PERIMETRONやDAOKOも参加する原宿古民家。「街の没個性化」に対する答えは?
個性的な店が並んでいたはずなのに、気付けば大手チェーン店ばかりの街になっている。そんな「街の個性」が失われていった景色を、皆さんも見たことがあると思います。
これには、家賃が安くて便利なところに小さなお店が集まる→街に人気が出る→地価が高騰する→家賃を払えず大手しか残らなくなるという都市成熟におけるプロセスに原因があり、多くの街がそのプロセスを経て、姿を変えてきました。
「若いエネルギーや個性に溢れていた街の魅力を、そのまま未来に活かすことはできないか?」
2023年に原宿の中心地に新たな商業施設を建てる東急不動産も、そんな悩みを抱えていました。
そこでNEWPEACEは、「まだ知らない原宿」というコンセプトで、街が持っていたカルチャーの匂いを2023年の未来に繋ぐプロジェクトを提案。
アーティストレーベルDaPと手を組み、東急不動産の所有物件である原宿の古民家をプロデュースしました。
「アンノン原宿(UNKNOWN HARAJUKU)」として生まれ変わった古民家は、2023年に向けて、次世代のアーティストやクリエイターを巻き込みながら原宿のエネルギーを発信しています。
2021年9月には100組のアーティスト・クリエイターを招聘した「UNKNOWN GALLERY」、「UNKNOWN GALLERY SUMMER」と、立て続けにアートイベントを開催。King Gnuの常田大希さんが主宰するクリエイティブチームPERIMETRONやDAOKOさんなど、高い知名度を誇るアーティストもこれに参加しました。(一部のイベントレポートはこちら)
その後も12月現在に至るまで、定期的にイベントを実施しています。
今回は、「アンノン原宿」の仕掛け人であり、東急不動産と若手アーティストを結びつけたNEWPEACEのクリエイティブディレクター・田中佳佑(写真右)と、アーティストレーベルDaPのZiNEZ(ジンジ)さん(写真中央)、小野直樹さん(写真左)による鼎談を実施しました。
「アートやカルチャー」と「大手企業」という、接続しにくい両者を繋ぐ鍵はどこにあるのか。話の中から、「一つのビジョンを共有することの重要性」が浮かび上がってきました。
2023年に向けて、「これからの原宿」を発信する
――東急不動産という大手企業の所有物件でありながら、「アンノン原宿」はかなり自由度の高い展示やパフォーマンスを行っているのが印象的です。このプロジェクトはどのように始まったのでしょうか?
田中:最初に東急不動産さんから相談を受けたのは、2018年のことです。東急不動産さんは原宿の神宮前6丁目エリアに2023年度オープン予定の新たな大型商業施設に携わっているのですが、その施設の事前PRの依頼を受けたのがきっかけでした。
(2023年オープン予定の新商業施設の建設現場。表参道と明治通りの交差点という好立地で、「アンノン原宿」からも徒歩1分。この建設現場の仮囲いに、巨大な雑誌のようなレイアウトで未来の原宿に向けたメッセージを発信している)
ーーアンノン原宿を次世代アーティストたちの発信の場として展開しようとしたのには、どういった背景があったのでしょうか?
