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ものづくりの街・蔵前を発信地に。「カキモリ」と知る、純朴な文房具の楽しみ方

東京・蔵前。下町らしい風情が残り、多くの職人が集まるものづくりの地として知られるその街の道端に、ぽつんと一つの文房具店があります。名前は「カキモリ」。

2010年のオープン以来、国内・海外から多くの人々が訪れ、文房具を楽しみ、そして帰っていく。そういった循環が生まれている空間です。

誰しも、幼い頃は鉛筆を片手に絵を描いたり文字を書いたりと、夢中で文房具と向き合う時間を過ごしてきたはずです。ところが、時代が変わり、私たち自身も成長するにつれてそういった“書く”時間が随分と減ってしまいました。

そんな書くことの楽しみを、改めて届けたい──。「カキモリ」のオーナーである広瀬琢磨さんは、文房具に宿るワクワク感を届ける担い手となり、今もなお邁進しています。そんな広瀬さんに「カキモリ」と文房具にまつわるストーリーを尋ねてきました。

あれもこれもと欲張りすぎちゃう“オーダーノート”の魅力

「カキモリ」は雑誌やWebなどの蔵前エリアの観光案内で目にする機会も多い文房具店。ここを目当てに蔵前を訪れる人もいるほどオープンからの10年で知名度を獲得し、愛されるお店として成長を遂げています。

その理由は、ここがただの文房具店ではないからです。とりわけ「カキモリ」らしさを作り上げてきたのは、独自に生み出した“オーダーノート”の取り組み。

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ノートのサイズ・表紙や裏表紙・中紙・リング・留め具などを選ぶことで、世界に一つだけのオリジナルノートが作れるサービスです。

中紙を選ぶことができるセレクトノートは世の中にも数多くありますが、これほどまでにあらゆる要素を自分好みにできるのは、文房具を知り、ものづくりが根付いた街に存在する「カキモリ」ならでは。

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さまざまな質感の紙を選んでいるだけでもとっても楽しい上に、選ばれた部材たちは目の前で製本されて手元にやってくる流れ。まるでファクトリーツアーのようでときめきます。

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自分のためにノートを作る人もいれば、大切な人への贈り物として作る人もいたり、仲良しの友人やカップル同士で作り合ったりなど、みなさんいろいろな気持ちで楽しんでくださっているのだそうです。今どきノートの贈り物だなんて、とっても粋ですね。

それと、もう一つ。「カキモリ」でオーダーできるのはノートだけではありません。

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万年筆やガラスペンなどに使用する“インク”も自分好みに調合できる空間が併設されているんです(「カキモリ」店舗2階、「Inkstand by kakimori」にて)。ここでは17色のベースカラーの中から好みのインクを2〜3種類選び、一滴、二滴……と調合。

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試し書きを繰り返してマイカラーを決めたら、ボトルに詰めて持ち帰りが可能。まるで理科の実験室のような気持ちで楽しめる上に、早く使いたくなるウキウキ感のお土産まで付いてきます。

こんな風に、ただ文房具を販売するのみではなく、文房具を通して感じられるエンターテインメント性が印象的なのが「カキモリ」。まるで童心に帰れるかのような広瀬さんのアイデア力に脱帽です。

試せる、遊べる、好きになる。「カキモリ」が届ける文房具のある空間

広瀬さんが「カキモリ」を蔵前にオープンしたのは今から11年前。群馬県のご実家が文房具店だったと、以前他媒体さんのインタビューで仰っていたのを目にしていたので、広瀬さんご自身も文房具が好きな方なのかなと思い取材に臨んだのですが……「実はあんまり愛着がなかったんです」と苦笑い。

「文房具が好きとかきらいとかそういうことを考える環境ではなかったんです。だって家に帰れば大量にあるのだから。けれど、文房具っていうものの需要が変わっていることは、当時、子どもながらに感じていました」

