防空シェルターの少女-2
「質問があるんだけど……」という思わせぶりな突然のメッセージ。プロフィール写真はロシア系のくっきりした顔。フェイスブックのメッセンジャーを見て、「ヨーロッパにもさくらを使った出会い系があるんだ」と早合点して消去しようとし、指を止めた。アカウント名がジェレーナと同姓同名だった。
最後に会ったのは、1992年の9歳のころ。FBで彼女の名前を見たこのとき、2016年。24年も経って、どう数えても30過ぎ。プロフィール写真を見返す。ロシア系ではなく南スラブ系のはずだが、このメイクに幼い頃の面影を探すのは無理がある。
出会い系のさくらという疑いも拭いきれなかったが、「覚えているかい」と返してみる。
「覚えている」
という曖昧な文章がすぐに返ってくる。これでは本当に彼女なのか分からない。しばらく考え、防空シェルターの少女が3人写っている当時の写真を文章なしで送ってみた。
「私は真ん中、両わきは従姉妹」。
まさしく彼女だった。
FBでずっと探していて、ようやくそれらしき日本人を見つけたのだが下の名前がうろ覚えで、メッセージを送るときに自信がなかったらしい。
「こんな貧乏な国だから、外国からやって来るジャーナリストが友達というのが、昔から自慢だった」。
ジャーナリストなんかじゃない、ただうろついていただけ。ずいぶんと色付けされた記憶だと思う。
貧乏な国に生まれて相変わらず貧乏で、引っ越しもせず昔からの家に住んでいて、でも彼氏がいて幸せ。実は子どもが生まれそうで、その前に早く結婚しなくちゃ、もうすぐ34歳、と延々3時間、勢いよくメッセージが送られ続けた。子どもは昨年生まれ、息子だった。
「隣に両親がいるから」
と、写真も。両親、さすがに老けた。四半世紀という年月を一瞬にして帳消しにする現代の通信技術は怖いぐらいだが、でもありがたい。アジアに沈没している自分をかまってくれるヨーロッパ人なんて、彼女ぐらい。今年か来年には会いに行こうと思っている。
写真は当時のポジをスキャンしたもの。
彼女からの写真。