田中:東急不動産さんと話す中で、「原宿は本来、クリエティブに対する欲や憧れを引き出してくれる街」という共通認識があったんです。それを未来に残すために、古民家という「場」を借りて、表現で活躍しているアーティストやクリエイターを巻き込んで、カルチャーを発信する場所に育てていこうと。
それも、ただ「古民家でギャラリーをやっています」という見せ方ではなく、2023年に新施設がオープンする際にこの場所が「別館」になるような、独自のカラーをずっと残しておける場所にしたい。そこで、次世代のアーティストを集めて、この場のコミュニティ開発を進めることになりました。
――「アンノン原宿」のインスタを見ていてもわかりますが、本当に個性豊かなクリエイターやアーティストが名を連ねましたね。
田中:プロジェクトの真ん中にこの場所があるので、単純に有名なアーティストに出てもらえればいいってわけにはいかなかったんです。ジャンルを超えて、いろんな人が集まることが大事で。だから現時点で有名ではなくとも、尖ったメンバーを集めたかったんですよね。
僕の繋がりだけでそういった人たちを集めるのは限界があったので、友人であり現・DaPメンバーである小木曽詢くんに声をかけたんです。そこからDaPがアーティストレーベルとして立ち上がることになりました。
(アーティストレーベルDaPのWebサイト。DaPは「アンノン原宿」のプロジェクトをきっかけに発足することとなった。)
ーーDaPのみなさんの経歴を見ると、小野さんは映像制作、ZiNEZさんはフリースタイルバスケットボーラーと、バックグラウンドが全く異なっていて面白いと思いました。
ZiNEZ:DaPは全員が同い年で、みんな若い頃からよく原宿に遊びにきていたメンバーなんです。たくさんの時間をここで過ごしてきたけど、30代になった今、当時とは街の状況もかなり変わってきていることを実感していて。何かできないかな、とうっすら考えていたタイミングで「アンノン原宿」の相談をもらいました。
小野:このプロジェクトをやるに当たって名前はあったほうがいいよねってことで作ったチームではあるけど、この五人だったらなんでもできるし、コンパクトに動けるのかなと思っています。僕は映像制作をやってるから撮影ができるし、ZiNEZはパフォーマーだから表の顔としてメディアに出られる。あとは、広告代理店にいてプロデューサー業ができる人、バーチャルヒューマンをやっていてオールラウンダーに動ける人、みんな違うから、他の会社とはスタンスも違って日本だとまだ少ない新しい座組みのチームだと思っています。
ZiNEZ:Dapは考え方もメンバーそれぞれ本当に違う。僕はパフォーマーだし表に出る人間として生きてきたけど、彼は経営の立場で話すし。「会社は守り、カルチャーは攻め」だと思ってるから、意見も立場も違ってくる。でも、そこで意見を交わしていくことが今の時代は大事だし、そこから生まれてくるものこそ、原宿という街の可能性を広げるものになってくると思います。
今は無名でも、将来に期待できる人を呼ぶ
ーーこの場所で2度実施された「UNKNOWN GALLERY」ですが、アーティストの具体的な選定はどのように行ったんですか?
小野:まずはZiNEZと僕が知り合いのクリエイターやアーティストをバーっとリスト化して、そこからみんなの意見をもらいながら決めていきましたね。
ZiNEZ:イベントのコンセプトやキーワードは具体的に決めないようにしていたので、アーティストの選定も直感的でした。自分たちの周りのアーティストの中から世界で活動している人などを中心に声をかけるんですけど、結果的に盆栽アーティスト、書道家、グラフィックアーティスト、DJなど、いろんな人が集まりましたね。
小野:何らかのジャンルに偏ってしまうと、この場所のイメージすることとはちょっと違ってきちゃうし、いろんなカルチャーがクロスオーバーするように声をかけていました。
ーーこういう人を呼ぼう、こういう人は呼ばない、みたいなルールもなかったのでしょうか?
