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ビジュアルの力でニュースをより分かりやすく――グラフィックサポートの取り組み

様々なウェブメディアがしのぎを削る中、ネットニュースはより速く、そして正確に情報を伝える工夫が求められるようになりました。そこでYahoo!ニュースが今年の1月からスタートしたのが、グラフィックサポートです。

ヤフーのオリジナルコンテンツを対象に、記事の内容をグラフィックで分かりやすくするこの取り組み。早くも反響は上々で、1つのニュースに掲載されたグラフィックが他の記事でも使用されたり、SNS上で拡散されるきっかけになったりするケースも増えています。

では、ウェブで高い効果を発揮するビジュアルとはどのようなものか? グラフィックサポートのお2人に、取り組みの背景を聞きました。

取材・文/友清 哲
編集/ノオト

グラフィックの力で情報を早く、正確に伝える

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企画担当の金原洋子さんと(左)と、アートディレクターの染井直子さん(右)

「グラフィックサポートでは、Yahoo!ニュース 個人やTHE PAGEといったヤフー内のサービスが配信するオリジナル記事を対象に、記事内容をよりわかりやすく伝える図版の作成を進めています。取り組みがスタートして8カ月目になりますが(※取材時)、実際に掲載されたグラフィックの点数は、6月が15件、7月が30件と急速にペースアップしています」

そう語るのはグラフィックサポートの企画担当、金原洋子さんです。そもそもこの取り組みを始めたのは、Yahoo!ニュース 個人のオーサー(執筆者)の方たちや編集部からグラフィックを活用したいという要望が出ていたのがきっかけでした。

「例えば、Yahoo!ニュース 個人では、各ジャンルの有識者(オーサー)に記事の執筆をお願いしています。しかし、オーサーの皆さんはあくまで特定分野のプロフェッショナルですので、私たちのほうで、記事を分かりやすく見せるサポートができればと思っています。知見と専門性を活かし、執筆していただいた記事をさらにユーザーに理解しやすいコンテンツに磨き上げ、有意義な情報をできるだけ伝わりやすくするために、グラフィックを活用するというアイデアが持ち上がりました。ビジュアルの力によって発信力が高まれば、記事の価値をさらに高める相乗効果にも繋がると考えています」(金原さん)

グラフィックサポートではこれまで、表やグラフ、マップなど、テキストとイラストを独自のビジュアルにまとめて展開してきました。とりわけ話題を集めたのは、3月下旬に公開された感染症対策の専門家・坂本史衣さんの記事「新型コロナもう飽きた、でも感染は心配…今何をすればいいの?」の中で掲載されたこちらのグラフィックです。

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デザイン:佐島実紗さん

「記事の中で、ウイルス感染予防のために避けるべき3つの条件を、むんむん(密閉空間)・ぎゅうぎゅう(密集場所)・がやがや(密接場面)という擬音で表現されていたので、これはまさにビジュアル向けだと感じ、すぐに制作を進めました。するとこれが、小池百合子都知事が会見で『3密』という言葉を用いたタイミングとちょうど重なったのです。結果的に、『3密』という言葉が急速に社会に浸透していくと同時に、この図版も大いに拡散されました」(金原さん)

ちなみにこの図版はYahoo!ニュース トピックスでニュースの背景や解説、関連リンクを紹介している「トピックス詳細」や、Yahoo! JAPANのトップページで展開されていた「新型コロナウイルス感染症まとめ」のページでも紹介され、大きな反響を呼びました。

編集、企画、アートディレクター、デザイナーの四者が連携

グラフィックサポートがYahoo!ニュース 個人内での施策の一つとしてスタートした時、企画1人、アートディレクター1人、実際に制作をするデザイナーが10名弱、他の仕事の隙間時間に対応する体制でした。その後、少しずつ人員を増やして、この8月からは正式にプロジェクトチームとして発足。企画3名、アートディレクター3名で、グラフィック制作を進めています。

「ユーザー側の視点に立てば、オンラインで触れる情報量は増える一方です。1つの記事をじっくり読み込むよりも、複数の記事を次々にザッピングしていくような偏った読み方にならざるを得ません。そこでグラフィックによってひと目で内容が掴めることは、ニュースメディアとしても大きな強みになると考えています」(金原さん)

なお、出来上がった記事に合わせてグラフィックを用意するのではなく、コンテンツの記事を担当する編集者、具体的な図版の構成案を考え、要素をまとめる企画者、そして図版のデザイン面でのディレクションを行うアートディレクターと実際に制作をするデザイナーの四者が連携してビジュアル作りを進めていることも、グラフィックサポートの大きな特徴です。

「当初はテキストありきで進めるものも多かったのですが、最近では記事の大まかな内容が固まった時点で、編集者と企画、時にはアートディクレターが情報を共有し、具体的な図版の仕様を固めるケースが増えてきました。速報性の強いトピックなど、リリースしたい時期に合わせて迅速に対応できる体制作りに取り組んでいます」(アートディレクター・染井直子さん)

情報を正確に、分かりやすく伝えるための工夫

そこで何よりも大切なのは、ビジュアルで情報を分かりやすく、正確に表現すること。編集部やオーサーの意向を図版に反映させる過程には、知られざる多くの苦労があります。

「ビジュアル内に盛り込むテキストが多いほど、やはりデザインに苦労しています。単に用意された素材をきれいにまとめるだけでなく、情報の優先順位を適切に判断したうえで、できるだけ効果的な表現を心がけなければなりません。場合によってはスマートフォンの限られたスペースを想定して、可読性を維持するために文字量の削減をお願いすることもあります。また、何らかのデータを棒グラフで表現したいという希望があったとしても、円グラフのほうがより効果的であると判断した場合は、こちらから逆提案することもありますね」(染井さん)

