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多少、元気をもらった感あり

2022年7月26日

 タイにすっかり馴染んだ日本人の仲間に誘われて入ってみた、東北部の歌謡曲を聴かせる店。平日とはいえ、夜8時半で先客3人というのは寂しい。

 ざっと見回す限り客席は200席ほど、客はうちらを含めて5人(後に日本人がもう1人合流)。従業員は少なくとも20人。歌い手も入れ替わり立ち替わり10人はいる。演奏はもちろん生で、5人が楽器を操っている。ギンギンの照明、光熱費はいくらだろう。利益どうのこうの、というレベルの話ではない。なぜ経営を続けていられるのか、と思うのだが連れの日本人は「週末は客が多い。コロナ禍を生き延びた店だから、潰れる心配はない」と断言している。

 歌い手は1曲ずつ歌い、2~3分で入れ替わる。しかしバックの演奏は絶えることがない。曲が終わってもそのまま次の曲の前奏に入る。低賃金重労働という言葉が相応しいとさえ思える。

 うちらが店に入って30分を過ぎた頃、20代前半らしき女子2人組の客が入ってきて、テーブルをうちらの目の前に定めた。座る前からハイテンションで、曲に合わせて体を揺らしている。この店が流す曲は東北部の歌謡曲。体が曲に反応するということは、彼女たちもやはり東北部出身と想像する。ビールを4本注文1本おまけで計5本テーブルに並べ、つまみのピーナッツさえ注文していなかったが、宴もたけなわといった頃にはビールがもう5本並んでいた。

 女子2人組が入店して15~20分経った頃ようやく曲が途切れ、演奏の5人も休憩に入った。しかし音楽自体は流れ続け、ディスコミュージックのごとくヒートアップしていった。彼女たち、もうテーブルに座っていられず立ち上がって踊り始める。「ディスコは入場料があるし、酒も高い。この店ならテーブルチャージもないし酒も庶民的な値段」という計算ではなかろうか。昼間は何の仕事をしているのだろう。割れるほどの音量の曲が響く、でも客が少なく白けたフロアで、高いテンションを維持する彼女たちの存在がどうしても気になる。

 10時ぐらいになると、数組の客が入ってきた。いずれも常連の振る舞いで、やっぱり固定客がいるんだなと思わせる。それでもうちらが退店した12時までに客は30人ほど。全くの赤に変わりない。

 客が増えて店内はより盛り上がってきた。女子2人組以外の客も音楽に合わせて踊っている。ステージには東北部の歌謡曲にありがちな、くじゃくの尻尾のような衣装の踊り子が登場。閉店は午前2時という話だが、11時を過ぎた頃には歌い手はステージを下りて客席を回り始め、グラスを持って客との乾杯を繰り返す。当然、酔っ払っている。歌い手に酒を注ぐなど、客のこちらが気を使ってしまう。

 みんな酔っている。女子2人組の1人がフラフラしながら、乾杯を求めてきた。隣の客も声をかけてきた。「あなたはどこの人? 私は東北の人」「日本人と結婚した親戚がいるの」「アメリカ人と結婚した親戚もいるの」と話す。連れの日本人2人を指して「この日本人は2人とも独身だけどどう?」と聞くと、「私、胸が大きいから」と自分の胸を撫でながら、返事にならない返事を残してテーブルに戻っていった。

 客はただただ酔っ払って楽しんでいる。店も一緒に楽しんでいる。日々の生活などそれでいい、と改めて思う。

 多少、元気をもらった感あり。

 

 

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