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ヨーロッパのコンパートメント式客車にて
記憶する限り、初めて撮った「外人」だった。記念写真として一緒に写ったのではなく、声をかけて自らシャッターを切った初めての外国人が彼女だった。
最近の鉄道事情を知らず、今も昔のような車両が走っているのかも知れないが、一世代も前のヨーロッパではいわゆる電車と呼ばれる車両は少数派。機関車が客車を牽く列車がほとんどだった。
客車はコンパートメント式で、中央ヨーロッパとその北は1コンパートメント6人掛け、南ヨーロッパ辺りは8人掛け。日本でいうボックス席がそのまま部屋になったような設計だった。コンパートメントで居合わせた乗客同士は、満席よりは2人3人といったまばらな人数の方が、会話を交わすことが多かった。
日本を出て数日しか経っていない5月の終わり、ヨーロッパではまだまだ肌寒い季節、イタリアのベネチアからスイスのベルンに向かう夜行列車に乗車。夜が明けるまでコンパートメントに1人、スイスに入った辺りだろうか朝まだ早い時間にオーストリア人という少し歳上の彼女が乗ってきた。
話した内容など忘れてしまっており、英語がほとんど出来ない頃だったのでたいした会話はしていないはずだが、彼女がふんふんと頷いてくれていたことは印象に残っている。写真を撮らせて欲しいと告げたとき、「メガネを外した方がいい?」と聞いてきた言葉は覚えている。
当時は「外国人」ではなく「外人」という呼び方が一般的だった。その外人は「金髪」と「青い目」ばかりだと思っていた若い頃で、目は青いのに髪は黒っぽい彼女が不思議に見えた。
写真は全て当時の紙焼きをスキャンしたもの。