広瀬さんが幼い頃、世の中はバブル経済期。大量消費の文化が広まり、一つのものを長く愛する人が減ってしまっていることを、広瀬さんは肌で感じていました。

代々受け継がれてきた万年筆のペン先のみを交換しながら長くゆっくりと育てていくのではなく、新しいものを常に求めて、使い捨てのペンやインクをただ消費していく。そういう文化を間近で見ていた広瀬さん、寂しさと切なさを同時に感じたようです。

「大人になって、一度は外資系の企業に就職したものの心のどこかにそのわだかまりが引っかかっていて。商人の家に生まれたこともあり商売を手掛けることには興味があったので、親父の姿を見ていてなんとかしたいと感じた“文房具”を扱う店を作りました」

商いの土地に選んだのは古き良き文化を感じられる、蔵前。店を作る上では、人が抱くアナログへの漠然とした憧れを歓喜できる仕組みを生み出そうと試行錯誤しました。

「文房具ってこだわりたくてもなんとなくハードルが高いというか……ロマンはあるけれど門戸を叩きにくいジャンルのように思うんです。その価値観を少しでも覆すために、まずは身近に感じてもらいたいと思ってオーダーノートを始めたんです」

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その他にも「カキモリ」の素敵だなあと思うのが、店内ですべての筆記具や用紙が試し書きがOKなところ。普通、少しお値段の張る万年筆なんかはショーケースに入って販売されているお店がほとんどなので、なかなか気軽にお試しできません。でも「カキモリ」ならそれができちゃう。

「メガネ屋さんがメガネを売るときって、お試しいただけるようショーケースの中には入れずきれいに陳列していますよね。そこから着想を得てディスプレイ式の陳列を採用しました。文房具を楽しむための裾野を広げるサポートを『カキモリ』を通して行なっていけたらと思っているんです」

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「カキモリ」はお店に足を一歩踏み入れた瞬間から、すごく温かな雰囲気を感じる空間です。それはスタッフさんの面持ちやお客様の心持ちなどから生まれているものなのかなと思っていましたが、もしかしたら広瀬さんの願う文房具への想いが根底にあってこそのものなのかもしれません。

大量消費の波に飲まれない、本当に愛せる文房具を求めて

「カキモリ」を訪れるお客様の来店きっかけは、現在7割ほどが口コミなのだそう。メディアやSNSなどの効果も少なくありませんが、人のリアルな声を通じて「カキモリ」を知り、訪ねる人が多いのです。オープン当初と比較するとその総量は随分と増えたものの、広瀬さんの胸の中ではもっと大きな夢が膨らみ始めています。

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「オーダーノートは比較的多くの方に認知していただけているなあと感じていますが、オーダーインクはまだまだですし、文房具を好きになってくれている人口も体感まだ多くありません。

特に最近感じている課題は、作り手とお客様との間に求めている商品に対するギャップがあること。文房具の作り手は、未だに大量消費の時代に合わせたものを生産する傾向にありますが、お客様はそうではないことも多い。

要するに、セレクトして販売しているだけではお客様のニーズを満たすことができないと感じているんです」

……ということは?

「オリジナルの商品を作っていこうと思っています。第一弾がこの秋、完成予定です。今までは作られたものをセレクトしたり、組み合わせて販売してきましたが、今回生産を予定ているのは完全にカキモリオリジナル。“書くこと”に軸足を置きながらも、より一層文房具を愛してもらえる仕掛けを作っていきたいですね」

ものづくりに強い蔵前という土地の利点を活かして、職人さんとタッグを組んでの商品づくりに取り組んでいるのだそう。

文房具を愛する人々が作る、本気の文房具。どんなものが産み落とされるのか、来たるその日が今から待ち遠しくて仕方ありません。

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10月8日(金)〜10日(日)の3日間、渋谷・MIYASHITA PARKで「NEW POINT〜FACTORY〜」と題したポップアップイベントを開催します。当日は色や紙質を楽しむオリジナルインクやミニノートなどを販売予定です。

「カキモリ」が追求する良い文房具へのこだわり、インクや紙の愛し方など、本記事のお話の続きは会場にて尋ねてみてくださいね。ご来場、お待ちしています。

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