究ベースだったものを、もっと伝わりやすい形やネーミングで編集してCに届けることができるはず。つい、ちょっと小難しそうなことな表現にしちゃいがちなので、その都度軌道修正しているけれど(笑)。

鎌田 伝えたいことを相手に理解してもらうための“編集”って大事なんだよね。

鈴木 そのとおり。僕らは地図のサービスだから、地図という空間情報をいかに編集して魅力的に伝えるかが頑張りどころ。

鎌田 編集って、常識が異なるコミュニティ同士をつなげることができる。行政は指標を好む一方、カルチャー側の人達は指標化を嫌う傾向がある。「カルチャーを数値化するのか!」ってね。両方の言語が分かっている人が、お互いの言葉や価値観にあるように情報を編集して届ける必要があると思う。

夜の価値を伝えるためにも編集が必要。アムステルダムのナイト・メイヤーを務めたミリク・ミラン氏は「夜」の価値を3つに定義しています。 “ナイトタイムエコノミー”と言われる夜間の経済活動。 “ナイトカルチャー”という新しい実験的な文化が生まれる機会。 “ナイトソーシャライジング”と言われる、昼の肩書を忘れて交流を深める夜独特のコミュニティ。これについてどう考える?

鈴木 とてもおもしろいよね。夜の価値を漏れなく網羅していると思う。でも、この3つの定義はどうやって計測するんだろう?

鎌田 誰かを説得するためには、経済的な指標にするのがわかりやすいよね。

鈴木 経済の指標にもいろいろあって、宇沢弘文さんの『自動車の社会的費用』では「車の値段は車が社会に及ぼすネガティブな影響もふまえて決まらなくてはいけない」とされている。ナイトエコノミーの場合は、生活者があまり知らないポジティブな面があると思うから、それが表現できる指標を出せたら、夜の本質的な価値を、経済の側面から示せるかもしれないね。

あらゆる価値が経済的指標に収束する時代を変えていくために

鈴木 僕は、あらゆるものを図る上で、3つの大事な指標があると思っているんです。それは「経済」「文化」「生物多様性」。現状では、文化と生物多様性は、経済に変換しないと誰かを説得できない。でも、社会は変化していて、文化や生物多様性もとても大事な要素になっている。最終的には、3つそれぞれの重要性を同じくらいにしないといけない。

鎌田 企業のブランディングで言えば、人権や環境問題に配慮できてないと最終的にブランドの価値は下がるよね。環境が破壊されれば、経済活動だって成り立たないので、経済も文化も生物多様性も、それぞれが結びついている。今は経済が強いから、いったん経済を使って説得するけど、わかってる人は、ちゃんとわかってるよね。

鈴木 今はまだ「ちゃんとわかってる人」が少ないかもしれない。でも、僕らが35歳くらいになったら、分かる人は今よりもっと増えてると思う。

その一方で、僕らがこれまでのやり方に疑問を持っているように、今度は若い世代がNEWSKOOLダサいっすよとか、Placy古いっすよって、新しい価値を提案するようになるだろうね。

鎌田 そうやって新陳代謝が起きて、また楽しくなるはず。同世代、頑張っていこう!

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