ZiNEZ:「わがままを聞いてもいいな」と思える人だけ呼ぶようにしていたかもしれないです。会場に対して多少リスキーな提案をされても、一緒にワクワクできそう、この人なら面白いことになりそう、と思える人だったら間違いないから。
小野:あとは、「この人は将来、絶対に価値がつくだろうな」はもちろん大事なんですけど、「生き様や、作品が純粋にかっこいい。」自分がシンプルにこの人の作品を数十万払ってでも買いたいかとうか。というところがポイントですかね。
小野:今の日本でアート市場をすぐに大きくしたり活性化させるのは、他国と比べても国の方針、文化やアートにかけている予算的にも難しいと思っていて、せめてこの場所だけはアーティスト・ファーストでやっていきたいとは思っているんです。アーティストがこの場所でやりたいと思うことは、できるだけ実現させる。「それはだめだよ」って言っちゃったら、彼らがやりたいことじゃなくなってしまいますし、それはクリエイティブじゃないと思うんです。大手企業が介入するとどうしても「あれだめ、これだめ」ってNGばかりになりがちですけど、そこは田中さんが頑張ってくれたから、ここまで自由にやらせてもらえてるんだと思います。
田中:アートにはその場の「ノリ」で生まれてくるものや、試行錯誤の結果で偶発的に生まれてくるものが絶対にあるし、それらをひとつひとつクライアント企業に確認したり許可を取ろうとしたりすると勢いや鮮度が損なわれちゃいますからね。そのあたりは東急不動産さんの懐の深さにも甘えさせてもらっています。企業が絡むと通常は「洗練」されていくことが多いですけど、アンノン原宿は「雑多」なままが理想だし魅力だと感じます。
ーー過去2回のイベントを終えて(10月時点)、印象的だった作品やアーティストはありますか?
小野:難しいなあ。みんな良かったですからね。三人くらいなら挙げられるかな。いや、三人っていうと逆に他の方達にトゲあるな(笑)
ZiNEZ:まだ、じっくり振り返るような段階まできていないのかもしれない。一番とか二番って数字じゃなくて、色で例えられるくらいかもしれないです。アーティストはそれぞれ違う形でこの場所をラッピングしてくれていたから、いろんな色が表れていました。
小野:みなさん全く違うジャンルやスタイルなので比べることはできないですが、強いて言えば、フェーズ1(2月開催)は書道家のマミちゃんで、フェーズ2(8〜9月開催)は盆栽のテッペイさんかなあ。特にテッペイさんの盆栽は、立体物なぶん、これまで多かったドローイングとは全然違う雰囲気だったし。日本から世界に向けて発信している感じも良くて、UNKNOWNのあの古民家の空間にすごくマッチしていたよね。
ZiNEZ:作品や人によって、この場所の雰囲気もびっくりするくらい変わるよね。古民家だからあんまり印象は変わらないかなと思っていましたけど、古民家ゆえに、照明や装飾次第でおどろおどろしくも爽やかにもなるし、研究室みたくもなる。面白いです。
田中:僕は個人的に、水墨画アーティストのCHiNPANの即興ライブがすごく良かったです。Tempalayのドラマーを務めているJohnNatsukiさんがCHiNPANさんのパートナーなんですけど、途中で合流して一緒に7時間くらい、即興で演奏したんですよ。まだ赤ちゃんの娘さんも入って、家族ライブみたくなっていって、あのフラットでカオスな感じはとてもよかったですね。
ZiNEZ:赤ちゃんがお父さんのシンセサイザーいじってるの、良かったなあ(笑)。しかもそれを、タダで見れるんですよね。街を歩いていて、突然芸術に出会える。それっていかにも原宿っぽい。誰の息もかかっていない、その場で作られるアートをたまたま目撃する。あの瞬間にしか切り取れないものがあったと思います。
街はマネタイズよりもアセタイズが必要
ーー大手企業の資本が入ることでお金の面では自由になる。ただ、大手の資本が入ることでカルチャーの色は薄れたり、押さえつけられるものもある。裏にも表にもなる大きな資本を、アンノン原宿はかなり理想的なバランスで維持していますよね。
ZiNEZ:まさに、大企業とDaPしてる。(拳を合わせる)
田中:え、DaPって「脱皮」って意味からきてるんじゃないの?