その一つが、THE PAGEの「外食産業、売り上げ9割減も 各社模索、どうなる今後?」に掲載した、コロナ禍における飲食業界の売上高推移のグラフです。

当初は数字のみの表作成を依頼されましたが、より分かりやすくするために折れ線グラフで推移を伝える図を逆提案し、採用されました。

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業態別に色分けされ、それぞれの推移がひと目で確認できるデザインになっている(デザイン:奥田めぐみさん)

また、ジャーナリスト・小林恭子さんの記事「【#実名報道】日本メディアの落とし所は? 欧州では「匿名」のあり方に逆風も」のグラフィックも同様。もともとはシンプルな表だった国内外の実名・匿名報道への取り組み方を、国旗や色付けを行い、より分かりやすく伝わるように工夫しました。

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各国の取り組みがひと目で分かるように工夫を行った(デザイン:関口叔子さん)

また、最近では、著名人の自死のニュースに関連して、悩んでいる方を対象にした相談窓口のグラフィックの制作も行いました。年齢や時間帯によって異なる3つの相談先の電話番号を、以下のようにビジュアル化しています。

生きるのがつらいあなたへ、悩んでいる人を支えたいあなたへ

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いじめについて悩んでいたら

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悩んでいる方がその時、どこに相談するべきかがひと目でわかるようデザインされている(デザイン:田中淳子さん)

そのほかにも、8月15日の「終戦の日」に合わせて公開されたTHE PAGEの記事では、太平洋戦争の主な激戦地や時系列をマップで解説。こちらも分かりやすくポイントを取捨選択しながら「(青い線で囲われた)戦線範囲については、慎重に作画を進めました」と染井さんは語ります。

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太平洋戦争の流れが時系列で理解できるよう工夫されたマップ(デザイン:清水佑衣さん)

特に紙面と異なり、ウェブニュースではアクセスするデバイスがユーザー側に委ねられていることはデザインの面では大きなネックとなります。

「あらゆる画面サイズでの閲覧を想定し、縦スクロールでも見やすいデザインを意識しています。分かりやすい画像を制作することで、記事がよりたくさんSNSで拡散されたり、じっくりと読まれたりするのではないかと期待しています」(染井さん)

今後はウェブならでは、ヤフーならではの強みを生かして、表現の幅を広げていきたいと考えているとのこと。グラフィックサポートの取り組みの幅は、今後さらに広がっていくことになりそうです。

ビジュアル需要の急増に、体制強化が目下の課題に

「グラフィックサポートの目的は、ビジュアルの力で意図する内容をより分かりやすく伝えることです。しかし、それは数値だけで評価できるものではありません。定量的な面に加えて、SNSでの反響や定性的なアンケート調査などの定性的な成果を重視しながら、より良いコンテンツ作りを目指していければと思っています」(金原さん)

とはいえ、目下の課題は急増する依頼件数に対し、よりスピーディーに対応できる体制作りです。

「幸い、グラフィックサポートの取り組みは社内でも好評で、そのため依頼件数は増加傾向にありますし、複雑な図版の制作オファーも増えてきました。現在は他にも複数のプロジェクトを抱えているデザイナーが、隙間時間で対応しているので、今後は外部スタッフの登用なども検討していきます」(染井さん)

そうした対策を講じながら、プロジェクトメンバーが目指すところは、分かりやすいニュースサイトとしてYahoo!ニュースの名前が一番に挙がることです。

「記事の内容はもちろん、それに付随するビジュアル要素の精度を高め、誰もが短時間で理解しやすいコンテンツを作ることを最優先に考えています。その結果、ユーザーの皆さんから『やっぱりYahoo!ニュースの記事は分かりやすい』と思ってもらえるようになれば、グラフィックサポートの取り組みは成功と言っていいのではないでしょうか」(金原さん)

今後、ビジュアルが持つ力は今後ますます重視されるようになるはず。グラフィックサポートはそうした変化に対応しながら、進化を模索することになります。

なお、Yahoo!ニュースでは4月から、新型コロナウイルスの感染拡大防止に関するグラフィックを、利用規約を守っていただく前提で、どなたでも自由にダウンロードし、ご自身のSNSやサイトなどで活用できるよう解放中。これはYahoo!ニュースの別のプロジェクトからの提案で実現した企画です。

グラフィックのフリー配布は、ユーザーの皆さんの力を借りて必要な情報を拡散するための施策でした。Yahoo! JAPAN一丸となってコロナ対策に取り組む中で、他のプロジェクトからもこれらのグラフィックが重宝されました。たくさん使っていただき、大変ありがたかったです」と金原さんは語ります。

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これらのイラストは、SNSでも拡散されたほか、有志による新型コロナウイルスの情報をまとめたサイトに掲載されるなど、広く活用されています。

今後は、コロナ関連やYahoo!ニュース以外の、Yahoo! JAPAN内のメディア、サービスでもグラフィック活用を推進していく予定とのこと。有意義な情報を速く、分かりやすく伝えていくために、グラフィックサポート改め、グラフィックプロジェクトでは引き続き様々な取り組みを行っていく予定です。

※記事中の画像制作「Yahoo! JAPAN」

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