ZiNEZ:いや、脱皮もあるんですけど、拳を合わせることをダップって言うんですよ。そっちの意味でもあります。ダブルミーニングなの。
田中:そうなんだ、知らなかった(笑)
ーーきっとこの「資本の自由度」と「芸術の自由度」のバランスが成り立っているのは、NEWPEACEが「未来の原宿」のビジョンを提示して、それを東急不動産ときちんと共有できたからじゃないかと思うんです。一見、お金にならなそうな話だけど、長期的な視点で見たときに大きな価値になることを東急不動産も理解したから成立したんじゃないかと。
田中:東急不動産さんへのプレゼン資料に「マネタイズとアセタイズ」という言葉を入れ込んでいました。企業活動はマネタイズ(収益化)ありきの発想をしがちで、「アンノン原宿」についても「マネタイズはどうするのか」と今も多方面から言われています(笑)。そのこと自体は間違っていないですけど、街づくりにおける不動産の役割は、マネタイズよりもアセタイズ(資産化)に目を向けることが大切だと思っています。
田中:街自体が資産となり、そこに後から導かれるように生まれるのがマネタイズではないか、と。まだ完全に理解を得られたわけではないですし、理想論に過ぎないと捉えられる面もあります。でも、DaPと一緒に活動することで実態の伴った活動ができているし、原宿という街自体を盛り上げていくことが大切な時期ということは、東急不動産さんにも理解をいただいています。
――マネタイズを考えるのは企業活動としても自然なことだと思いますが、東急不動産さんとの摩擦はなかったのでしょうか?
田中:東急不動産の担当さんとは、クライアントと外注先という関係性よりもっと近く、同じチームのように一緒に盛り上げてもらっています。「インスタのフォロワー数、ようやく2000人いきましたね!」って一緒に喜んでいる感じで。役員の方も、ほとんどのインスタ投稿にいいね!してくれたりしています(笑)。大手企業であるにも関わらず、すごく柔軟に対応してくださっていますし、相手を「依頼主」のままにしない、一緒にやるという関係を構築できたのが良かったとは思っています。
--最後に、原宿という街に長く関わってきたDaPのお二人に聞きたいです。「原宿っぽさ」って、何だと思いますか?
ZiNEZ:僕は原宿・渋谷がフリースタイルバスケのパフォーマンスをしにいく場所だったから、つまり「戦いにいく場所」だったし、そもそも原宿・表参道ってオシャレな人が多いから「成功した人たちが調子に乗って生きている街」って印象があって、なんか嫌いだったんです。
でも、ブレイクダンスブームやたけのこ族といったカルチャーは、成功した人たちではなくそこで居場所を作った人たちが生み出したものなんですよね。ファッションやカルチャーは、行き場のない人たちの居場所を作ってくれる。だから原宿は大人が手出ししちゃいけない場所だし、常に偉い人がフレッシュで現状を変えたい若者に負けるべき街だと思っていて、何かを維持しようとするには向かない街なんじゃないかとも思います。
究極的には「アンノン原宿」も、俺らより勢いのある若手の人たちが「ダサい」って言って壊してくれるといいなと本当に思うし、そこから生まれてくるものこそが新たな価値になると思う。今の原宿は昔と比べて失ったものがたくさんあるけど、その下から生まれてくるものも絶対にあるから、自分たちがそこに関わって、新しい原宿の一ページに加わりたいなって気持ちです。
小野:全く同じ意見です。
ZiNEZ:絶対嘘でしょ!(笑)
小野:でも実際そうだよね。上手くいっている人たちが原宿に居座る必要はないじゃん。俺たちもここに墓地を立てているつもりでやっているし。変わらないことの方が罪になる街だと思う。でも、その一方で、今の若い子達は原宿に対してどう思っているのかわからない。だから若い子達に思い切りやらせるのが大事で、そこにルールを敷いちゃいけないと思う。それを具現化したのが「アンノン原宿」だし、そのスキームを作れるのがDaPであり、NEWPEACEなんだと思います。
原宿という街に描きたいビジョンを共有しつつ、街づくりの根底にある「アセタイズ(資産化)とマネタイズ(収益化)」を説いて、クライアントを巻き込んでいく。
アート/カルチャーとビジネスという馴染みにくい二つの要素を共存させ、共創させるNEWPEACEとDaPの挑戦は、来年はもちろん、2023年以降も続いていきます。
※最新のイベント/ギャラリー展示情報は、UNKNOWN HARAJUKU公式インスタグラムをご覧ください。
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